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「怪我も病気も未然に防ぐことができるのが一番いい方法」額田ドクターにインタビュー

  • 2014年11月11日(火) 18時00分
競馬の職人

栗東診療所



額田ドクター「競走馬は、ハードなトレーニングを重ねているから、健康なアスリートとは言えないような疾病を発症します」

 先週末のフィギュアスケートグランプリシリーズ中国大会ではソチオリンピック金メダリストの羽生結弦選手が中国の閻涵選手と激突。あごや頭から流血する負傷をしていましたが、頭にバンテージを巻いてリンクに戻ってきた時にはそんなに大事には至らなかったんだな、と思いTVを見ていました。

 そしてリンクに降りて演技をすると決めた瞬間、天を仰いで「翔べ!!」と叫んでいました。自分自身に気合を入れた瞬間でしたね。アクシデントが何だったかは、よくわかりませんでしたが、最後までやりきるトップアスリートの強い精神力に僕は感動しました。そしてこの瞬間が大事なんだと思いました。

 怪我を負っての出場に関しては賛否両論ありますし、この後どうなるかはわからないけどスポーツ選手は怪我はつきものですし、怪我を押して演技することを覚悟している芯の強さは最強だと思います。

 頂点を目指すトップアスリートの心境は、1回1回のチャンスを大事にしたい。だから全力でぶつかっていくんです。

 競馬の世界でも一緒ですよね。ファンの皆さんへ心に残る感動を伝えるために馬・騎手そして関係者が全力でぶつかっています。羽生選手の魅力ある行動に感嘆しました。怪我が癒えて復帰されるのを楽しみに待っています。

 前回も少しご報告いたしましたが10月26日に参加しました大阪マラソンで完走、42.195キロを走りきることができました。

 麻痺のある左足親指に大きな血豆ができ、38キロ付近で「痛くてもう走られへん」と心が折れかけリタイヤ寸前になった時、マラソン仲間のお姉様たちがハロウィンのコスチュームを身にまとい応援に駆けつけてくれました。

「競馬の時も諦めんと最後まで走ったやろ、思い出してみたら・・」と気合の入ったハッパ!! ここで歩いたら昨年と同じや。羽生選手には及ばないがアスリートの心を思いだし踏ん張りました。

 やっぱり完走するって最高の気分です。あきらめないで良かった。僕の菊花賞でした。なんと、6時間56分走っていました。大きな血豆の勲章ももらいましたよ(笑)

 さて、馬も怪我がつきものですが、診療所が新しく生まれ変わり最高の治療が素早く受けられるようになりました。馬が立ったままMRIが撮れる器械が導入されたそうです。日本にひとつしかない医療器具だそうです。すごい! キズナもここで手術をうけ順調調教が進んでいるそうです。今回は診療所の額田ドクターにお話をおききしました。

常石 今日は、よろしくお願いします。広いですね。

額田 こちらこそよろしくおねがいします。綺麗になったでしょう。

常石 医療器具も最新式が入ってるんでしょう。

額田 そうなんです。もう知っていると思いますが、日本国内初の馬が立ったまま診察が受けられるMRIが導入されました。今までに診断が難しかった下肢部の軟部組織や蹄内部の損傷に関する詳細な検査をすることができるようになりました。

常石 それって凄いことですよね。馬にとって、蹄はとっても大事なので怪我や病気の早期発見につながりますね。嬉しいです。

額田 オーバーグラウンド内視鏡検査もでき、競走馬に内視鏡を装着した状態で調教を行い、走行中の喉の状態を詳細に観察することができるため、安静時の内視鏡検査では発見できなかったプアパフォーマンスの原因が特定できることもあります。

常石 当たり前のことですが、馬は、「痛い・しんどい」とか言えないから周りの人が異常を早く発見することが大事なんですね。キズナの手術もここでされたんですか? どんな具合でしたか。

額田 場所は、膝だったので小さな骨がいっぱいあるところだから、走っていると一番折れやすいところなんです。手術も1時間くらいでおわりました。

競馬の職人

キズナが故障した箇所と同じ箇所(膝)のレントゲン



常石 術後は、どんなことに気をつけたらいいんですか?

額田 まず傷口が、治るまで冷やす。そのあと温めてあげる。あとは、放牧され気分もリラックスすることが一番いいと思います。放牧先の大山ヒルズの診療所にも、いい先生がたくさんいらっしゃるので安心です。連絡も取り合ってキズナが安心して過ごせるように見守っています。もちろん馬主や調教師の先生にもきちんと報告しています。

 薬物検査も大丈夫です。ディープインパクトみたいにならないように慎重に慎重を重ねて行っています。年に何回か各機関と話し合うようにし情報交換しています。

常石 日本馬も力を付け海外に何頭も出走するようになってきたので頼もしいですね。その分いそがしくなりますね。

額田 嬉しいことです。

常石 外国へ行くと馬場が合わなくて怪我することが多いんですか?

額田 いやいや一概にはいえないですね。調教師はそれらをよく理解して、いろいろ研究し工夫しています。芝生よりもダートの方が怪我が多いです。

常石 それは、どうしてですか?

額田 はっきりしたことはいえませんが、これから冬場になってくると地面が凍るので凍らないように薬をまきます。それが入ると、ダートが固くなってしまうんです。

常石 ダートが硬いと走りにくいですね。でも凍るとすべるのでもっと怖いですからね。一番多い怪我はなんですか?

額田 競走馬は、ハードなトレーニングを重ねているから、健康なアスリートとは言えないような疾病を発症します。一番多いのは、運動器疾患(骨折・屈腱炎)ですね。特に前脚が多いです。最初の第1歩を出す時、利き足から出ます。体重の割には脚が細いから負担かかるんでしょうね。

 病気では、呼吸器疾患(感冒・気管支炎)、消化器疾患(胃潰瘍・疝痛)、他に目や皮膚の病気もありますね。競走馬の目は傷だらけで体力が弱くなると角膜炎をおこしやくなります。

 スポーツ心臓で心拍数が20〜30しかなく強い馬だと20くらいの馬もいます。鼓動のしかたや呼吸数によって体調の変化にも気づきますがやっぱり担当している厩務員さんが一番よくわかっていますね。

 馬の腸はとっても長く伸ばすとテニスコートくらいあるでしょう。だからねじれやすいんです。牛は胃が4つあるけど馬には、胃が無く、すぐに腸なのでもつれることがあります。これは早期発見しないと命取りになってしまいます。

 馬は口で呼吸しない(鼻でしか呼吸をしません)ので、口でしっかり噛んでおかないと口から入れたものがすぐに腸の方へ行ってしまうので、もぐもぐとよく口を動かしていますね。

 発病した競走馬に対しては、慎重に診察し適切な治療ができるようにし早期回復を目指しています。他には破傷風も怖いです。トキノミノルっていう馬がいたでしょう。あの馬が破傷風で亡くなっています。

 最新の医療器具が導入され治癒率も高くなっています。怪我や病気の治療だけではなく予防するための指導などの啓発活動も実施しています。

常石 例えばどんなことですか?

額田 気づかれていると思いますが、蚊やハエは、ほとんどいないでしょう。

常石 あっそうですね。馬は特にハエは嫌いますからね。

額田 他に伝染病が一番怖いんですよね。だから未然に防ぐように、定期的に厩舎の消毒や害虫駆除もしています。もちろん馬にも人にも害が及ばないようにし発生予防をします。怪我も病気も未然に防ぐことができるのが一番いい方法ですからね。

常石 厩舎も衛生管理には気をつかっていますよね。餌もそうですか?

額田 大切な命を守るため餌の管理も検査をうけています。

常石 ファンの方がよく人参とか持ってきてくれるんですが、検査しないと申し訳ないけど上げられないんですよね。空港の入国の時に通過するピンポン・ピンポンとなるやつみたいですね。

額田 常石さん、ピンポンとなったらたいへんでしょう・・・(笑)。

常石 あっそうですよね。税関に連れていかれてしまいますね(笑)。

額田 他に肢蹄を保護するとともに、運動器障害を予防するために装蹄は、大切なんですね。X線をつかって肢軸検査や特殊装蹄を応用した装蹄療法などもおこなっています。

常石 装蹄もやられるんですか?往診もされていますよね。

額田 もちろんやってます。どのドクターも診察できるようにしています。また、個人の診療所もあるので万全を期しています。カルテもあるんですよ。競馬開催によって競走馬が移動したときにも円滑に診療体制が取れるように管理しています。

競馬の職人

競走馬のカルテ



常石 何人くらいのスタッフがいるんですか?

額田 約50人います。それぞれ役割分担し円滑に行くようシステムを組んでいます。

常石 日本の医療技術もたかくなってきているんですね。

額田 凱旋門やドバイなどに出走する馬がどんどん出てきて日本の馬のレベルが高くなっていることをアピールしてほしいですね。

常石 競走馬が安心して走れるのは、診療所のおかげですね。

額田 いえいえ、馬をとりまく多くの人たちのおかげです。みんなで支えあって成り立っています。常石さんもその一人ですよ。

常石 えっ!僕は何もできませんよ。それよりも気になっていたんですが今度ぼくもMRIとってください(笑)。

額田 了解しました。予約入れておいてください(笑)。

常石 今日は長時間ありがとうございました。

***

 今回診察室の中をはじめ、いろいろと見せていただきました。その設備、施設などを見て、さらに額田ドクターの話を聞いて診療所は、治療する前に予防するところだと実感しました。

 つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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