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環境の変化で得られるもの

  • 2014年12月05日(金) 18時00分


◆注目している2人の騎手

 今年も残り1カ月を切り、すでに11月にシーズンを終了しているホッカイドウ競馬の所属馬は、他地区に移籍するか、遠征競馬でがんばるか、それとも休養かという季節。そんななか、12月1日に水沢競馬場で行われた2歳牝馬の重賞・プリンセスカップでは、シーズンが終了しても転出せず北海道に籍を置いたままの3頭が遠征し、上位3着までを独占する結果となった。

 勝ったのはミラクルフラワーで、10月5日の知床賞(盛岡)に続き、岩手に遠征しての重賞2勝目となった。知床賞での鞍上は地元岩手の騎手だったが、プリンセスカップでの鞍上は、同馬を管理する齊藤正弘厩舎所属の松井伸也騎手だった。

 松井騎手は福山競馬廃止にともなってホッカイドウ競馬に移籍し、今年で2シーズン目。2002年に福山でデビューし、2010年に47勝を挙げリーディング10位というのが福山での最高の成績。それゆえ目立った存在ではなく、重賞も勝つことができなかった。ところが移籍2年目の今年の躍進ぶりを見ると、騎手というのはきっかけひとつなのだと、あらためて思わされる。

 たしかに地方競馬でデビューする騎手の中には、技術や才能の面で、これはモノにならないと思うような騎手も毎年何人かいる。これはぼくのような素人の見た目ではなく、厩舎関係者からも聞かれること。

 逆に何年かにひとりというような秀でた騎手なら、たとえどんな環境に置かれても活躍の場は向こうから寄ってくるだろう。ところが平均よりやや上の、そこそこ乗れるというレベルの騎手はおそらくたくさんいて、しかし環境や、ひいては本人の性格や社交性などの要因できっかけがつかめず、才能を発揮できないままの騎手はたくさんいるのではないだろうか。

 地方競馬では近年、期間限定騎乗という制度が確立し、騎手が慢性的に不足している高知などでは常に他地区の若い騎手を期間限定で受け入れ、それをきっかけに飛躍する騎手もいる、ということは、だいぶ以前にこのコラムでも書いた。とはいえ環境を変えたところでやっぱり芽がでないという騎手も多くいることは確かだ。

 松井騎手の話に戻ると、ホッカイドウ競馬に移籍した2年目の今年、ひとつ飛躍のきっかけとなったのは、栄冠賞をティーズアライズで制し、デビュー以来の重賞初制覇を果たしたことだろう。そのときに話していたのが、「今まで重賞では2着が何度かあって悔しい思いをしていました。(この重賞勝ちで)自信はつきますね」ということ。その言葉どおり、その後にはステファニーランでリリーカップを制し、そして水沢に遠征してのプリンセスカップが重賞3勝目となった。

 松井騎手は栄冠賞を制したあとのインタビューで、今シーズンの目標として北海道リーディング5位以内ということも挙げていた。果たして今シーズンの北海道リーディングでは、55勝で惜しくも6位。5位とはわずか2勝差だった。それでも、開催規模や賞金的に地方競馬の中でも底辺に近かった福山で年間47勝の10位が最高だったことを考えれば、2歳戦を中心に賞金的にも充実している北海道で6位というのは大躍進といっていい。

 環境を変えてということで、今もうひとり注目しているのが大井の横川怜央騎手。2010年にデビューしてからの3年間は毎年10勝台で、昨年は7勝に落ち込んだ。しかし今年は笠松に期間限定所属し、その3カ月だけで14勝。その後半には準重賞のジュニアクラウンを1番人気のティープリーズで制するという結果も残した。そして大井に戻り、12月3日のクイーン賞(船橋)では笠松のタッチデュールに騎乗。上り3Fではメンバー中最速の脚でゴール前迫り、あわや3着かという惜しい4着だった。これも笠松での期間限定騎乗があっての縁だろう。

 思えば、昨年ようやく南関東のリーディングとなった御神本訓史騎手は、もともと益田が廃止となっての移籍だったし、今年南関東リーディングが見えてきた森泰斗騎手も足利・宇都宮が廃止になっての船橋移籍だった。

 かつての地方競馬は所属に縛られ、その枠から出ることができずに才能が開花しなかった騎手もたくさんいたかもしれない。もちろん環境を変えたからといってすべての人が成功するとは限らないが、環境を変える、環境が変わる、それによってのあらたな人との出会いで開ける未来もあるのだと、最近特に思うようになった。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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