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変則ラップをこなしたチャンピオン/フェブラリーS

  • 2015年02月23日(月) 18時00分


本当の強さはもう少し長い距離で

 5歳牡馬コパノリッキー(父ゴールドアリュール)が、昨年につづき見事に連覇達成。これでダート通算【9-2-1-4】となった。

 勝ち時計の1分36秒3(9RヒヤシンスSの3歳馬ゴールデンバローズが1分37秒1)は、古馬GIにしてはかなり物足りなく思えたが、これはコーリンベリーの出遅れによって生じた特殊なレースの流れによるところが大きい。

 行くはずだった逃げ馬コーリンベリーが出遅れ、同じく内枠のコパノリッキーも例によってスタートそのものは速くなかった。レース前から、事実上の主導権をにぎるだろうコパノリッキーの2-3番手追走では、ライバル陣営には「ハイペースにはなりそうもない」読みがあり、理想はコパノリッキーに離されない好位追走である。そう思っていた外枠の各馬の出足は珍しいほど良かった。

 前半は「12秒3-10秒6-11秒4」=34秒3。この10年間では、メイショウボーラーが15着に沈んだ2006年の「前半33秒9」に次ぐ2番目にきびしい前半3ハロンである。それも、二の足をきかせて2番手のインにおさまったコパノリッキーを中心に7-8頭が固まって先団を形成しての前半のハイペースである。

 しかし、レース全体はハイペースにならなかった。外からハナに立ったアドマイヤロイヤル(横山典弘騎手)以下、「これはさすがに速すぎる…」と察した先行グループは、3コーナーに差しかかった4ハロン目から5ハロン目にかけ、急に「12秒6-13秒1」。一気にペースダウンしたのである。だいたい少し速めの一定ペースを踏むことが多いダート1600mのフェブラリーSで、道中「13秒台」のラップが刻まれるなど、全体レベルの高くなった近年ではありえない。この10年間では初めてであり、600mから1200mにかけての道中3ハロンは「38秒0」だった。前出、3歳ゴールデンバローズのレースは「37秒1」である。

 ふつうの流れのダート1600mでも途中からかかってしまうシルクフォーチュン(父ゴールドアリュール)が、ラップの落ちたところから猛然とまくって、直線先頭に並びかけ「まさか…」と思わせたあたりが、特殊なラップが刻まれていたことをストレートに示している。

 16番人気のシルクフォーチュンは、結果、15番人気のサトノタイガーと並んで最終的には15-16着を分け合ったが、この2頭、勝ったコパノリッキーと大きな差はなく約6馬身くらいの「1秒1差」である。1着から16着までほとんど差がつかなかったのも、全体時計の遅くなった今回のフェブラリーSが残したきわめて珍しい記録だった。

 途中のペースダウンにより、前半1000m通過こそ「60秒0」に落ち着いたものの、変則ラップが影響した馬は少なからずいる。ただし、そんな変則ペースの中心にいながら、やっぱり抜け出して後続を封じたコパノリッキーは、走破タイムが示す以上に難しい1600mをこなしたチャンピオンとして認められていい。これで、フェブラリーS2連勝に、かしわ記念(船橋)。1600のGIを3勝したことになるが、武豊騎手が「平均ペースに乗った際のリズムが父ゴールドアリュールに似ている」と評するように、本当の強さを発揮するのはダートでの全7勝を1800-2000mで記録した父と同様、もう少し長い距離かもしれない。帝王賞を筆頭にコパノリッキーが目標にできるレースは多い。

 父ゴールドアリュールは、今回出走した3頭や、エスポワールシチー、スマートファルコン、オーロマイスターなどの活躍により、その産駒が4歳に達した2009年以降、全日本のダート限定ランキング「2位→2位→2位→2位→2位→1位」であり、今年15年もライバルのキングカメハメハと激しいトップ争いを展開している。

 インカンテーション(父シニスターミニスター)は、最近は流れに乗れないことが多かったが、そのことによって追っての味も加わっていた自在性が、3週連続の好調教が示すデキの良さ、有利な外枠、強気に先団につけて行った内田博幸騎手の積極騎乗により、タフな東京の1600mで全面的に生きた印象だった。最後まで鈍らずに2着死守である。どうやら、今回の変形ペースになった1600mは、1800-2000mくらいの方が総合能力を発揮しやすい馬に有利だったかもしれない。マイルGI3勝のコパノリッキーも、まだ最高タイムは1分36秒0であり、もちろん1600mは守備範囲内だが、1800-2000m級の方がもっと高い能力を発揮できるのではないか、という意味である。

 ベストウォーリア(父マジェステックウォリアー、その父A.P.インディ)は、7-8頭の先行集団が築かれはじめたとき、好スタートを切っていたが、最初に「少し引いた」馬だった。戸崎圭太騎手の再三用いる一旦好位に下げる絶妙のペース判断と思えたが、そこで待っていたのが前述の「12秒6-13秒1」という特殊なペースダウンの中盤。下げたことにより、今度はゴッタの先行集団の外に回らなければならなくなってしまった。そこでついたコパノリッキーと、インカンテーションとの差を、2頭を上回る上がりで追いすがったが、コパノリッキーと約1馬身差。こちらは完全なマイラータイプだから、もっとスピード能力優先の決着が理想だったろう。

 6着にとどまったワイドバッハ(父アジュディケーティング)も、1600mにしては複雑すぎた全体の流れに良さを削がれた印象が濃い。馬場差もあるから時計そのものは問題ではないが、武蔵野S快勝は、自身「59秒5-35秒7」=1分35秒2だったが、今回は中盤に変則ラップがはさまれたため、「60秒6-36秒0」=1分36秒6のバランスである。レース序盤に脚をつかいはしたが、中盤に緩んだから、自身の1000m通過は1秒1も遅くなったのに、上がり36秒0は武蔵野Sより遅い。後半は上位馬とほとんど同じ数字にとどまることになり、エンジン全開はいつもと異なり、G寸前になってからだった。

 内枠のローマンレジェンド(父スペシャルウィーク)は、最初からインぴったりを回って、ただ1頭だけ上がり35秒台(35秒8)を記録したが、一気にラップの落ちた3コーナー過ぎからしばらくなだめ通しの追走だった。そこで差を詰めたかったが、だいたい東京のマイル戦で動く場所ではない。また、前に密集した馬群はペースが緩んだからバラける気配もなかった。それでコパノリッキーと「0秒3差」。物足りないというより、中身は不完全燃焼だったろう。

 マイル戦に慣れていないサンビスタカゼノコは、前者は先行し、後者は控える作戦に出たが、スタート直後からのあまりに複雑な流れに、いいように翻弄されてしまった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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