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小崎綾也騎手(3)『痛恨のアクシデント、同期から1か月半遅れのデビュー』

  • 2014年10月20日(月) 12時00分
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▲同期の松若騎手(中)義騎手(右)のデビューに眼帯姿で駆け付けた小崎騎手

ここまで順調に勝ち星を積み上げている小崎綾也騎手ですが、デビュー前に骨折というアクシデントが襲います。調教中の怪我で、デビュー延期は避けられない状況。3月1日にデビューする同期を現地で応援しつつ、その場に立てなかったことに対して悔しさや焦りを感じたと言います。もどかしい状況をどう乗越えたのか。そんな心の葛藤と、改めて感じた競馬への思いを語っていただきます。(取材:東奈緒美)

ただ悩むだけか、意識を変えてデビューに備えるか


 ここまで順調にきている小崎騎手ですが、デビュー前に大きなアクシデントがありましたよね。調教中に眼底骨折。騎手免許交付の直前でしたから、すごく心配なニュースでした。

小崎 2月19日のことだったので、3月1日のデビューには間に合わないってわかって焦りました…。追い切る前の軽い運動で馬に乗っていたんです。馬って頭を振ったりするんですけど、それが顔に当たってしまって。右目の下、ここを眼底って言うそうなんですが、ここの骨が折れてしまって、切って手術したんです。

 傷は全然残ってないですね。お化粧で隠しているわけじゃないのに(笑)。

小崎 ホント、今の医療技術ってすごいなと思いますよね。痛みも今はまったくないですし。でも、その当たった瞬間は痛いと思いましたし、右目の焦点が合わなくなったんです。左目は普通なんですけど、右目だけ上を向いている感じで。まばたきをしても直らないし。でも、目をこすっても血はついていなくて。

 それって、どういう状態だったんですか?

小崎 周りの人に「僕の目どうなっていますか?」って聞いたら、見る限りでは右目だけ上を向いているとかはなかったようなんですが、病院で検査したら、目はまっすぐ向いているけど、骨折して筋肉が下に落ちてしまって、動かなくなっていたそうです。

 すごく痛そう…。

小崎 痛いだけならまだ我慢できるんですけど、その時吐き気がすごくて。骨折したときって吐き気がするんですかね? 怪我した場所が、坂路下のダグを踏むところで、あそこで速足をしている時にバーンとぶつけて、20秒ぐらいでもう吐き気がしてきて…。辛くてすぐに乗り替わりたかったんですけど、すぐには替われないので、ゼーゼー言いながらスタンドの前まで乗って帰ってきました。

 その状態で乗って戻って来たんですか…。

小崎 はい。もう本当に気持ち悪くて、冷や汗もダラダラでした。でも、すれ違う人には何とかあいさつはしながら(苦笑)。スタンドの前で替わってもらって、そのまま倒れ込んで、すぐに病院に連れて行ってもらいました。

 デビュー前のことですし、周りも慌てたんじゃないですか?

小崎 そうだと思います。その馬の厩舎の方も「本当にごめん、ごめん」って言ってくださって。でも、あれは僕の不注意ですから、むしろ僕の方が申し訳ないくらいでした。でもまぁ、やっぱり焦りはしましたね。デビューに向けていろいろ頑張ってきたので、そういう面では悔しかったですし。

 まさかここで、というタイミングですもんね。病院では、どれくらい休まないとダメって言われたんですか?

小崎 2月19日に怪我してデビューが4月19日なので、ちょうど2か月だったんですけど、だいたいそれくらいと聞いていたので、ほぼ予定通りだと思います。初めの1週間は入院して、ちょうどその時、自厩舎のコパノリッキーがフェブラリーSを勝ったんです!!

 その週末でしたもんね。最低人気での大金星で。

小崎 はい! 病室で見ていたんですけど、あの時だけははしゃぎました(笑)。コパノリッキーが兵庫CSを勝つあたりまで、調教に乗っていたんです。僕は「力のある馬だ」って信じていたので、人気は1番なかったですけど、「そんな馬じゃないのになぁ」って。まぁ、前走、前々走が全然でしたからね。「ほら、見たか!」って(笑)、入院中でもそんなうれしいニュースがありました。

 怪我をしている間も、競馬は見ていたんですか?

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▲東「怪我をしている間も、競馬は見ていたんですか?」


小崎 見ていましたし、退院してからは競馬場にも行っていました。同期の松若と義がデビューする週も行きました。やっぱりデビューは間近で見たいなと思って。同期のことは応援していましたが、そこに自分がいないことに、焦りとか悔しい気持ちもありましたね。

 待ちに待ったデビューが1か月半も先延ばし。その気持ちに、自分の中でどう折り合いをつけたんですか?

小崎 やっぱり自分の中には、どうしてもそういうむしゃくしゃした感情があったんですけど、周りの方が声を掛けてくださったんです。「焦らなくていい」「騎手人生は長いんだから、最初の数か月なんて気にしなくていい」って。お世話になっている(福永)祐一さんも、「ただ悩むだけか、意識を変えてデビューに備えるか、どっちも同じ1か月半だぞ」って言ってくださって。そういう言葉がだんだんと焦らない気持ちにつながっていったと思います。「今できることをやろう」「できることをやるしかないんだ」というふうに切り替えました。

 少し遅れてのデビューは、どんな思いで迎えましたか?

小崎 「やっとデビューできた」っていう気持ちはもちろんですが、「もう怪我はしたくない」って、怪我に気をつけるという意識が高まってレースに臨みました。当初は福島でデビュー予定だったんです。村山先生から「デビューの年はローカルを回って、勝ちを重ねる方針でいこう」と言われていたんですけど、急遽その週の土曜日だけ阪神に変わって。やっぱり福島と阪神では規模も違うじゃないですか。初めてのレースを大きい競馬場で迎えられたのはうれしかったですし、競馬場のすごさにも圧倒されました。

 ちょうど重賞もあった日で、たくさんのお客さんを前にしてのデビューに。

小崎 さすがにちょっと緊張しましたけどね。森厩舎のアグネスアミニソルという馬に乗せていただいたんですけど、今では比較的マシになってきたとは思うんですが、その頃の僕はゲートがあんまり得意ではなかったので、ゲート裏が特に緊張しましたね。

 その日のうちに初勝利も挙げて。お父さんの小崎厩舎の馬というのもドラマですね。小崎調教師、「まさか初日に勝つとは。できすぎだよ」って微笑まれていましたね。

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▲父・小崎憲調教師の管理馬でうれしい初勝利


小崎 小崎先生からは「気持ちよく乗ってきて」と言われました。乗せてもらったケルンフォーティーという馬は、調教にも乗ったことがあって、自分も気分良く走らせた方がいいと感じていました。11番人気だったのも、いい意味でリラックスできてよかったかなと思います。自分としては、のびのび乗ってきた結果で勝てたという感触でした。

 小崎調教師も小崎騎手を見ていて「あぁ、緊張しているな」と思って、プレッシャーを軽くしてくださったのかもしれないですね。

小崎 もしかしたら、そうかもしれないですね。馬の調子も良かったですし、馬や関係者のみなさんに対して「勝たせてくださってありがとうございます」という思いでした。レースで勝ち負けを争うことが初めてだったので、ゴール前は結構必死になっていたんですが、ゴールした瞬間、浜中さんに「おめでとう」って言っていただいて。その時は笑みがこぼれました。

 苦しかった2か月が報われましたね。

小崎 2か月の乗れない期間があって、改めて馬に乗ると、「馬に乗れるのっていいな」という思いがしましたね。馬に乗れることは本当に素晴らしいことだって、改めて考えさせられました。そういう面では、乗れない期間も1つの学ぶきっかけになったかなと思います。(次週へつづく)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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