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大きなポイントの1つは「ペースを作るのは誰か」、凱旋門賞展望

  • 2014年10月01日(水) 12時00分


典型的逃げ馬は1頭もおらず、カギを握るのはルーラーオヴザワールド

 欧州芝2400m路線の大一番、G1凱旋門賞(10月5日)の開催が間近に迫っている。

 大きなポイントの1つは、いったい「誰が」ハナを切り、「どんな」ペースになるのか、だ。

 出走有力馬の中に、典型的逃げ馬は1頭もいない。逃げて勝ったことのあるのが、9月14日のG2フォワ賞(芝2400m)におけるルーラーオヴザワールド(牡4、父ガリレオ)だが、多くの皆様が御存知のようにこのレースにおける同馬が見せたのは「意表をついた」逃げで、昨年のG1英ダービー(芝12F10F)は後方からの追い込みで制している。

 実はもう1頭、ハナを切る可能性があったのが、7月13日のG1パリ大賞(芝2400m)を逃げ切っているギャランテ(牡3、父モンジュー)だったのだが、同馬は出走回避が決定。その一方で、G2ニエル賞勝ち馬エクト(牡3、父ハリケーンラン)のエリー・ルルーシュ厩舎がモンヴィロン(牡3、父ルアーヴル)をいう馬を登録してきたから、ハナを切るのはおそらくモンヴィロンになろう。だが、同馬の能力を考えるとさほど速い流れにはならず、各馬が固まって脚を溜めつつ勝負どころへ、というのが、最も可能性の高い展開である。

 ただし、想定されるシナリオは、あと2つある。

 1つは、前出のルーラーオヴザワールドが、チームオーダーによって淀みのない流れを作るという局面だ。

 凱旋門賞のスポンサーであるカタールの王族ジョアン・殿下の競馬組織アルシャカブ・レーシングは、ルーラーオヴザワールド、エクトに、前年に続く凱旋門賞連覇がかかるトレヴ(牝4、父モティヴェイター)を加えた3頭出しの予定だ。このうち人気上位のエクトとトレヴは末脚勝負の馬で、彼らにとってはハイペースが好ましい。そのため、格下のモンヴィロンが早めにバテた場合は、先に行けるルーラーオヴザワールドが動いてハイペースを維持する可能性が指摘されている。

 御手馬の重なったG・ブノワ騎手がエクトではなくアヴニールセルタン(牝3、父ルアーヴル)を選択していれば、エクトに騎乗する可能性もあったトレヴを降ろされた名手F・デトーリ騎手が、自らの騎乗馬ルーラーオヴザワールドにも勝機があるにも関わらず、いわば捨石のような役割を果すものだろうか、との見方も出来る一方で、ペースを作るという責務を負わされたデトーリが、持てる技術の限りを尽くしてルーラーオヴザワールドを持たせてしまう、という場面まで想定されておかしくはない。

 残るもう1つのシナリオは、ルーラーオヴザワールドには、アルシャカブの主戦騎手であるF・デトーリではなく、管理するA・オブライエン厩舎の主戦騎手であるジョゼフ・オブライエンが騎乗する、という可能性だ。前哨戦のG2フォワ賞当日は地元アイルランドで騎乗予定があったジョゼフだが、凱旋門賞当日は体が空いている。A・オブライエン厩舎からは、昨年のG1愛オークス(芝12F)勝ち馬チキータ(牝4、父モンジュー)も凱旋門賞にエントリーしており、この馬にジョゼフという可能性もあるのだが、もしもルーラーオヴザワールドにジョゼフが乗るのであれば、ルーラーオヴザワールドは自分の競馬に徹するはずだ。

 オブライエン陣営は、現地水曜日に予定されている追い切り後に騎手と決めるとしており、まずはその発表を注視したいと思う。

 現地時間の3日午前に行なわれる枠順抽選の結果にもよるが、日本馬の位置取りは、ゴールドシップ(牡5、父ステイゴールド)とハープスター(牝3、父ディープインパクト)は、中団より後ろに控えることになろう。

 一方で、予測がつきづらいのがジャスタウェイ(牡5、父ハーツクライ)で、G2中山記念(芝1800m)の時にように先行馬の直後につけるか、G1ドバイデューティフリー(芝1800m)の時のように前半は後方に控えて末脚勝負に出るか、鞍上・福永騎手を筆頭とする陣営の思惑次第である。2400mという距離をこなせるかどうかが最大のポイントと言われているのがジャスタウェイで、前半はじっと動かず後方で脚を溜めるというのが、スタミナに対する不安がある馬が取りがちな戦法だ。一方で、陣営に距離克服への確信があって、勝つ競馬に徹するなら、前目につけることもありうる。私は、ジャスタウェイは後者の道を選ぶと見ているのだが、果してどう出るか!?

 その他の上位人気馬は、どの辺りにポジションを取ることになるのか。

 G1キングジョージ(芝12F)では後方からの競馬となったものの、ペースを考えるとここはG1英オークス(芝12F10y)を勝った時のように、ある程度は前目につけそうなのがタグルーダ(牝3、父シーザスターズ)だ。

 同じく、G1セントレジャー(芝13F132y)では差して勝ったものの、ここは2着となったG1英ダービー(芝12F)の時のように、好位で競馬をしそうなのがキングストンヒル(牡3、父マスタークラフツマン)である。

 2400mの距離にメドが立ったエクトも、前走よりは前目につけての中団になりそうだ。

 前半は後方に控えるのが、アヴニールセルタンとアイヴァンホーウィー(牡4、父ソルジャーボロウ)だ。昨年の再現を狙うトレヴも、後方からの競馬になろう。

 日本馬3頭を含む有力馬たちが、そんな隊列でフォルスストレートから直線へ。

 そこから抜けて来るのは、果してどの馬か。その瞬間、ロンシャンの放送席で、日本馬の名前を絶叫している自分でありたいと、切に願っている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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