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西園師「後藤騎手は最後まで果敢な騎乗だった」

  • 2015年03月05日(木) 18時00分


 あれから1週間、話題は後藤くんのことばかりです。

 たまたまこのタイミングで後藤くんが新人のころから友達付き合いがあるという競馬サークルとはまったく縁のないお医者さまとお話する機会に恵まれました。その方と後藤くんは家族ぐるみでお互いの家を行き来する仲だったのですが、その中であるとき、お医者さまの息子さんが後藤くんに「事故のことをどう思っているの?」と聞いたそうです。子供だから聞けるストレートな質問ですね。

 そのとき、後藤くんは「もし、お父さんの患者さんの治療がうまくいかなかったらどう思う?お父さんがベストを尽くしても、うまくいかないこともある。それと一緒で競馬で戦っている以上、こういうことはあるんだ」と答えたそうです。

 後藤くんらしい答えだな、と思いました。

 そのお医者さまは救急が専門とのことで、後藤くんは医学的にも個人的にも相談されたそうです。その中で「外傷患者は、けがの治療にも増して精神的なケアも大切」と話していたそうです。けがは体だけなく心にも後遺症を残します。この事実は世界的にも注目が集まっていると聞いています。騎手という仕事はアスリートであると同時に乗り馬を集めなければいけません。馬主さんや調教師さんらを納得させなければならない分、気丈に振る舞いがちです。体のケア、心のケア、周囲の関心…これらをすべていいように両立させるのは至難の業でしょう。でも、それでも少しでも騎手をとりまく環境がいい方向に向いてくれるといいですね。

 栗東では後藤くんが最後に勝ったフロアクラフトを見てきました。フロアクラフトの担当者はシゲルスダチも担当していた渡辺助手。そして、フロアクラフトはいま、かつてシゲルスダチがいた西園厩舎の馬房にいます。これも何かの縁なのでしょうか。

トレセン密着

いまフロアクラフトがいる馬房でくつろぐシゲルスダチ


「後藤くんは『この馬は左まわりのほうがいい。東京で走ることがあったら、ぜひ乗せてください!』と話していたのに」と辛そうな西園先生と渡辺助手。

 そして、西園師は騎手の先輩として、調教師として後藤騎手を熱く誉めました。

「落馬するとやはり怖くなって腰が引けるものだが、彼は土曜日の落馬でおでこに怪我をしたように大怪我したあとも前傾姿勢の競馬を続けた。最後まで果敢な騎乗だった」

 最後に騎乗した日、西園厩舎の3歳未勝利・アルーリングトーンにも騎乗していました。後藤くんは「ブリンカーをつけたほうがいいですね」と進言していたのですが、結果的にその言葉は同馬への遺言になってしまいました。今週、3月8日(日)の2レース、アルーリングトーンはブリンカーをつけて挑みます。応援しなくちゃ、ですね。

 密葬ということで“最期に会うのは難しいかな”と思っていましたが、近い方からのお声がけがあったおかげでお通夜に参列できました。その際、少しだけ残しておいたシゲルスダチのたてがみと当時の担当厩務員だった鈴木さんからいただいたNHKマイルのときに履いていたスダチの蹄鉄を持っていきました。思い立って持参したものの、後藤くん自身はとてもスダチを可愛がってくれたとはいえ、結果的にあのNHKマイルが彼の人生を大きく変えてしまったことを考えると…。どうしたらいいものか考えあぐね、結局、師匠である伊藤正徳先生にお預けしました。きっと伊藤先生の判断で後藤くんのいいようにしてくださったでしょう。

 あのたてがみは後藤くんを通じて、伊藤正徳先生にお願いして分けていただいたものでした。あのあと、後藤くんは自らのお守りにしていたようですね。わたしはそれを鈴木さんの分と神戸の馬頭観音妙光院さんにお納めする分に分けたのですが…。まさか、こんなかたちで後藤くんに渡すことになるとは思いませんでした。

 今だから書ける話ですが、2012年の落馬のあと、後藤くんのお見舞いに行く際、スダチのたてがみを伊勢神宮のお守りに入れて渡しました。当時、スダチはあれだけ派手に転んでもほぼ無傷!でしたから、厩舎サイドにはいろんな方から「ご利益がありそうだから、たてがみを分けて欲しい」という要望がたくさんきていましたが、それらはすべて断った上でともに戦った後藤騎手だからということで特別にそうさせていただきました。

 今後、またアクシデントがあっても無事でいられますように。

 その一心でした。謹んでご冥福をお祈りします。

デジタルレシピ研究家。パソコン教師→競馬評論家に転身→IT業界にも復帰。競馬予想は卒業したが、現在も栗東トレセンでニュースやコラム中心の取材を続けている。“ねぇさん”と呼ばれる世話焼きが高じ、AFPを取得しお金の相談も受ける毎日。公式ブログ「ねぇブロ」(http://ameblo.jp/takako-hanaoka/)

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