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別海町草競馬

  • 2014年09月24日(水) 18時00分
レース風景

別海町草競馬レース風景風景



サラブレッドの主要生産地でである日高でさえも草競馬を取り巻く環境はかなり厳しい

 秋本番を迎えた北海道は、さまざまな農産物や海産物が店に並べられる収穫の秋でもある。20日(土)、21日(日)あたりは各地で秋の味覚を楽しむためのイベントがいくつも開催されていて、どこも大変な賑わいであった。

 道東の別海町では、恒例の産業祭が町村広場にて2日間にわたり開催され、地元で獲れた海の幸や山の幸を買い求めようと周辺から数多くの人々が集まった。

 今年で45回目を迎えるこの産業祭の一環として毎年人気を集めるのが、町村広場の一角にある特設競馬場で行われる「馬事競技大会」だ。こちらは今年で41回目。土曜日に平地(繋駕競走を含む)、日曜日にばんえいという番組である。

別海競馬繋駕

別海町草競馬で行われた繋駕競走風景



 一周1000mのダートコースの中にばんえいコースが併設されており、形態としてはかつての旭川競馬場や岩見沢競馬場に近い。道東では依然としてばんえいの方が高い人気を集めており、別海のみならず、弟子屈(てしかが)町や釧路市、鹿追町など今でもばんえいに限るならば各地で草競馬が開催されている。

 今回は残念ながら日曜日まで滞在できず、土曜日のみの観戦になった。土曜日の部は「乗馬競技」と表記されており、全17レースが組まれている。因みに日曜日の「輓曳競技」は全21レース。二日間で38レースもの番組が予定されている。

 土曜日の朝、8時半から受け付けが始まった。全道各地から続々と人馬が集結して・・・・と言いたいところだが、17レースの割には人も馬も少ない。毎年お馴染みの常連が大半で、新たな顔触れはあまりいない。日高からはいつものように浦河ポニー乗馬スポーツ少年団が馬7頭を連れて遠征していたが、それ以外は地元道東の人馬が中心である。これで17レースも消化できるのか?というような頭数なのだが、それが「できる」のだ。後述するが、ポニーもトロッターも、ここでは同じ馬が3回くらいずつは出走する。因みにエントリー料は土曜日の乗馬の部は3000円、日曜日のばんえいは5000円である。

 開会式は午前10時。走路で調教中の馬がいる中を、背広姿の地元の名士が20人近く集まり、馬場内に建てられた本部の前で開会式が始まった。並んでいるのはそれぞれの部門でお手伝いをする農協や町役場などから動員されたと思しき作業衣姿の集団。出走予定馬の関係者は誰一人として参列していない開会式なのである。

開会式

馬場内に建てられた本部の前で始まった開会式



 二日間を通して実況を担当するのは迫田栄重アナ。草競馬には欠かせない人で、道内各地で行なわれるばんえい草競馬は大半をこの人が実況している。第1レースは10時20分の発走。トロッター2歳速歩2000mからレースが始まった。このレースは出走馬が3頭。距離2000mは馬場を2周する。ゲートはなく、各馬は鼻面を揃えて横並びで発走する。各馬がゴールすると、ただちに決勝審判係が着順を記録した用紙を本部に届け、待機する賞状係にそれを手渡す。賞状係の男性2人が毛筆ですぐにその場で馬名と騎手名を書き入れる。2人ともかなりの達筆で、賞状が出来上がったらその場ですぐに表彰式となる。賞金と賞品がその場で優勝馬の関係者に手渡された頃には、次のレースの出走馬がスタート位置近くに集まっている。午前中の約1時間半の間に、8レースがこうした流れで次々に発走し、消化されて行った。

表彰式

その場で書き込まれた賞状を受け取る表彰式の風景



 第2レース5頭(ポニーキャンター1000m)、第3レース5頭(トロッター速歩Cクラス2000m)、第4レース7頭(F1キャンター2000m)、第5レース4頭(トロッター速歩Bクラス2000m)とレースが続く。F1とは雑種第1世代の意だが、サラブレッドっぽい体型の馬もいれば、ドサンコの血をひく馬もいて、見ているとバラバラだ。当然、能力差も甚だしく、同じレースに出走させるべきなのかと疑わしくなるようなメンバー構成であった。

ポニーキャンター

別海町草競馬で行われたポニーキャンター風景



 第6レースははまなす乗馬クラブ限定、また浦河ポニー少年団限定のレースもある。かつては、「ムツゴロウ」こと畑正憲さんの牧場メンバー限定のレースなども存在したらしい。もっとも、聞いたところによれば畑さんを勝たせるためのさまざまな仕掛け(不正とは言わない)が横行していたともいうが。

 第8レースが終了したのは11時50分。そこから昼休みとなり、第9レースは午後1時からのスタートである。昼休みに広場を散策して軒を並べる露店を見て歩いた。農産物直売の露店や蟹、サンマなどの海産物を売る店、テントいっぱいにうずたかくあらゆる古着を山のように積み上げて早い者勝ちで商う古着屋さんもいる。また酪農の町らしくさまざまなチーズを並べる店もあれば、玩具屋もある。一頃よりも減ったとはいえ、町を挙げての盛大なお祭りなので、露店の数が多く、広場の一角に設置された舞台では学校や団体がかわるがわる登場し演し物を披露している。多くの人々が行き交う。かなりの賑わいである。

露店に並んだ海の幸

露店に並んだ“海の幸”


地元高校吹奏楽部の演奏

地元高校吹奏楽部の演奏



 さて午後の競馬。午前中に速歩レースに出走していたトロッターたちは午後、繋駕レースに出場してくる。日本一競技人口の少ない種目とも言われる繋駕は日本ではもうこの道東でしかお目にかかれなくなった“絶滅危惧種”だ。

 そのトロッターたちは、速歩と繋駕、そして最終第17レースに、各クラスの全頭が揃った12頭立てで3度目の出走に駆り出されていた。

 午前中と同様に進行がひじょうに早くスムーズなので、午後2時半過ぎにはすべてのレースが終了した。今年は目立った事故もなく、乗馬競技は平穏のうちに幕を閉じた。

最終17R

最終17Rに行われたトロッター無差別級12頭立て



 できれば日曜日のばんえいの部も見たかったが、丸二日間滞在するのはやや厳しく、またの機会に譲ることにした。もしこの時期に北海道を訪れる機会があれば、ぜひこの草競馬をご覧頂きたいと思う。道東の草競馬は中標津町にて8月末に、そしてこの別海町で9月のこの時期に開催されていたが、中標津町は昨年でついに休止せざるを得なくなった。

 資金難や運営母体の面々の高齢化などが主たる理由だそうだが、年々出走馬が減少してきていたことが最も大きな原因らしい。別海町の場合は町を挙げての一大イベントなので早々に廃止する心配はなさそうだが、草競馬を取り巻く環境はかなり厳しい。何より、サラブレッドの主要生産地でありながら、日高でも今や草競馬が開催されているのは浦河(浦河競馬祭)のみ。その意味では繋駕と同様に、草競馬そのものが絶滅危惧種と言えそうだ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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