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羈(たづな)〜1歳馬流通情報

  • 2014年11月26日(水) 18時00分
羈

羈の表紙



掲載頭数は計86頭に減ったが本当に「品薄状態」になりつつあるのならば、生産地にとっては追い風かも知れない

 オータムセール終了後、11月5日現在における2013年度生産馬(現1歳馬)の売却希望馬をとりまとめ、日高、胆振、十勝の各軽種馬農協が共同で「羈(たづな)と名称の冊子を今年も発刊している。

 毎年、年末が近づくこの時期になると恒例になっているが、今年はやや異変が見られる。というのも、売却希望馬がひじょうに少ないのだ。「残っていない」と表現した方が近いかも知れない。今年の1歳市場は、サマーS、オータムSともに、価格はさておいても、売却率だけは極めて高く、ひじょうに売れたセールであったことから、今年に関しては売れ残りが少なく「品薄状態」になっているとも伝えられる。

 本来ならば、10月のオータムSにて、今年の1歳馬流通に関してはほぼ終了したはずでも、実はまだ一部では1歳馬を探す人々もいる。事情は様々だが、年末に近づけば近づくほどさらに価格が安くなると踏んで、この時期からようやく本格的に動き出すバイヤーも従来は確かにいた。数年前には生産者が無料譲渡どころか、持参金をつけて1歳馬を処分する例もあったとも聞く。これまでは、需要に対して供給量がはるかに上回っていたために、売れ残った1歳馬が生産地には溢れていたのである。

 しかし、ようやく、需給バランスが改善されてきたのか、今回発行された「羈」誌には、牡31頭、牝56頭、計86頭が掲載されているにすぎない。サイズも従来から半分に小型化し、A5横開きになった。因みに2013年には114頭、2012年には140頭がそれぞれ掲載されていたことを考えると大変な減り方である。

 今回の種牡馬欄を見ると、アサクサキングス、アサクサデンエン、アジュディミツオー、アッミラーレ、アドマイヤマックス、アドマイヤムーン、アメリカンボス、アンライバルド、ヴァーミリアン、ヴィクトワールピサ、エンパイアメーカー、オレハマッテルゼ、カネヒキリ、カンパニー、キャプテントゥーレ、キンシャサノキセキ、グラスワンダー、ケイムホーム、ゴールドアリュール、サイレントディール、サクラプレジデント、サムライハート、シニスターミニスター、ジャイアントレッカー、ショウナンカンプ、シンボリクリスエス、スウィフトカレント、スウェプトオーヴァーボード、スターリングローズ、ステイゴールド、ゼンノドラゴン、ソングオブウインド、タイキシャトル、タニノギムレット、ディープスカイ、トワイニング、ネイティヴハート、ハービンジャー、パイロ、ビービーガルダン、ファルブラヴ、フォーティナイナーズサン、ブラックタイド、ブラックタキシード、プリサイスエンド、フレンチデピュティ、ベーカバド、ホワイトマズル、マヤノトップガン、メイショウボーラー、ローエングリン、ロージズインメイとかなり多彩なラインナップである。中には、どうしてこんな馬が売れ残っているのか、というような血統馬もいる。希望価格帯も、★6つの1000万円以上を示す馬が何頭かいる。そういった「自信作」は、投げ売りに応じず、来年5月のトレーニングSにでも上場させた方がむしろ付加価値がつきそうな気もしてくる。

羈の掲載ページ

羈の名簿ページ



 ところで、日高を中心とした家族経営主体の小規模牧場の場合、軒数、頭数ともにこのところ減少が目立つ。日高全体の生産頭数は横ばいか、微減傾向だが、実は大手牧場に関しては、生産頭数は落ちていないどころかむしろ増える傾向にあり、数の上では小規模生産者の減少分を相当カバーしている。

 小規模生産者が軒数頭数いずれも大きく減少してきた要因は、長引く不景気により、価格が低迷してきたことがまず挙げられる。高齢化と後継者難も深刻で、それぞれが労働力に見合った頭数を繋養するようになり、たとえ子息がいても、敢えて後継させない選択をした生産者も少なくない。その結果、ここ10年ほどの間に、加速度的に牧場地図が変わってきたのが実情だ。

 アベノミクス効果なのかどうかは定かではないが、1歳馬の流通形態は、庭先から市場へと大きくシフトしており、オータムSでも、馬主自らが市場に赴いてチェックした1歳馬を落札する姿が目立っていたのは周知の通り。その結果、売れ残りが少なくなり、加えてセール直後にもかなりの数の1歳馬が庭先で売却されたと思われることから、ついに「羈」掲載分も100頭を大きく割り込む結果になったわけだが、もし本当に「品薄状態」になりつつあるのならば、生産地にとっては追い風かも知れない。

 来年の1歳市場はさらに活発な取引が期待できるようになるかも知れない。いや、むしろそう願いたい。来年こそが本当の意味での試金石になる。

※次回更新は筆者取材のため12月4日(木)18時とさせていただきます。あらかじめご了承くださいますようよろしくお願い申し上げます。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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