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復帰を果たしたキズナの主戦・武豊騎手など関係者にインタビュー

  • 2015年02月24日(火) 18時00分
競馬の職人

キズナ



武豊騎手「やっぱりよく走る馬だな」

 今年初のJRA・GI競走、フェブラリーS(ダート1600m)ではコパノリッキーと武豊騎手が史上初の連覇を成し遂げました。おめでとうございます!

 少しダッシュがつきませんでしたが、二の脚を使ってスーッと先行グループに取り付いて2番手を追走し直線で先頭に立つと抜群の手応えでインカンテーションの猛走を振りきりゴールへ。先頭集団に早めに取り付いてからのペースダウンが直線での伸びにつながっていきましたね。

 この瞬間、豊さんの手綱さばきは『さすがだな』と感激しました。

 次走はかしわ記念の連覇を狙うとのことでしたが、今日左前脚の橈骨遠位端を骨折していることが発表されました。全治は6か月程度で秋には復帰する、とのことですので秋のGIでホッコータルマエとの最優秀ダート馬の称号を賭けた大勝負を楽しみにしたいと思います。

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2月22日のフェブラリーSではコパノリッキーと武豊騎手が史上初の連覇を成し遂げました(撮影:下野 雄規)



 今週は、2月15日の京都記念に出走したキズナ号関係者の声を聴いてきました。

 ダービー馬キズナ号は、昨年天皇賞春のあと左前脚第3手根骨骨折を発症し、京都記念が9か月ぶりのレースでしたが騎手とともに厳しい冬を過ごし、春の訪れとともに芽を出し開花を予感させる走りだったなー、と僕一人が余韻に浸っていました。

 いやいや実は一人じゃなかったんですよ。レース後にバックヤードツアーの案内をしたんですが、ファンの方たちもキズナの復帰を待ちわびていました。『復帰は無理かと思っていたからな。今日はハープスターも出走していてGIみたいなレースで見ごたえあって面白かった』とファンの方も言っていました(うれしい声ですね)。

 乗り運動を再開した2月18日の栗東トレセンに取材へ行ってきました。レースを終えて坂路で一番遅い時間に一頭調教が行われました。休み明けでも折り合いが付き素直で順調な乗り込みでしたが、走る前は尻っぱねをしたり、飛び跳ねるなど元気をアピールしていました。

 まずは佐々木晶三調教師にお話を伺いました。

常石 先生、今日の走りは、どうでしたか?

佐々木 いつも元気だね。オンとオフがはっきりしていて楽しい馬だよ。

常石 京都記念では、キズナが復帰しうれしかったです。後方から追い込んでくるキレる脚は健在でしたね。

佐々木 とりあえず無事に走ってくれてほっとしました。12月12日に帰厩し、馬運車から降りてくるとチャカつく仕草を見せ、馬房へ入るのを嫌うほど、やんちゃぶりは健在でしたよ。530キロほどあった馬体を絞り込むため、軽く坂路追いをこなしながらオーバーワークにならないように考え13本消化し、体力作りもしっかり最終追い切りまでにやりました。ちょっと太め残りだったけどあれ以上絞ると体力が持たないからね。最終追い切りは豊ちゃん(武騎手)がどうしても乗りたいというから乗ってもらったよ。

 CWコースで初時計をだしたのが1月21日で、2月15日に9か月ぶりのレース復帰。ちょっと太めでしたが、太めというよりまだまだ成長しているね。こんな馬は珍しいですね。大怪我だったので無事に走ってくれるように細心の気配りをしている。

 結果は出せなかったけどさすが『キズナ』という走りを見せてくれたね。3コーナーあたりからは、心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしたよ。まずは、無事に走ってくれて次につながるレースだったので楽しみだよね。

常石 次は大阪杯ですか?

佐々木 そして天皇賞春へ持っていきたいですね。馬のレースだから何が起こるかわからないけど目指していきたいですね。

常石 楽しみにしています。ありがとうございました。

 続いて豊さんにもお聞きしました。

常石 キズナの感触はいかがでしたか?後方からの追い上げは最速でしたね。

武豊 ダービー馬ですからね。結果を出さないといけない馬だったのに残念でしたが、9か月ぶりのレースだったから最後の70から80mで伸びが少し鈍りました。折り合いもついたし切れる脚は健在でさすがだと感じました。やっぱりよく走る馬だな、と。大怪我の後だったけど力のある馬だと証明できましたね。次走が楽しみだね。

競馬の職人

武豊騎手「次走が楽しみだね」(写真は2013年凱旋門賞前のインタビュー時)



常石 キズナと豊さんのイメージがぴったりで人馬一体感を感じました。

武豊 どんな感じやねん(笑)

常石 えーっと最後方からじわじわっと上がって行き…うーん、次までに考えておきます(笑いでごまかしてしまいました)。ありがとうございました。

 最後は担当の田重田厩務員にお聞きしました。

常石 キズナ健在をアピールできましたね。

田重田 何とか無事に走ってくれと思っていましたね。いやー、あの馬体重を測ったとき514キロは少し重かったな。あと6キロは落とさないといけないと思った。今回、厩舎へ帰ってから14回の追切を消化しての出走だったのであれ以上すると疲れが残ってしまいそれこそレースで使えなくなってしまいます。ファンの皆様の期待を裏切ってしまいますよね。あの時点としては、ほぼ仕上がっていたと思います。当日は、返し馬の雰囲気も良かったし次が楽しみだね。

常石 後方から道中折り合いをつけてじっくり上がっていき勝負所で加速した脚はさすがキズナだと息を飲みましたよ。怪我の後はむずかしいといわれていますよね。

田重田 そうだよね。あの脚はキズナだよね。何度も言うけど無事に帰ってきてくれるのが一番だよ。無事だと次があり、結果は後からついてくるからね。レースに出るまでは仕上げたと思っていても半信半疑のところはありましたね。馬は本能が働くから怪我が治っていても痛かったことを覚えてるので前脚を使うかどうか? 本能でカバーをしてしまうのでないかという不安は少しありました。

 僕もだけど腰を痛めた時は、またやったら困るなとかばってしまうことってあるからね。

 それを見事に吹っ切ったキズナの精神面の強さにおどろきました。長く使う脚ではなく一瞬の切れ味、スピードを使う馬は瞬発力やパワーがいるので脚にかかる負担も大きいのでばねを強くしないともたないですね。

常石 パドックでは、どんなところを見ればいいですか?

田重田 キズナの場合だと左前脚が怪我をしたので前脚の踏み込みがしっかりできているか? 全体にリズムよく歩いているか? 人と同じで元気な時は、きびきび歩き姿勢もいいんですよ。馬も同じで自分からハミをとってキビキビ歩く。キビキビってさ馬体全身を使って歩いてるでしょう。それがいい準備運動なんだよな。馬のリズムとテンポが合わずぐちゃぐちゃ歩いてるときって見かけるでしょう。あれをすると馬が走れなくなると思うよ。

 つねちゃんもマラソンしてるでしょう。自分のリズムがあり、そのペースを守ってる時って走りやすいでしょう。

常石 はい、よくわかります。

田重田 調教を終え運動の時も馬の歩くリズムをつかんでしっかり歩くことが大事だと思う。だらだら歩いたりちぐはぐになってるのを見かけると馬がかわいそうだなって感じるわ。

常石 そうですよね。僕も足が痛かったりするとリズムよく、というか歩けないです。

田重田 そうなんだよ。いつも同じテンポで歩いていると馬の健康状態が歩き方で分かるんだよ。そこが大事だし病気やけがの早期発見につながるんです。歩くことを大事にしています。この馬走るなって感じる時って触って筋肉の柔らかさや馬の持つ雰囲気でなんとなく気品があるとか感じることがあるけど、やっぱり歩いている時が一番わかりやすい。基本だね。クッションがよくバネとしなやかさがあり、歩幅が決まってくると歩いていても気持ちがいいね。エアーが抜けるかどうかは大切だよね。全身を使って歩いていると腰回りもしっかりし立体感が出ている。よく走る馬でも筋肉が固くてどさどさって歩く馬は、故障するなーって感じます。

常石 パドックで歩くのが遅い馬っているでしょう。そんな時追い越せないからどうしているんですか?

田重田 あれが困るんだよね。大外回ってますね。前が早いと歩きやすいので助かります。

常石 いろいろ工夫しているんですね。次は大阪杯ですね。

田重田 昨年勝っているレースなので調整しやすいです。とっても賢い馬で体力とともに精神力もタフになってきたので楽しみです。腹帯の穴が一つしまってきたので体重調整もうまくいってます。切れ味勝負だけに折り合いがむずかしいと思いますが豊騎手なら大丈夫なので楽しみにしています。

常石 貴重な話ありがとうございました。最後にファンの方へメッセージをおねがいします。

田重田 ファンの皆様の期待を裏切らない走りを見せキズナ号で絆をつないでいきましょう。応援してください。

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 キズナってやはりみんなの心と心を結ぶ絆なんですね。某ケーキ屋さんで『絆クッキー』をみつけました。確か以前は蹄鉄クッキーという名前だったような気がするんですがそう思うのは僕だけでしょうか?

 3月1日からはM.デムーロ騎手、C.ルメール騎手の両外国人騎手も登録され競馬がますます面白くなってくる春です。つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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