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馬を育てる魅力を感じながら強い馬づくりに執念を燃やす西原玲奈調教助手にインタビュー

  • 2015年05月05日(火) 18時00分
競馬の職人

西原玲奈調教助手



西原玲奈調教助手「追い切りが終わり馬房に入ると甘えてきて私のジャンパーをずっとなめているんですよ」

『強鞭さを語り継ぐ古都の伝統、揺るがぬ自信に魂が進化する』

 と題したレーシングプログラムを手に京都競馬場で春の天皇賞を観戦してきました。7万人以上のファンがどよめき、うなった瞬間! ゴールドシップが最後方から突っ込んできたーー! その強さに身震いしました。

 終わってみればゴールドシップの独り舞台。返し馬の時はゴール板の前を独走して拍手喝さいを浴びる。ゲートでは3分間駄々をこね、スタートでは出遅れ感あり。1枠1番だから当然内を突くかと思っていたがロスを承知で馬群の外へ持ち出しそして向こう正面でシップに気合をいれ動きはじめました。

 他馬が折り合いに専念しているとき、坂の下りでスピードアップしたゴールドシップ。上がり6ハロンで勝負をかけてきた典さんとシップの心肺機能の強さがさえたレースでしたね。最後までやんちゃぶりを見せまた一つ競馬ファンの楽しみが増えましたね。典さん、ゴールドシップおめでとうございます!

 また、今年は京都競馬場開設90周年ということでパドックのすぐ前に京都競馬場を彩った『思い出に残る名馬たち』のパネル展示もあり、人気投票もされていて、賞品ゲットのチャンスもあるので是非出かけてください。投票は5月31日まで開催されています。

 各レースごとにドラマが生まれますが、特にGIレースでは強い馬が参戦してくるので生まれるドラマも醍醐味があります。

 今週はレッツゴードンキでGI・桜花賞を制覇した梅田智之きゅう舎で調教助手をされている西原玲奈さんに密着取材しました。

常石 桜花賞優勝、おめでとうございます。前半の半マイルが50秒0と超スローペースでしたが馬に任せてハナを切ってドンキのペースに持ち込み、直線ではそのまま押し切る強いドンキでしたね。ラストの1ハロンは11.5秒とすごい脚を使い4馬身も差をつけてのゴールでした。

西原 ありがとうございます。ハナに行ったときはびっくりしました。でも馬のこと、レースのことをよく知る岩田騎手を信じて見ていました。岩田騎手の判断がよかった結果だと思います。レース後の息入れも早かったし、ダメージも少なかった。疲れもすぐに取れました。

常石 僕も阪神で応援していましたがびっくりしました。玲奈ちゃんが感激し涙してるのをみて岩田騎手も感激し、じーんと来たと言ってましたよ。

西原 恥ずかしいですね。でもめちゃめちゃうれしかったです。ここに来るまでにはいろんなことがあったし、これからもいろいろあると思うけど、ドンキが元気をくれたのでこれからも頑張ります。

常石 無敗のルージュバックやチューリップ賞完勝のココロノアイなど有力馬が揃っていましたよね。まさかハナを切るとは思わなかったなー。ドンキの機嫌を損なわないで馬なりで最大の力が発揮できるように乗る。さすが岩田騎手って思いましたね。

西原 昨年8月の札幌で新馬勝ち以来、重賞で3・2・2・3着と悔しいレースをしてきました。ハミをかえてから動きが変わってきました。

常石 どんなハミですか?

西原 昨年の夏に札幌で入厩してきたので、札幌で新馬勝ちし札幌2歳Sを3着後、栗東に帰ってきました。だいぶ成長していたので扱いやすかったんですが、すごく引っかかるのでハミを変えてみたらとアドバイスをもらって変えました。一般的には円形のリングハミを使いますが、オーストラリア製の新しいハミでトライアビットというハミに変えました。口の中に入れる部分がまっすぐ水平で馬の口のガツンとはまります。馬って奥歯がないんですね。だからちょうどそこにはまるんです。リングビットのように馬の口を割ったり挟み込んだりリングがくるくる回ったりしない。ちょうど円形と引き運動の時に使うハートハミとの間って感じですね。行きたがる馬には効果的だと思います。あたりが柔らかいのでハミにすぐに慣れ、リラックスして馬を制しやすくなり集中して走るようになる。このハミをつけ集中して走ることを覚えるとこのハミをつけなくても大丈夫だと思います。

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トライアビット



 オーストラリアへアドマイヤラクティが遠征した時にオーストラリアで使っている特殊なハミがあると鹿戸助手が教えてくれました。お母さんも引っかかる馬だったんです。

常石 では棒ハミのように馬の口に均一にあたり、舌がハミを越さないように矯正する効果もあるんですね。折り合いができない馬はストレスがたまりエネルギーを消化してしてしまうのでこのハミは効果は大きいですね。いい馬具に出会えましたね。

西原 これもスタッフの皆さんのおかげです。先生も何でもやらせてくれるのでいろいろ試すことができ面白いです。失敗したときでも、じゃあ次はどうしたらいいかみんなで相談し考えてさせてくれる。自分でもしっかり考えるチャンスをくれるのでやりがいもあります。

常石 騎手から調教助手に変わってよかったですね。

西原 騎手時代は怪我で腰痛に悩まされたのでしんどかったです。同期のコバシン(小林慎一郎調教助手)にずいぶん励まされ助けてもらいました。同期の中にコバシンがいなかったら今の自分はなかったと思います。昨日も誘ってもらい飲みに行ってたんですよ。勝ち祝いだといってみんな喜んでくれました。

常石 やっぱり同期はいいよなー。僕もいっぱい助けてもらってます。そしてきゅう舎の先生やスタッフだよな。

西原 ほんとうにそうです。わたしの場合は馬にも助けられています。ドンキはとっても賢く真面目なんです。皮膚もとっても薄いので敏感だから見極めがむずかしいですね。バランスがよくムキムキの筋肉マンではないんですが、アスリートの体をしている。競馬がわかると自分で体を作ります。岩田騎手が前走でハナへ行ったとき、ハミが抜けたのでいけるよと言ってくれました。我慢もしっかり覚えてきましたしね。調教へ行くとき担当の助手が乗るとおとなしいのですが、私が乗りに行くとレース前の追い切りで負荷がかかるのがわかるので追っ払われます。でも追い切りが終わり馬房に入ると甘えてきて私のジャンパーをずっとなめているんですよ。ONとOFFの切り替えができているんですね。

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西原玲奈調教助手とレッツゴードンキ



常石 ショウナンマイティも担当していますよね。いつもいいところまで行くけど勝ちきれなくて残念なレースが多いですね。

西原 あと1歩届かないことが多く悔しかったですね。足もとが悪い馬で、足もとの様子を見ながら調整をしなければいけない馬なので難しかったですね。

常石 今後の予定はどうですか? 牝馬3冠狙いがたのしみです。

西原 次走はオークスの予定です。そして夏から秋に向かってさらに成長してくれるのが楽しみです。ムキムキにならずに使うごとに筋肉がついていますし、内に持ってるものがすごいと思うので期待したいと思います。私も気を引き締めていきたいです。

常石 長時間ありがとうございました。

***

 騎手時代には見つけることができなかった馬を育てる魅力を感じながら強い馬づくりに執念を燃やす玲奈さんはとっても魅力的でした。

 ドンキが甘えるときは玲奈さんも妹を見るような優しいかわいいまなざしでした。騎手の経験を存分に活かしドラマを作ってください。梅田先生も西原玲奈さんとともに初GIとなる桜花賞制覇おめでとうございました。つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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