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競馬ブームのころは考えられなかった… 今や深刻な人手不足の育成牧場/吉田竜作マル秘週報

  • 2015年02月11日(水) 18時00分


◆人手不足問題に直面しているのが、他ならないトレセン近郊の育成牧場

 ある血統馬が栗東近郊の育成牧場で非業の死を遂げた。今や育成牧場は東西両トレセンにはなくてはならない存在になったが、現在それを取り巻く環境はどうなっているのか。今回はトレセンと育成牧場の関係について考えてみたい。

 競馬関連のスタッフで一番の高給取りは恐らくJRAのキュウ務員。キュウ舎から支払われる給料に、担当馬が稼いでくる進上金(賞金の5%。ただしキュウ舎によって振り分けは変動することもある)も加わるのだから当然といえば当然か。中には「調教師より稼ぐ人」もいるというのだから、それこそ夢のある職業だ。とはいえ、入り口は高給につられたわけではなかろう。サラブレッドに夢を抱く、少なくとも馬に興味のある人間がこの世界の門を叩くのだが、なりたいからといってすぐ就ける職業でもない。

 まずはJRAの競馬学校のキュウ務員課程(半年)を修了しなくてはならないのだが、応募資格にあるのが騎乗経験の有無。「牧場における競走馬・育成馬騎乗経験が1年以上の者」とあるように、実質的に北海道ないし、両トレセンの近郊牧場のようなところで実務経験を積む必要がある。もちろん、牧場時代の給料はトレセンのそれと比べると安い。しかし夢のためならと、おのおの修業するわけだ。そこで実力をつけてから競馬学校へ入学、JRAの両トレセンでの就職を目指すことになる。

 簡単に言ってしまえば競馬労働者の流れは「牧場→JRA」が主流。それも腕が立つ人間から中央競馬の世界へと巣立っていく。しかし、人手には限りがある。北海道の生産牧場の人手が足りなくなってはこの産業自体が成り立たなくなるし、それはトレセン近郊の育成牧場とて同じこと。しかし、賃金や待遇の面でJRAに勝てるはずもなく、人材の流出を止める手立てはないのだ。

 20年ほど前の熱狂的な競馬ブームのころなら、牧場で働こうという人間も多くいた。JRAに人材が流れても働き手は確保できたはず。それは記者に近い年齢のスタッフ(記者は1972年生まれ)が多いことでもよくわかる。

 しかし、今の競馬の立場は20年前のそれとは大きく異なる。仕事にしてもレジャーにしても多様な選択肢があり、競馬がその中で上位にあるとは言い難い。そんな中で新たな働き手が次から次へとやってくるかというと、そんなはずもなく…。そうした人手不足問題に直面しているのが、他ならないトレセン近郊の育成牧場なのだ。

 中央の両トレセンでキュウ務員が担当するのは1人当たり2頭が原則。地方では3〜4頭というところもあるが、調教や手入れなどの段取りを考えれば、このあたりが限界だろう。しかし、育成牧場には「1人で6頭をやっている」(某関係者)ところすらあるという。

 そこまでくると中央のように時間と手間をかけるのは物理的に不可能。ウォーキングマシン、ウォータートレッドミルといった人手のかからない器具の助けがあって、はじめて頭数をこなすことができる。ただ「馬の鍛錬というのは人が乗って調教なり運動をしてなんぼ。確かに器具を使っても一定の運動にはなるだろうが、それがトレセンのトレーニングの代わりになるとは思えない」と某有名トレーナー。「○○(某育成牧場)では乗り運動をしてもらえないから、帰キュウしてからもある程度乗ってからでないと使えないよ」という声すらあった。

 因果関係はハッキリしないが、冒頭に挙げたある血統馬の死が、もし人手不足に起因するものだったとすれば…。もはや構造的な問題なのかもしれない。

 現在、JRAも様々なキャンペーンを打ち出して牧場での就労支援を行っているが、目に見える成果となって表れるにはまだまだ時間を要しそう。競馬の地位向上、人気復活がこうした問題を解消する一番の近道だが、その道のりは険しいと言うほかない。当コラムの冠になっているPOG(ペーパーオーナーゲーム)がサラブレッドに興味を持つ入り口となってくれるといいのだが。

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