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「自分を反省し僕にしかできない騎手になりたいと思う」柴田未崎騎手にインタビュー

  • 2014年10月14日(火) 18時00分
競馬の職人

柴田未崎騎手



柴田未崎騎手「感謝の気持ちを忘れないで自分を信じて強い心で騎手をやっていきたいです」

 10月11・12・13日の3日間開催でしたが台風の為京都開催が14日に延期になりました。10月に2週続けて大型台風が来るなんて異変を感じませんか? 皆さんの地方は大丈夫でしたでしょうか?

 10月12日には京都競馬場で佐藤哲三騎手の引退式が行われました。僕は“佐藤哲三騎手”という競馬会の台風が去るような思いがしました。

 同じ大阪出身ということもあり、僕も佐藤先輩には個人的に大変お世話になりました。デビューしてからずっと馬の気持ちを考えて馬に乗って行きなさいとアドバイスしてくれました。なかなか馬の気持ちを見抜くのは難しいのですが、哲三さんには、それがわかるのです。

 手綱を持っていると、ハミを通して馬の動きや仕草が伝わってくるんです。引っかかるとよく言われるのは、馬がもっと走りたいと訴えているんですが、距離や馬の体力などを考えてレース配分していくのが騎手の仕事。

 まだ行ったらだめだよ、となだめながら競馬のレースの仕方を教えていく。そんな感じ方を早く肌で感じて感触をつかめ、とおしえてくれました。

 競馬以外でも騎手の野球チームを作って厩務員チームや吉本の若い芸人たちと試合をしたりいろんなことにチャレンジしてくれました。とってもたよりになって頼もしい人でした。

 これからは、ファンの皆さんに競馬の楽しみ方を教えてくれるでしょう。秋華賞から日刊スポーツ紙で「哲三塾」が始まるそうです。たのしみですね。僕も塾生になりたいと思っています。

 今週は、僕と同期の柴田未崎騎手です。騎手人生にピリオドを打つ人、そして復帰する人の心境に迫ってきました。彼が再度騎手を目指しチャレンジした苦悩をたっぷり聞いてきました。

常石 今日は、よろしくお願いします。栗東で会えてうれしいです。何年ぶりかな?

柴田未 やー、常ちゃん久しぶりだね。同期だけど競馬場で会ってもすれ違いになったりして、なかなかゆっくり話もできなかったね。10年いや15年ぶりぐらいかな?

常石 早速ですが、騎手に復帰しようと思ったきっかけはなんだったんですか?

柴田未 引退騎手の再受験が認められるようになって技術試験の免除など条件が緩和されることを知り、もう一度チャレンジしたいと思ったことがきっかけですね。

 助手の仕事は何と言っても馬の健康を優先し、いろんなことを一つ一つ教えていく。どのレースに合うのか見極めていくことも大事になってきます。レースに向けて上手く調整できたときは、手ごたえを感じ期待がかかります。レース後も馬体のチェックに細心の注意を払いました。そして勝ったときは、嬉しかったですが、何か物足りなさを感じていました。

 調教師の試験も受けましたが、まだ早いかなって感じと他にやることがあるだろう、と思いました。

 妻に相談すると「このままでは悔しいと思わないの?」と言われ、出来ることはどんどんやったらいいと後押しをしてくれたので決心しました。騎手をやめるころに結婚したので家族を守らなければと思っていましたがその一言が後押しになりました。

常石 調教助手をしながらの試験勉強は、大変だったでしょう。

柴田未 斉藤きゅう舎で助手をしながら、昼の空いた時間に勉強をしました。やれることは何でもしようと思いました。(騎手復帰に向けて)体力作りもしましたよ。

常石 すごいなー。大変だったでしょう。

柴田未 でも決めた以上は、必死でやりましたね。騎手として復帰しても簡単ではないことはよくわかっていますから。でもやらないで後悔するよりは、チャレンジしたかったしね。

 合格後は、3年というブランクがあったから大変というより不安の方がありましたね。

 今後はプロフェッショナルだということを忘れないで真っ白な気持ちで続けていきたいと思っています。騎手としての体作りもしましたが、心も強くないとやっていけないと思っています。なかなか結果を出せないからモチベーションを維持するのは厳しいですね。

常石 栗東へ来たきっかけは、なんですか?

柴田未 いま僕の立ち位置は厳しいと思っています。自分の中で変えていかなければいけないことが山積みだと思いますし、殻の中に閉じこもらないで新しいことにチャレンジすると共に初心に帰って栗東の調教も勉強したいと思い田所秀厩舎にお願いしました。他にも森田厩舎など手伝っています。乗せてくれるのはありがたいことです。

常石 田所厩舎へ来られたきっかけは?

柴田未 関東で同じ厩舎で働いていた厩務員が田所厩舎にいるので紹介をしてもらいました。一頭でも多く乗って恩返ししたいと思っています。甘くはないと思うけどやっぱり勝つことが大事ですね。

常石 そういう人とのつながりはうれしいですね。助手を経験したことで馬作りには役にたつことが多いでしょう。

柴田未 馬に乗る人から作る側になって、馬の体の作りから飼葉一つでもいろいろあることなど知らないことばっかりでした。デビューの時は何もわからないまま馬に乗っていたんだなと恥ずかしい気持ちになりましたね。

 助手を経験したことで、馬に乗る時の気持ちが変化し一鞍一鞍無駄にはできない真剣勝負、と以前よりも強く感じるようになりました。また、馬の脚元を触った感触で脚もとの変化に気づくことができるようになりました。

 西と東とでは、競馬までの過程は違いますがそれぞれの風土や気候などにあわせてやっているので内容は変わらないと思いますし、こちらでは乗り役の感性を大事にしてくれるのでとっても乗りやすいです。

 お世話になっている田所先生は騎手時代に関東にもいたことがあるので(東西の)違いもよくわかっていらっしゃるので、先生の考えていることは理解しやすいです。お世話になる際には、馬にかかわる人の思いや1勝にかける重みを感じてもらったらいいと僕に話してくれました。

常石 美浦と栗東では、調教の違いはありますか?

柴田未 そうですね。そう大きな変化はないですが、坂路調教がいいですね。輸送も楽ですね。テンからズバッと走るケースが多いように思いますし、関西馬のほうが力強い気がします。

 あと、栗東は人が温かいですね。7月27日福島競馬場で初勝利を挙げることが出来てうれしかったんですが、泣かないでおこうと思ったが自然と涙が出て止まらなかった。今思うと恥ずかしいですね。

 その2日後に栗東へ来たんですが会う人会う人みんな「おめでとう」と言ってくれるんです。それだけでモチベーションが上がりまた頑張ろうと思いました。厩舎の人たちも親切にしてくれています。

 今、僕の置かれている状況はとっても厳しいと思いますが、あえてその状況を受け入れていくことで自分のモチベーションを上げられると思っています。

 そして生活がしやすいです。ここへは単身赴任で来てるでしょう。独身寮でお世話になっています。買い物や食事に行くにも便利だし、たまに愛犬に会いに美浦へ帰るときも交通が便利だから助かります。

競馬の職人

ヴァンデミエールで復帰後初勝利を挙げた柴田未崎騎手(撮影:下野 雄規)



常石 せっかく栗東にいるので関西の同期とご飯食べに行こう!

柴田未 この間、和田が言ってたんだ、久しぶりに行こうかって・・・。楽しみにしていますよ。

常石 いい話いっぱい聞かせてもらって僕も何かやらねばと実感しました。未崎とちがって騎手には復帰できなかったけど障害者乗馬にチャレンジしています。乗馬ってやっぱり難しいな。なかなか座れなくてうまく反動が抜けないんですよ。でも馬に乗れることがうれしくてチャレンジしてます。

 先週台湾でレースに参加してきました。あまりいい成績は挙げられなかったけど表彰してくれてうれしかった。やっぱり認められるのはうれしいですね。

 最後にファンの方へメッセージをお願いします。

柴田未 プロとして結果を出さなければいけないと思っています。応援してくれる人たちに応えていきたいです。

 あと、感謝の気持ちを忘れないで自分を信じて強い心で騎手をやっていきたいです。毎日10個の感謝を見つけて言葉にしています。たとえば、今日も馬に乗せてもらえる。ありがとう!おはようとあいさつができる。そんな簡単なことに気付かなかった時があった自分を反省し僕にしかできない騎手になりたいと思います。

 まだまだ未熟ですが応援よろしくお願いします。

***
田所秀孝調教師からも応援のメッセージをいただきました。

田所秀孝調教師 僕のところで何ができるかわからないけど未崎騎手自身がつかんでほしい。せっかくつかんだチャンスを大事にしてほしいですね。頑張ってもらえたら嬉しいですよ。

柴田大知騎手にもメッセージをいただきました。

常石 未崎騎手が難しい試験を突破し見事に復帰を決めましたね。応援メッセージをお願いします。

柴田大 凄いよな。尊敬します。でもこれからは試験よりもっと難しい実践が伴っていくので踏ん張ってほしいと思う。

常石 何かアドバイスはありますか?

柴田大 特にはないけど、自分の目でみて確かめ一つ一つつかんでいってほしいと思います。ライバルになりますからね。これ以上は言えませんよ(爆笑)。僕もぼんやりしていられないですね。ライバルがまたひとり増えるんですから(笑)。

常石 同じゲートに並ぶなんていいですね。楽しみにしています。ありがとうございました。12期生でお祝いしなくてわね。

柴田大 未崎が納得いくレースをした時が本当の復帰だと思う。その時にみんなで祝っていただけたらうれしいです。

常石 やっぱり兄貴やな。いい関係なのでうらやましいです。

***

僕の知らない未崎騎手を発見することができうれしかったです。がんばれ!!応援しています。つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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