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文句なしの日本ダービーの最有力馬/皐月賞

  • 2015年04月20日(月) 18時00分


あまりに素晴らしすぎたドゥラメンテ

 ドゥラメンテ(父キングカメハメハ)はあまりに素晴らしすぎた。勝者には何もやるな、に当てはまるくらい恵まれた環境に育ってはいるが、馬は人間とは大きく異なりもっとずっと厳しい世界に生きている。素直に皐月賞の圧勝をたたえたい。

 ドゥラメンテは、2月の共同通信杯を2着に負けて放牧に出ている。美浦に帰ってきたのが3月26日。すでに弥生賞もスプリングSも終了し、獲得賞金1650万では皐月賞出走は非常にむずかしい状況だった。その時点で賞金ボーダーラインに達していない。もちろん、皐月賞出走をあきらめたわけではないが、同じ堀厩舎には3戦3勝のサトノクラウンがいる。皐月賞に出走できないようなら、日本ダービーに狙いを定めよう。そんなムードもあった。

 でも、皐月賞の2週前の登録が行われた時点で、賞金順位16位。出走が可能になると同時に、鞍上はM.デムーロ(皐月賞6戦3勝)に決まった。なんとしても皐月賞に出走しなければならない。そういう状況ではない立場が、ムリするとテンションが上がり、一族特有の激しい性格が前面に出てしまう死角を封じてくれたのかもしれない。なにが幸いするかわからない。

 レッツゴードンキが桜花賞を勝った父キングカメハメハは、これが牡馬クラシック初勝利。いま、勢いに乗っているどころではないからすごい。ドゥラメンテは、合計6頭もの出走馬を送ったノーザンファームの生産馬で、母アドマイヤグルーヴも、祖母エアグルーヴも、3代母ダイナカールもJRAのG1格の勝ち馬である。勝って当然のような基盤にささえられたドゥラメンテは、この圧勝で日本ダービーの最有力馬となると同時に、陣営から秋の「凱旋門賞挑戦」の意志も示された。

 ドゥラメンテの皐月賞制覇により、ダイナカール、エアグルーヴが代表するこの牝系は「4代連続してG1馬」となった。その前、4代母はシャダイフェザー(父ガーサント)。5代母が輸入牝馬パロクサイド(父ネバーセイダイ)であり、ドゥラメンテの母方に配されてきた種牡馬は「ガーサント、ノーザンテースト、トニービン、サンデーサイレンス、そして、キングカメハメハ」。

 グループの擁する代表的な成功種牡馬ばかりである。数年前に調べた際、社台グループの繁殖馬名簿にはダイナカールから広がる繁殖牝馬が実に20数頭もいた。素晴らしい輸入牝系はいくつも存在するが、パロクサイドの牝系は、社台グループの歴史とともに歩んできた代表的なファミリーであり、中でも、もっとも大切にされてきたファミリーである。

 4コーナーを回りながら、勢い余ってふくれるように斜行し、そこからさらに猛然と伸びて、この快時計1分58秒2(自身の上がり33秒9)を記録。それで最後の1ハロン推定11秒0を切ったか? の鋭さで大楽勝の底力は、名牝系に配されてきた歴代の活躍種牡馬の血の結集かもしれない。だいたい、乗っていたデムーロ騎手が一番びっくりである。

 もし、日本ダービーで死角があるとするなら、一歩間違えれば暴走にもなりそうなパワーを調教やレースでうまく制御できなかったときか。今回はハードな調教をあえて避け、M.デムーロ騎手が最初から後方に下げ、なだめて進んで秘める能力を爆発させたが、一族の激しい気性は知れわたっている。出発点の4代母の半姉にあたる持ち込み馬シャダイカール(父カールモント)は、オークス路線で活躍し、有馬記念を勝つことになるタニノチカラをダートで倒したこともあるくらいだが、3歳春の馬体重は成績には載っていない。だいたい410キロ前後の小柄馬だったと思えるが、係員に馬体重など計らせない。汗をしたたらせながらぶっ飛んで馬場に出てきたからである。それでもオークス4着だった。

 M.デムーロ騎手は斜行により、JRAの開催4日間の騎乗停止となったが、わざと斜行したのでも、不注意の斜行でもなかった。その強さに驚嘆しながら、本当は「4コーナーは怖かった」と振り返っている。ドゥラメンテ自身がぶっ飛んだのである。たしかに影響を受けた馬はいたが、大きな不利を生じた馬は奇跡のようにいない。ドゥラメンテの持って生まれた運の強さである。

 ドゥラメンテは文句なしの日本ダービーの最有力馬であるが、過去、中山2000mの皐月賞を「1分58秒台」で快勝した勝ち馬は、日本ダービー成績【0-0-0-4】である。なぜ、という明解な理由はないが、血統背景とは関係なく、スピード能力が前面に出すぎてしまっているからではないかと推測することはできる。ここは熟考の必要がある。

 レースの流れは、桜花賞の不名誉を恥じた横山典弘騎手(クラリティスカイ)の演出による「前半59秒2-後半59秒0」=1分58秒2。完ぺきなバランスラップだった。こうなると力のある馬は必ず上位に浮上する。フロックの好走はなくなり、展開が…、ペースが…。そういう敗因を挙げることができない総合力の激突である。

リアルスティールは中身文句なし、キタサンブラックもダービーを展望していい内容

 このペースに4-5番手で流れに乗り、4コーナーを回って先頭に立ったリアルスティール(父ディープインパクト)は、追いすがろうとする3着のキタサンブラック(父ブラックタイド)には2馬身半もの差をつけ、1分58秒4(自身の上がり34秒5)で乗り切った。「先頭に立つのが早すぎた(福永祐一騎手)」もなにもない。ふつうの年なら、2馬身半差圧勝であり、走破タイム歴代2位の勝ち馬に輝く寸前だった。ありえない勢いでドゥラメンテが交わしてしまったのである。

 今回が4戦目。ビシッと追っての出走。いつもとは周囲のムードからして違うG1とあって、少し気負っていた印象もあるが、これは許容範囲。正攻法のレースに、正攻法すぎたということもない。中身文句なしの2着である。今回は、ドゥラメンテがすごすぎただけ。リアルスティールはまだ完成度は高くない。日本ダービーに向けてあと1ヶ月半。どこまで前進できるかである。

 3着キタサンブラックは、北島オーナーが「良く走った。立派なものだ」と誉めたたえるのに、十分に値する力走だった。このペースに乗って1分58秒8は、日本ダービーを展望していい内容である。東京の芝は【2-0-0-0】。皐月賞ほどきびしいペースにはならないはずである。

 4着ブライトエンブレム(父ネオユニヴァース)も、現時点の能力はほぼ出し切った4着ではないかと考えたい。こちらも日本ダービーでさらに前進したい。

 1番人気のサトノクラウン(父マルジュ)の敗因は、「出負け、直線入り口で寄られた不利」が響いた部分もあるが、実際には小さなことで、それ以上に全体に迫力不足だった。素晴らしい状態はみんなが認めるところであり、たとえ負けてもこんな完敗の力関係ではないはずだが、渾身の仕上げにより、目に見えないリズムの変調が生じたのか。馬場入り直前の発汗も変ではないが、素晴らしくいい馬だからこそ、なんとなく上品すぎる印象が心配だった。息の入れにくい厳しいペースを追走した今回、思うほど伸びなかったのは、スタミナ兼備型ではない死角をみせたともいえる。自身の走破タイムは前回より約3秒速かった。これが応えるタイプはいる。

 ダノンプラチナ(父ディープインパクト)も、非の打ちどころがない素晴らしい状態と思えた。カッカするのはこういう舞台では仕方がないことである。だが、道中の蛯名騎手は行きっぷりが悪いためなのか、やけに自信がなさそうに弱気であり、徐々に下げていいところなしだった。このあとは、NHKマイルCではないかと推測される。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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