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「ナリタトップロードのようにファンに愛され印象に残る馬を作りたい」渡辺薫彦調教師にインタビュー

  • 2015年01月27日(火) 18時00分
競馬の職人

渡辺薫彦調教師



渡辺薫彦調教師「僕が育ててもらったように人とのつながりを大切にしながらよい馬を作っていきたい」



 新しい年を迎えると新旧交代の時期がやってきます。2月末で定年退職する調教師は梅内忍調教師・梅田康雄調教師・小野幸治調教師・境直行調教師・白井寿昭調教師と栗東では5人、関東では大久保洋吉調教師・鈴木康弘調教師・畠山重則調教師の3人の調教師が引退を予定されています。あと1か月となってしまい、どの先生にも思い入れがありますので残念な気持ちと寂しさが残ります。

 なかでも白井先生は、いつも馬の血統についてすごい資料を持っておられ、僕が聞いても聞いてもどんどん話が広がり、覚えられないのですが血統の話は興味があるのでいつも白井先生を見つけてはお聞きしていました。先日も、話に夢中になって調教時間を過ぎてしまい、助手の息子さんに「調教見たんか?」と叱られてしまいました(白井先生、ごめんなさい)。

 栗東で3月に開業する予定の新調教師は、池添学調教師(34歳)、奥村豊調教師(37歳)、西村真幸調教師(39歳)、松下武士調教師(34歳)の4人です。なんと全員30代という若さです。

 技術調教師として昨年から調教師としての厩舎経営から馬の管理など多種多様なことを勉強してきました。特に牧場を回り、牧場での育成ぶりや馬の見極め方、競走馬として育てる期待など意見交換などするそうです。

 馬主さんの紹介などもしていただくいい機会になると言います。そうしながらスタッフとのミーティングなど何度も何度も繰り返し行い開業準備をしていくそうです。まだまだ見えない部分でやることいっぱいあるんですよ。忙しく走り回っておられました。

今週のコラムは調教師試験に合格したばかりでこれから技術調教師として新たな勉強をしていくという渡辺薫彦調教師です。他に今年合格されているのは橋口慎介調教師(橋口調教師の息子さん、39歳)・齋藤崇史調教師(32歳)と栗東の合格者は今回も30代の若き調教師です。

常石 騎手引退から3年後に見事に調教師試験合格、おめでとうございます。

渡辺 ありがとう。まだ免許をもらってないから実感が湧いてないよ。いつもと変わらないね。

常石 合格ってわかった時はどんな気持ちだったんですか? ご家族の反応はどうでしたか? 開業は1年後ですか?

渡辺 (1年後の開業は)順調にいけばの話だよね。合格ってわかった時、嫁は泣いて喜んでたなー。親父もよくやったとよろこんでくれました。ちょっとほろりとしてたかな?

常石 渡辺先輩のお母さんの話では「大好きなお酒を絶って頑張っていた」とお聞きしましたが…? 騎手から助手をへて調教師になられて自分の中でどう変わられましたか?

渡辺 酒やめてたでー、チョット苦しかったけど(苦笑)。もちろん勉強はしましたよ。でもこれから別の意味で毎日が勉強ですからね。まず沖先生とご一緒に牧場を訪問し、いろいろ教えてもらうことが山ほどあります。

 騎手時代は、仕上げてもらった馬に乗っていたけど、今度は馬を見つけて育ててどこでどう使うか、などを見極めていかなくてはいけないでしょう。馬あっての仕事だから馬のことをもっと知らないとね。今までは乗って馬の感触を確かめていたけどこれからは目で見て見極めていかないといけないので多くの牧場を回っていい馬を見つけていきたいです。

 一人ではできないことだから厩舎スタッフと相談しながらみんなで一緒にやっていきたいと思っています。乗り役から助手をやらせてもらって調教することで騎手の時に見えてなかった内面の部分や癖などがよくわかるようになったと思います。騎手時代に走る馬って肌で感じてきたから脚もとなど毎日きちんとチェックしないといけないでしょう。飼葉にしてもレース前とレース後の中身が違うんですよ。管理する馬全部に丁寧に気配りをするなど。

競馬の職人

渡辺薫彦調教師



 沖厩舎からデビューし沖厩舎の助手をさせてもらい先生に「ずっとうちの厩舎にいたらいいよ」と言っていただいて先生の背中を見てきました。今の若い騎手は早くに独立しフリーになっていますが人とのつながりが希薄になっているような気がしてさみしいです。僕が育ててもらったように人とのつながりを大切にしながらよい馬を作っていくためにもその辺りも大事にしていきたい。

 ずっとお世話になっていた沖調教師を尊敬しています。先生のようにやっていきたいと思っていますが僕にできるかな? という不安もあります。でも一人じゃないからね。つねちゃんも応援してや(笑)

常石 はいもちろんです。渡辺先輩はいつも遊ぶ時は遊ぶ、仕事は仕事ときっちりけじめをつけてきちんとやる人だったのですごいと思って尊敬していました。だから調教師として活躍を楽しみにしています。

渡辺 つねちゃん…うまいな(笑)

常石 いえいえ本心ですよ(笑)。騎手から調教師になられている先輩もたくさんおられますよね。アドバイスなどはありましたか?

渡辺 みなさんから「おめでとう」と声をかけていただきましたが、まだゆっくり話す機会がないので、これからですね。

 あっそうそう、亮(高橋調教師)に自分で乗って調教しないの? って聞いたら寒いからいやって(爆笑)。本音は、自分が乗るとその馬のことしか見えなくなるし思い込みも強くなるから判断違いを起こしてしまう可能性もあるから乗らない。みんなの意見を聞き全体の馬をしっかり見たい。と言ってましたね。

 僕もそう思うから乗らないでおこうと思ってるけど、多分乗りたくなるやろな…。乗れないのは寂しいから。

常石 僕も亮に渡辺先輩へメッセージお願いしますとお聞きしたら「おめでとうございます」と「それ以上は僕にはまだまだ言える立場じゃないよ。手探りで始めたばかりやからな」とおっしゃっていました。

渡辺 でも亮は活躍してるよな。

常石 どんな馬をつくっていきたいですか?

渡辺 ナリタトップロードは魅力あったなぁ。(ナリタトップロードのように)みなさんから応援してもらえるような馬を作りたいです。

常石 ナリタトップロードはどうして皆さんに愛されたんですか?

渡辺 完璧な馬ではなく未完成なのにいつも一生懸命に走ってくれたところが魅力だったかな。

常石 トップロードは僕にとっても深ーい思い出があります。渡辺先輩がトップロードで菊花賞を勝ったときは、もちろんうれしかったけど、その後的場騎手に乗り代わり「やっぱり僕では馬の良さを出してやることはできなかった。この馬のことを一番知っているなべちゃんじゃないとね」言われて渡辺先輩が、手綱を握った2001年の阪神大賞典で最後の最後まで追い続けて後続に8馬身差をつけての快勝。このレースはすごかったよ。芝3000mの世界レコード(当時)のおまけ付きで。

 この時的場先輩のコメントに人間性の豊かさというかホンマのナベちゃんがわかったと思いました。

渡辺 そうやったな。ぼくの部屋でビデオを見てたらつねちゃん泣いてたもんな。何を言ってたか覚えてるか?

常石 実は内容は全く覚えていないんですよ。恐縮です(苦笑)。でも感動したことだけはしっかり覚えています。トップロードに関して思い入れの多い秘話がありましたよね。先輩が落馬し四位先輩に乗り代わりになって京都大賞典を快勝、天皇賞・秋2着という成績を残したけど有馬記念は渡辺先輩の手綱で引退レースを迎えることなってヤッパリうれしかったですよ。

 四位先輩の男気にも感動しましたね。「ナベちゃんが元気になって戻ってくるまでのピンチヒッターやから。この有馬記念はトップロードのラストランやから思い切って乗って来いよ」と言われたと聞いたときは、四位先輩にしか言えないなー、とめちゃめちゃ感動したことを覚えています。

渡辺 せっかくもらったチャンスだったのに4着で悔しかった。ダービーも2着で悔し涙をのんだ。トップロードっていつもいつも走るだけではなくストーリーを作ってくれる馬だったと思う。だからこそファンも多く愛されたんだろうね。

競馬の職人

渡辺薫彦調教師



常石 最後のファンの方へメッセージをおねがいします。

渡辺 沖先生には感謝の言葉しか浮かばない。先生のように尊敬され人とのつながりを大切にしながら厩舎運営をして行きたいです。今度は、作る側になってトップロードのようにファンに愛され、印象に残る馬を作りたいですし、現役時代に手が届かなくて悔しかったダービーも勝ってみたいなと思います。もっと厳しい世界になると思うけど勉強します。応援してください。

常石 長い時間ありがとうございました。

***

最後に渡辺先輩の師匠、沖芳夫調教師からもメッセージをいただきました。
 
沖芳夫調教師 僕からは特に言うことはないけど頑張ってくれてうれしかったね。ここからは調教師としてライバルになるし、本当の勝負だと思うから頑張ってほしい。どんな馬を見つけるか楽しみだね。

競馬の職人

沖芳夫調教師と渡辺薫彦調教師



常石 ありがとうございました。先生の温かいまなざしが先輩に届くでしょう。

***

 沖先生と沖厩舎のスタッフさんにはいつも親切にしていただき感謝しています。沖先生、ナベちゃんありがとうございます。

 渡辺先輩はナベちゃんスマイルで笑っていますが、にこやかさの中に厳しい顔をのぞかせ早くも調教師の顔つきになっていました。ナベちゃん、応援しています。でも、ナベちゃんと呼べるのもあと少しになってしまいました(笑)。つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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