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ダートに戻るドバイWC、現地大物が好走を予想した日本馬とは

  • 2015年03月25日(水) 12時00分


ダートコース回帰への2つの背景


 ドバイワールドCナイトの開催が、いよいよ今週の土曜日に迫った。

 今年ドバイ開催の大きなポイントの1つが、メイダン競馬場の内回りコースの路面が、昨年までの「タペタ」というブランドのオールウェザートラックから、「ダート」に変わった点にある。

 路面を変えた背景には、大きく分けて2つの理由があった。

 1つは、タペタはメンテナンスが非常に難しかったこと。タペタに限らず、ほとんどのオールウェザー素材が、構成要素としてワックスを含んでおり、気温が上がるとそのワックスが融け出す。高温ならば高温で安定していれば、それはそれで路面も安定した状態を保つ手段もあるのだが、1日の中で気温の低い時間帯と高い時間帯があると、問題は厄介になる。つまりは、調教の時間帯である早朝には気温が低く、レースが行われる午後には気温が上昇するとなると、調教時とレース時で路面の状態が大きく変わってしまうのだ。

 もともとが、気温が下がっても路面が凍らないという、寒冷地用の素材として開発されたのがオールウェザートラックだ。寒冷地では誠にうまく機能し、ヨーロッパでは今も各国で増加傾向にあり、北米大陸でもカナダのウッドバインのオールウェザートラックなどは関係者の評判も芳しいのだが、気候的に温暖な地では残念ながらオールウェザートラックが実用に適さないことが、徐々に露呈していった。

 オールウェザートラックを巡って最も大きな混乱を来たしたのが、州の競馬委員会の方針としてメイントラックをオールウェザーとすることを決めたカリフォルニア州だった。サンタアニタ、ハリウッドパーク、デルマーという主要競馬場がすべてオールウェザーとなったものの、使い始めてみるとメンテナンスが難しく、サンタアニタとデルマーはダートに回帰。ハリウッドパークは閉鎖になって、ダートがメイントラックのロスアラミトスが代替地となり、結局今もオ−ルウェザ−を使用しているカリフォルニアの競馬場は、北部のゴールデンゲートだけとなってしまった。

 ドバイも、言うまでもなく温暖な地で、メイダンの内廻りコースに敷設したタペタを安定した状態に保つことは難しく、2010年のメイダン開場から5シーズンを経た後、今季から内回りコースの路面をダートに変えたのだった。

 路面変更の2つめの理由は、北米調教馬の動向にあった。ナドアルシバ競馬を舞台としていた頃、ワールドCナイトのダートの競馬で圧倒的存在感を示していたのが、「ダートの本場」北米を拠点としていた馬たちだった。1996年の第1回ドバイワールドCを名馬シガーが制し、このレースの存在意義を瞬く間に高めたのを皮切りに、ナドアルシバ時代の14年間で北米調教馬はドバイワールドCに8勝。ダートの1200mという、北米調教馬にとっては十八番の競走条件で争われるゴールデンシャヒーンなどは、2000年から2009年までの10年間で北米調教馬が8勝という、圧倒的支配力を発揮していた。

 ところが2010年、外回りコースが芝で、内回りコースがタペタというメイダン競馬場が完成し、ドバイワールドCナイトの舞台がそこへ移ると、状況は一変した。オールウェザートラックとは、ダートよりも芝の方が互換性が高い。つまり、ワールドCナイトは芝馬たちの祭典に変貌し、北米調教馬たちのパフォーマンスは一気に落ちた。2010年から2014年の5年間で、ワールドCを制した北米調教馬は2013年のアニマルキングダムの1頭のみ。あれだけ優勢を誇ったゴールデンシャヒーンですら、北米調教馬の優勝は2010年のキンセイルキング1頭だけと、一気に劣勢に立たされたのだ。

 本領が発揮できないとなると、北米調教馬がドバイ開催に遠征することすら少なくなり、2014年にはついに、ワールドCナイト全体で北米調教馬は3頭、メイン競走のワールドCにいたっては北米代表がいないという事態を招いたのだった。競馬の世界選手権を標榜するワールドCに、北米調教馬が居ないというのはいかがなものか、という声も、内回りコースのダート回帰を後押しすることになった。

 その結果、2015年のドバイワールドCには、カリフォルニアクローム、リーという、西海岸と東海岸を代表するトップホースがエントリー。ワールドCナイト全体で北米調教馬の参戦は12頭あり、このうち8頭はダートのレースに出走予定だから、ダートに戻せばアメリカの馬も戻ってくるだろうという、主催者の目論見通りの結果となっている。

日本のファンにとっては嬉しい発言


 スーパーサタデーまでの競馬を見ると、メイダンのダートはやや時計が掛かっている印象がある。例えば、ワールドCへ向けた地元の前哨戦としてスーパーサタデーに組まれたGIアルマクトゥームチャレンジ・ラウンド3(d2000m)の勝ち時計は、2分4秒92だった。

 これは、路面がタペタだった2010年〜2014年の5年間の平均勝ちタイム2分3秒60より1秒32遅く、ナドアルシバのダートで行われていた時代の最後の5年間の平均勝ちタイム2分2秒13に比べると2.79秒遅い。

 同日に行われた、ゴールデンシャヒーンへ向けた地元の前哨戦GIIIマハブアルシマール(d1200m)も、勝ち時計は1分12秒13。これもまた、タペタ時代の5年間の平均勝ち時計である1分11秒50より0秒63遅く、ナドアルシバの最後の5年の平均である1分10秒41よりも1秒72遅い。

 ダートコースというのはどこも、敷設間もない時期は路面が馴染んでおらず、時計のかかる傾向があるが、メイダンのダートも現状は、スピードよりもパワー優先の馬場状態となっている。

 そして、何よりも興味深いのが、GIアルマクトゥームチャレンジ・ラウンド3とGIIIマハブアルシマールの結果だった。アルマクトゥームチャレンジ・ラウンド3を勝ったのは、昨年のGIドバイワールドCの勝ち馬アフリカンストーリーで、2着は昨年のGIアルマクトゥームチャレンジ・ラウンド3の勝ち馬プリンスビショップだった。

 GIIIマハブアルシマールを勝ったシェイシーは上がり馬で、過去との比較をしづらいが、ここで2着となったのは、昨年のGIゴールデンシャヒーンの3着馬ユナイテッドカラーであった。すなわち、タペタで能力全開だった馬たちが、ダートに路面が変わった今年も同様のパフォーマンスを見せたのである。

 こうした結果を踏まえ、ワールドCナイトを8日後に控えた20日に興味深い発言をしたのは、マクトゥームファミリーの一員で、自らの競馬と生産の組織シャドウェルエステイトを司るハムダン殿下だ。

 ハムダン殿下と言えば昨年、メイダンの内回りコースはダートに戻すべきだと、路面変更への決定打となるコメントを公に発表した人物である。ハムダン殿下は「カリージタイムス」のインタビューに答えて、メイダンのダートは一般的なダートとは似て非なるもののようだと、自らの印象を話し、北米調教馬はハンドリングするのに苦労するのではないか、との予測を公表。その上で、ドバイワールドCは、アフリカンストーリー、プリンスビショップ、ホッコータルマエの3頭の争いになるのではないか、との見解を示した。

 馬を見る目にかけてはマクトゥームファミリーの中でも随一と言われるハムダン殿下の言葉だけに、重みがあり、日本のファンにとっては嬉しい発言である。

 UAEダービーを走るゴールデンバローズ、ディアドムス、タップザット、ドバイワールドCを走るホッコータルマエ、エピファネイアが、どんな競馬を見せるか。その結果次第では、ワールドC開催の輪郭も変わりかねないだけに、大きな注目とともに見守りたいと思う。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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