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黛弘人騎手(3)『競馬学校改革の世代“騎手免許の重みは誰よりも”』

  • 2015年02月16日(月) 12時00分
おじゃ馬します!

▲「騎手免許の重みは誰よりも感じている」今週は黛騎手の秘めた思いに迫ります


デビュー10年目の黛弘人騎手。ここ数年ふたけた勝利をキープし、昨年は自己最多の20勝をマーク。騎手として順調な伸びを見せている黛騎手ですが、1年目2年目は年間2勝と苦しい時を経験しました。減量があるのに結果が出せないジレンマ。けれども、どんな状況になっても騎手を続けることを諦めなかったと言います。それは競馬学校時代、学校改革により鍛えられた精神力と、人一倍強く感じている騎手免許の重み。胸に秘めた思いに迫ります。(取材:赤見千尋)


(つづき)

感性で乗れる人はうらやましい


赤見 今年は楽しみな1年になりそうですね。年明けから重賞を勝って、今、きてるでしょう?!

 これで満足しちゃいけないですし、安心もできないですよね。自分としては現状維持が精一杯な感じですよ。

赤見 全然、現状維持じゃないですよ! この間、鉄人の佐々木竹見さんにお会いして、ジョッキーの話になった時に「黛騎手、うまくなったね」っておっしゃってましたよ。

 本当ですか? ありがとうございます。自分のなかでいろいろなことを試してきて、ちょっとずつは進歩してるのかなって思いますけど。でも、まだまだ改善しないとならないところがたくさんあります。

赤見 例えば、何年か前にノットフォーマルのような馬に出会ってたら?

 多分、重賞は勝てなかったと思います。一年前の自分が考えてた事って、どんどんどんどんアップデートされてる感じがするんですよね。一年前の競馬を思い出して、「あの馬、どういうふうに乗れば良かったかな」とか考えるんです。今回の重賞も、来年の自分は「こういうふうに乗れたんじゃないかな」と思うでしょうし。そういうのは、どんどんアップデートして行かなきゃいけないですよね。

赤見 研究する派ですか?

 研究なんですかね? 他の人が何をしているか分からないですけど、僕はいろいろ見ちゃう方です。新聞とかを見て「この馬はどうだこうだ」って、成績とかラップとかを見たり。

赤見 感覚で乗る人と、考えて乗る人がいますもんね。

 そうですね。それぞれのやり方ですけど、多分僕は、見ないで行ったら見てないなりの結果しか出せないと思うんですよ。ちゃんと準備した方がいいタイプなのかなと思いますね。

赤見 努力の人ですね。

 努力はみんなそれぞれしてるんでしょうけど、感性で乗ってうまいこと行っている人は、すごくうらやましいっていう気持ちもあります。天才って言われるような人がうらやましい。もちろん、僕には見えていないような、何かはしてるんでしょうけどね。

赤見 でも、こうやって結果が出ると、やって来たことが間違いじゃなかったって思うんじゃないですか。それに自分としても、こうやって結果を出した人を見るとすごく励みになります。

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▲「黛騎手のように努力して結果を出した人を見るとすごく励みになります」


 そうですよね。地道な努力をしてコツコツ成績を上げていってる先輩騎手が活躍されてる姿を見ると、自分も努力して頑張ろうという気持ちになります。

赤見 黛騎手も、その中の1人に入りましたよ!

 入れましたか? そういうふうに後輩も見てくれるかな? そうだとうれしいです。

騎手免許の重みは誰よりも


赤見 去年は初めて20勝。一昨年も18勝ですし、8年目9年目あたりからぐっと成績が上がって、かなり良い流れできてますね。

 そうですね。今のところはそうですけど、新しい年になればまた0に戻るので。今年はもっともっと勝てるようにがんばりたいですね。

赤見 何か転機になったことってあったんですか? ……結婚とか!? (2013年にタレントの水野由加里さんと結婚)

 あっ、結婚は、そうですね(照笑)。「結婚したからかな」って言ってくださる方は多いです。家での生活に負担がないようにしてくれて、仕事以外のことを考えなくていい環境にいられるのは、家内のおかげだと思いますよね。

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▲「仕事以外のことを考えなくていい環境にいられるのは、家内のおかげです」


赤見 私も仲良くさせてもらってますけど、すごくしっかりしていて。私の方が年上ですけど、教わることがいっぱいあります。長年アタックしたんですもんね!

 …そうですね(照笑)。

赤見 いい人と出会って結婚して、騎手としてまた一歩上を目指して。ここまでを振り返るとどうですか?

 昔の成績を見てみると、自分でもひどいなって思いますよね。1年目は1着が2回で、2着なんて0回ですよ。3kg減でこの成績というのは…。この時の反省点と言えば、減量があると前に行ったら残れることが多いじゃないですか。それで、どんな馬でも前ばかり走ってたんですよね。

赤見 減量を最大限にいかすためにと思って。

 そうです。最大限にいかすには前に行けばいいと思ってたんですけど、馬の個性を無視していることでもありますよね。馬の個性を壊しちゃっているところもあったので、そういったところで結果が出なかったんでしょうね。それに気がついたのは、3、4年目ぐらいです。

赤見 減量がなくなったぐらいから。

 減量がなくなったら、先輩方と同じ条件ですからね。どうやって勝負したらいいんだろうっていうことを、もう本当に、いろいろ考えましたよね。

赤見 でも、4年目から成績が上がってますよね。普通は減量があった時にいっぱい乗れて、4年目にガクッと下がることが多いですけど。

 そうなんです。普通は逆ですよね。だから、みんなにびっくりされます。考え方というのが多分変わっていったと思います。他の人が後ろから行って勝った馬とかでも、「自分は思い切り行ってやる」みたいな感じで逃げたりして。たまにハマるのこともありましたけど、ポジションばかりにとらわれて、馬の体力を消耗させてしまって、最後まで残れないチグハグな競馬になることが多かったです。どっちかと言うと、馬じゃなくて人間が走っちゃってるような感じですよね。そういうのは極力なくすようにして、とは考えています。

赤見 辛かった時もあったんじゃないですか?

 減量が切れるという時が、やっぱり辛かったですよね。数字も全然だめで。乗り役を続けられるのかな、というぐらいに考えちゃいましたので。

赤見 騎乗依頼が少なくなって、デビューしても早くに辞めて行ってしまう人も現実的にいるわけじゃないですか。

 ええ、そうですね。でも、せっかく苦労してもらった騎手免許ですからって思いますよね。

赤見 免許を取るのも労しました?

 僕は、競馬学校で留年していますので。僕らの期は、競馬学校改革が始まった時だったんです。

赤見 競馬学校改革?

 はい。外国や地方からどんどんトップジョッキーが来る時代になるので、それに負けないために、デビューした時からある程度しっかり乗れる騎手を作るという方針で、成績が平均点以下の人は全員留年ということに変わったんです。

赤見 それまではデビューできたレベルでも?

 そうですね。それまでが簡単だったというわけじゃないですけど、3年間ちゃんとやっていればデビューは出来たらしいんです。でも、ちゃんとやっているだけじゃだめっていうことになって。「優・良・可・不可」のなかで、「可」から上なら進級できたのが、「可」じゃだめ「不可」があったら退学っていうくらい厳しくなって。

赤見 10代でその現実を目の当たりにして。初めての大きな挫折だったんじゃないですか?

 苦しかったですね。生きるか死ぬか、自分の将来がそこで決まりますからね。でも、自分には騎手しかなかったですので。騎手になれなかったら、自分には何も残らないと思ってたので、必死でしがみついてました。それだけ長い時間をかけて騎手免許をもらえたので、他の人達より長い分、騎手免許の重さは分かってるつもりです。(つづく)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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