世界の競馬/合田直弘

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オーストラリアで禁止薬物「コバルト」が検出される馬が続出

2015年01月21日(水)12時00分

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コバルトの存在が競馬の世界で黒い噂となり始めたのは、2013年のことだったと言われている

 オーストラリアのヴィクトリア州で、レース後のドーピング検査で禁止薬物のコバルトが検出される馬が続出。該当馬の管理調教師には、トップ10トレーナーのうち3人が含まれており、大きな問題となっている。

 一連の疑惑が生じたのは、昨年のスプリングカーニヴァル期間中のことだった。

 最初に報道されたのは、25戦無敗の歴史的名牝ブラックキャヴィアを管理したことで知られるピーター・ムーディ厩舎に所属するリダリで、10月4日にフレミントンで行われたG1ターンブルS(芝2000m)で2着になった後に採取された尿から、赤血球の生成を促進して筋肉への酸素供給量を高め、ひいては持久力を増す効果のある禁止薬物「コバルト」を検出。香港ジョッキークラブの協力を得て実施したサンプルBの検体でも同様の結果が出たため、主催者のレイシング・ヴィクトリアが本格的な調査に乗り出していることを、1月13日に公表したのである。

 ムーディ師は「寝耳に水」として、故意の投与を全面否定したが、場合によっては3年間の資格停止処分となる可能性もあるだけに、関係者とファンの間に大きな動揺が広まった。

 ところが、ムーディ師の一件は騒動の発端に過ぎなかった。翌1月14日になって、更に4頭ものコバルト検出馬がほぼ同じ時期に発覚していたことが明らかになったのだ。

 09年のG1メルボルンC勝ち馬ショッキングらの管理調教師であるマーク・カヴァナー厩舎に所属するマジクールが、10月4日にフレミントンで行われた準重賞のUCIステークス(芝1800m)で1着に入線した後に採取された尿からも、コバルトを検出。

 更に、11月1日にフレミントンで行われたG1VRCダービーで2着に入線したボンデイガー、同じく11月1日にフレミントンで行われたG3レクサスSで8着に敗れたキャラヴァンロールスオン、11月22日にバララット競馬場で行われた下級条件戦で1着入線したドリトルエンジンの3頭からも、コバルトを検出。この3頭はいずれも、13年のG1コックスプレート勝ち馬シェイマスアワードらの管理調教師であるダニー・オブライエン厩舎の所属馬だった。

 カヴァナー師もオブライエン師も、主催者から連絡を大きな驚きとともに受け止めたと、意図的な投与を否定。調査に全面協力する旨のコメントを出している。

 レイシング・ヴィクトリアの関係者は、コバルトの混入がいつ、どこで、どういう形で行われたのかを、出来るだけ早く解明したいとしながらも、事案が5件もの多岐にわたっているため、少なくとも数か月単位の時間を要することになるだろうと、見通しを語っている。

 コバルトの存在が、競馬の世界のバックヤードで黒い噂となり始めたのは、2013年のことだったと言われている。その後、ニュージャージー州のハーネス競馬で、2人の調教師がコバルトを用いた不正を働いていたことが発覚。当時、コバルトはニュージャージー州の禁止リストには記載されていなかった薬物で、関係者の間で驚きと不安が広がることになった。

 人間のアスリートに対するコバルト使用問題は、発覚してから既に10年近くが経過していると、当時の記事は伝えている。

 研究機関による分析によれば、コバルトにはエリスロポエチン(=通称EPO)と同様に、持久力を増強させる効果があることが確認されており、これを過剰摂取すると、甲状腺機能障害や心毒症を発症し、心臓の機能を損なって死に至るケースもあることが報告されている。

 コバルトは自然界に存在する物質で、競走馬も通常レベルで5から10マイクログラム、体内摂取した添加物の影響で50マイクログラムまで含有量が増えることも、研究機関の分析によって明らかになっている。

 ニュージャージー州の事件を受け、オーストラリアのニューサウスウェールズ州が、コバルトに関する基準を設けたのが13年12月で、1リットルあたり200マイクログラムをリミットに設定。この規定は、昨年4月からヴィクトリア州が、そして今年1月からは豪州全土で適用されている。

 ちなみに、香港ジョッキークラブは、上限を100マイクログラムに設定している。

 豪州におけるコバルト問題はその後、クイーンズランド州に飛び火し、ニューキャッスルを拠点とするダレン・スミス調教師の複数の管理馬からも、コバルトの陽性反応が出て、調査が始まったと伝えられている。

 コバルトが発覚した馬の管理調教師にはビッグネームが多いだけに、よもや意図的な投与はなかったであろうというのが、現段階における一般的な見方である。そして、複数の厩舎にまたがる事案が同時多発的に起きている点を鑑みれば、何らかの外的要因が絡んでいると見るべきであろう。

 薬物問題は、スポーツの世界における近年最大の汚点とされているだけに、豪州当局による徹底的な事態の解明が待たれるところである。
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コラムニストプロフィール

合田直弘
合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。