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6馬身にも7馬身にもみえる独走/ジャパンC

  • 2014年12月01日(月) 18時00分


エピファネイアのわがままをまったく許さなかったスミヨン騎手

 発表は良馬場に回復していたが、実際には稍重に近いタフな芝コンディションだった。4馬身差で圧勝した4歳エピファネイア(父シンボリクリスエス)の後続につけた差は、4馬身どころか、6馬身にも、7馬身にもみえる独走だった。この馬場で、こんな時計で抜け出されては、だれもかなわない。エピファネイアの強さを信じたファンでさえ、ジャパンカップを楽々と独走する、こんなに強いエピファネイアは想像できなかったかもしれない。

 実質「稍重」と思える東京2400mを、レースの半分は行きたがっていたのではないかと映る先行策をとり、圧倒的な能力を示したエピファネイアは、菊花賞3000mを5馬身差で独走した4歳のエース格であり、道中つまずく不利があり、かかり気味だった2013年の日本ダービーではキズナ(父ディープインパクト)と半馬身差のマッチレースを展開している。

 全能力を爆発させたときのエピファネイアの高い能力に疑問をはさむ人などどこにもいないが、しかし、今年ここまで【0-0-1-2】。未勝利をつづける4歳エピファネイアは、大きな期待のわりにどうも底力あふれる産駒を送ってくれない種牡馬シンボリクリスエス(父クリスエス)の、いい意味でも、悪い意味でも、代表産駒そのものだった。

 したたり落ちる汗を飛ばし、風呂上がりのようだった前回の天皇賞・秋は、坂上から伸びかけたが最後は鈍って6着止まり。当然、今回も最有力馬の1頭だったが(4番人気)、好スタートから2-3番手のインにつけたエピファネイアは、行きたがってクビを上げ、横を向きそうになるなど、最初はおとなしくレースの流れに乗るシーンはあまりなかったように映った。だが、今回騎乗したのは、C.スミヨン騎手(33)。

 エピファネイアのわがままは最初からまったく許さなかった。立ち上がって手綱を引くシーンなどない。力ずくで行きたがるのを制御したのではなく、エピファネイアの甘えを断じて許さないことを伝えた。それでも行きたがったエピファネイアだが、途中から鞍上のスミヨン騎手に従うことを受け入れた。エピファネイアはスミヨンの指示を理解したのである。

 菊花賞のエピファネイアは、今回よりもっとスムーズに、その距離の流れに乗ることを福永騎手とのコンビで受け入れている。「簡単な馬ではない」というだけで、心身のリズムが整ったときには文句なしのトップホースであるが、テン乗りで難しいエピファネイアに全能力を発揮させたC.スミヨン騎手はさすがである。2010年のジャパンCでは、ブエナビスタで1位入線降着の2着だったから、今回のジャパンC制覇は、スミヨン騎手にとっても格別だったろう。

 これでジャパンCは日本馬の9連勝(9年連続1-2着独占)となったが、O.ペリエ、M.デムーロ、C.ルメール、C.スミヨン(2回)、C.ウィリアムズ、R.ムーア騎手。連対馬18頭のうち、7頭までが外国人騎手の日本馬である。ジャパンCの発展の歴史は、当初の国際化とはちょっと方向が違う国際GIに変化したことになる。

 勝ったエピファネイアの主戦=福永祐一騎手は、エピファネイアの独走を許したから内心複雑だろうが、ジャスタウェイ(父ハーツクライ)の2着は見事だった。3番人気の支持を受けていたが、ジャスタウェイは決して絶好調といえる状態ではなく、今回の距離は守備範囲ではあっても心もち長かったはずである。中位から巧みにもっとも伸びる馬場の中ほどに突っ込んだ。

 昨秋、4馬身差でジェンティルドンナを完封した天皇賞・秋のレーティングは123であり、今年3月、ドバイデューティフリー(1800m)を独走して得たレーティングは130だった。ジャパンCには、ドバイシーマクラシックを快勝するなど119(牡馬に換算するなら123)のジェンティルドンナも出走していた。外国馬3頭のレーティングも高かった。独走したエピファネイアのレーティングがどんな数値になるのか、大いに注目である。126-127にとどまっては、ジャパンCの名誉丸つぶれである。

 タフな芝コンディションのなか、高い支持を受けた馬はみんな快走し、上位6番人気以内の馬が上位5着までを独占する結果となった。5歳スピルバーグ(父ディープインパクト)は、レースレベルとしては必ずしも高くないとされた今年の天皇賞・秋で一気にトップグループに加わってきた上がり馬らしい、中身のある3着だった。外枠15番だったため苦しいコース選択を強いられたが、直線は馬群を割って最速の上がり34秒8。レース全体が「1分11秒8-1分11秒3」=2分23秒1の厳しい流れになり、独走となったエピファネイアの上がりでさえ35秒0だから、ただ1頭だけの上がり34秒台は誇っていい。

 1番人気に支持されながら4着(2分24秒0)にとどまったジェンティルドンナ(父ディープインパクト)は、「芝状態に影響され、グリップが利かず加速できなかった(ムーア騎手)」。タフなスタミナ勝負に持ち込まれたのが誤算だった。もう長くきびしいレースを重ねてきたから、確かにピーク時のはじけるような若いフットワークではない気もするが、ジャパンC3連覇を達成できなかったとはいえ、それを衰えや陰りに結びつけてはジェンティルドンナに失礼だろう。

 石坂調教師は「有馬記念に行きます」と表明している。疲れがなければ、このまま引退となっては物足りなさが残る。未練もある。その気持ちはオーナーサイドにも理解を得られるだろう。ファンにとっては、有馬記念でもう1回、ジェンティルドンナの挑戦と時間をともにできるのは大歓迎である。12月末の中山の芝が走りやすいコンディションであることを願うしかない。

 一時は1番人気(最終的には2番人気)になった3歳ハープスター(父ディープインパクト)は、これまでと異なり、最後方追走ではなく後方5番手くらい。きわめてスムーズに追走できた。だが、ペースアップしようとした3コーナー過ぎ、前にいたトレーディングレザー(父テオフィロ)が故障してしまった。ワンアンドオンリーは異変を察知した瞬間に外に動けたが、真後ろにいたハープスターは故障馬とぶつかったように見えた。あれで5着まで突っ込んだのだから、ハープスターはやっぱり素晴らしい牝馬である。こういうアクシデントだけは、仕方がない。不幸中の幸い、ハープスターにはダメージはなかったように見えた。

 坂上にくるまで楽なようにみえたイスラボニータ(父フジキセキ)は、やっぱり距離が1ハロン長かったか。フェノーメノは16番枠。最初のコーナーで振られたとき、無理できずに少し下げる形になったのが残念。馬は一変していた。有馬記念で見直していいだろう。

 かわいそうだったのは愛ダービー馬トレーディングレザー。粉砕骨折の安楽死が伝えられた。日本のダービー馬が遠い遠征先のレースで予後不良になったら、関係者や、わたしたちファンの心の痛みはどれだけ深いだろう。ドバイで非業の死を遂げたホクトベガと同じである。国際レースの招待に応じてくれた数少ない1頭だけに、不運では済まない悲しみが残りそうである。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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