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絶対的本命の存在で「無風状態」だった千ギニー戦線に突如…

  • 2015年04月29日(水) 12時00分


千ギニーの不動の存在として座り続けていたファウンドだが…

 先々週のG1ケンタッキーダービー(d10F)、先週のG1二千ギニー(芝8F)に続いて、今週は同じ5月3日(日曜日)に開催が迫った英国3歳牝馬クラシックの緒戦、G1千ギニー(芝8F、ニューマーケット)の展望をお届けしたい。

 本命馬も含めて、2歳シーズン終了時から上位人気にかなりの変動があった二千ギニーに対し、比較的「無風状態」で来たのが千ギニーである。2歳時のトップホースたちの中から、故障で戦列を離れた馬が何頭か出たものの、今季に入って開催された前哨戦の結果を受けて大きく台頭した新興勢力もおらず、昨年秋時点での勢力分布が、半年後の現在もそれほど大きくは変わっていないのである。

 昨年秋から、千ギニーの前売りリストの最上位に、不動の存在として座り続けているのが、エイダン・オブライエン厩舎のファウンド(牝3、父ガリレオ)だ。

 G1・5勝のラモンティを含む牡馬の精鋭を破って優勝したG1ロッキンジS(芝8F)を含めて、現役時代に2つのG1を制したレッドイヴィーの4番仔にあたる馬で、2つ年上の全姉に、G3パークS(芝7F)勝ち馬で、G1モイグレアスタッドS(芝7F)でも入着したマジカルドリームがいるファウンド。昨年8月にカラのメイドン(芝8F)でデビュー勝ちを果たすと、次走はいきなりG1モイグレアスタッドS(芝7F)に挑んでいるから、もとより陣営が大きな期待を寄せていた馬であった。そのモイグレアスタッドSでは、後方から末脚を伸ばす競馬をしたが、直線入り口で他馬と軽く接触すると大きく寄れ、鞍上が追い出しに掛かってステッキを入れるとまたも大きく寄れと、若さを随所に見せる競馬で3着に終わっている。

 だが、長足の進歩を見せたのが3週間後に出走したG1マルセルブーサック賞(芝1600m)で、ここでは道中馬混みで揉まれても全く怯まず、直線でも抜け出しどころが見つからない局面がありながら、1頭分の隙間を見つけるとすかさず飛び込み差し切る競馬で、G1初制覇を果たしている。このマルセルブーサック賞の内容が非常によかったことで、この段階で千ギニーの前売り1番人気に台頭したファウンド。前哨戦は使わずに、千ギニーが今季緒戦となる。

 ところが、である。「無風状態」だった千ギニー戦線に突如、つむじ風が吹いたのが先週の木曜日(4月23日)であった。

 実は、4月25日に予定されていたファウンドの最終追い切りを2日後に控え、同馬を管理するA・オブライエン調教師が突如、「ファウンドの千ギニー出走は決まったわけではない」とメディアに対して発言したのである。なおかつ、25日の追い切りは無事終わり、A・オブライエンは「ファウンドの動きに満足した」としながらも、「最終的な出否決定は当該週の半ばまで待ってほしい」とコメント。大手ブックメーカーの中には、千ギニーの前売りを一時停止するところも出る事態となった。

 27日(月曜日)正午に設けられていた登録ステージで、陣営はファウンドを千ギニーにエントリー。日本時間の28日(火曜日)朝の段階で、多くのブックメーカーがファウンドをオッズ4.5倍前後の本命として売っているが、予断を許さない情勢となっている。

 ファウンドを巡る突然の騒動が起きる前、2番人気以下は軒並み10倍以上のオッズをつけていたのだが、ファウンド回避の可能性が表面化して以降、2番人気以下のオッズも日を追うごとに下がってきている。

 日本時間の28日朝の時点で、ブックメーカー各社が、5.5倍〜6.0倍のオッズを掲げて2番人気に推しているのが、ゴドルフィンのルシーダ(牝3、父シャマーダル)だ。叔父に北米のターフチャンピオン、イングリッシュチャネルがいる血統背景を持つ馬である。

 昨年8月にナースの条件戦(芝6F)でデビュー勝ちを飾ると、以降は重賞戦線を歩み、G1モイグレアスタッドS(芝7F)で、ファウンドに先着する2着となった後、ニューマーケットのG2ロックフェルS(芝7F)で重賞初制覇を果たしている。後方から末脚を活かす競馬をする馬で、ロックフェルSの時には、残り3F過ぎから抜け出しどころを探して2度ほど進路をスイッチし、抜けてからはふらついて左右にぶれる仕草を見せての勝利で、おおいに伸びしろを感じさせる競馬であった。その後、G1フィリーズマイルでは伸びそうで伸びないもどかしい競馬をして5着に敗れて2歳シーズンを終え、この馬も千ギニーが今季の緒戦となる。

 これに続く3番手評価となっているのが、各社7.0〜7.5倍のオッズを掲げている、トゥゲザーフォーエヴァー(牝3)である。

 ファウンド同様、エイダン・オブライエン厩舎のガリレオ産駒のトゥゲザーフォーエヴァー。G1ジャンプラ賞(芝1600m)勝ち馬ロードシャナキルの半妹で、愛国の1歳市場にて68万ユーロ(当時のレートで約8990万円)という高値で購買された馬である。

 2歳7月にデビューし、メイドンを2連敗した後、3戦目には準重賞のフレイムオヴタラS(芝8F)に挑んでいるから、この馬もまた厩舎の期待が高い馬だったようだ。フレイムオヴタラSは3着に敗れたものの、次走のメイドン(芝8F)で勝利し4戦目にして初勝利を挙げると、そこから進撃が始まった。続く準重賞のスタフォードスタウンスタッドS(芝8F)を3馬身差で勝つと、次走はG1フィリーズマイル(芝8F)に挑み、見事に制してG1のタイトルを手中にしている。ファウンド同様、この馬も前哨戦は使わずに千ギニー直行となったが、順調に仕上がっていると伝えられている。

 実は、ファウンドとトゥゲザーフォーエヴァーは昨年8月にカラのメイドン(芝8F)で顔をあわせており、ここはファウンドがデビュー戦でトゥゲザーフォーエヴァーは2戦目だったにもかかわらず、ファウンドが優勝。少なくとも2歳時の2頭の力量比較においては、ファウンドの方が上という評価を得ている。

 続く4番手評価が、ルシーダが勝ったG2ロックフェルSの2着馬ファダイール(牝3、父タマユズ)だ。

 仏国で1000mのG3に2勝しているジリアの7番仔で、タタソールズ10月1歳市場にて22万ギニー(約3600万円)で購買されたファダイール。デビュー2戦目のメイドン(芝7F)で初勝利を挙げた後に、初めて挑んだ重賞がロックフェルSだった。そしてファダイールもまた、千ギニーにはぶっつけ本番で向かってくる。

 序列で言えば、こうした馬たちの下に、15日にニューマーケットで行われたG3ネルグウィンSの勝ち馬オゼイラ(牝3、父デインヒルダンサー)、18日にニューバリーで行われたG3フレッドダーリンS(芝7F)で1、2着したレッドスタート(牝3、父コックニーレベル)とジェリクルボール(牝3、父インヴィンシブルスピリット)といった、前哨戦を使った馬たちの名前が並んでいる。オークスの前売りでも本命となっているファウンドは、順調なら秋には凱旋門賞に駒を進めてくる馬だ。ファウンドとはそれぐらい大きな存在で、彼女が千ギニーを使うのかどうか、使ったとしてどんな競馬を見せるのか。今週末の世界の競馬はビッグレース目白押しだが、中でも焦点となりそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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