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南関東デビュー馬の復権

  • 2014年11月28日(金) 18時00分


◆関係者の意識の変化や努力

 昨年に続いて南関東の調教師リーディングをほぼ確定させている小久保智調教師の勢いが止まらない。26日の兵庫ジュニアグランプリ、そして27日の笠松グランプリと、遠征しての連日の重賞制覇は神がかり的と言っていいほどだ。

 兵庫ジュニアグランプリを制したのはジャジャウマナラシ。南関東所属の2歳馬によるダートグレード勝利は、2006年の全日本2歳優駿を制したフリオーソ以来、8年ぶりのこととなった。それでひとつ気になったのが、ジャジャウマナラシが南関東デビュー馬ということ。

 南関東の3歳クラシック戦線で活躍するのはホッカイドウ競馬からの移籍馬ばかりということが長く続いていたが、実はここ1、2年で、南関東デビュー馬の活躍が目立つようになってきたなあと思っていたところだった。

 たとえば今年、牡馬の二冠こそ北海道デビューのハッピースプリントが制したが、桜花賞のシャークファング、東京プリンセス賞のスマートバベルと、牝馬三冠のうち南関東限定の二冠を勝ったのは、ともに南関東デビュー馬だった。昨年は、桜花賞のイチリュウ、東京ダービーのインサイドザパークが南関東デビューで、ここ2年は牡牝併せて六冠のうち南関東限定の四冠の半分を南関東デビュー馬が制している。

 ちなみに2年前の2012年に南関東デビュー馬がクラシックを制したのは、羽田盃のアートサハラのみ。2011年は桜花賞こそ震災の影響で中止となったが、それ以外の三冠はすべて北海道デビュー馬。さらに2010年は東京プリンセス賞(トーセンウィッチ)と東京ダービー(マカニビスティー)の勝ち馬がJRAデビューだったという珍しい年で、それ以外の二冠を制したのは北海道デビュー馬だった(ただし交流のジャパンダートダービーは南関東デビューのマグニフィカが勝っている)。

 南関東の3歳クラシック戦線で北海道デビュー馬の活躍が目立つようになったのは、2000年前後から。今年9月に亡くなられた川島正行調教師の追悼記事を書く際、過去の資料をひっくり返していて「なるほどそうだったか」と思ったのは、1997年の東京ダービーをサプライズパワーが制したときの記事で、「北海道からの移籍馬は異色の存在」という記述があったこと。地方競馬は90年代後半になって交流が盛んになったが、それ以前の交流があまり行われていなかった時代、地方競馬は地区ごとに完結していて、若馬のうちから移籍するということはあまり行われていなかった。翌98年、川島調教師による東京ダービー連覇となったアトミックサンダーも北海道デビュー馬で、表現は悪いかもしれないが、北海道の素質馬を引き抜いて南関東のクラシックを勝たせるというのは、川島調教師が先鞭をつけたこと。それが2000年代に入って当たり前のようになっていた。

 ところがごく近年、冒頭でも示したとおり、南関東デビュー馬が3歳クラシック戦線で活躍するようになってきたのは、調教師のみならず、馬主まで含めた厩舎関係者の意識の変化や努力によるものだろう。中央とのダート交流戦線では長らく地方馬の苦戦が続いているが、そうした意識の変化が、いずれ近いうちに中央の素質馬とも互角に戦えるような馬の出現にもつながるように思えてならない。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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