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2歳トレーニングセール

  • 2015年05月27日(水) 18時00分
2歳トレーニングセール

最高価格となった『パーフェクトダンスの2013』の公開調教


直線では「追い風」となり、そのせいもあってか公開調教では好タイムが続出した今回のトレーニングセール

 昨年夏にリニューアルオープンした札幌競馬場を会場にて、去る5月25日(月)、26日(火)の2日間にわたり、日高軽種馬農協主催の2歳トレーニングセールが行われた。

 今年は上場申し込み頭数が多く、名簿上では291頭に達しており、昨年よりも100頭近い増加となっていた。結果的には故障などによる欠場が出て、267頭の上場頭数となったが、それでも昨年と比較すると84頭の増加であった。

 初日に公開調教、2日目にセリという日程である。初日は天候に恵まれたが、西風が強く吹き、瞬間最大風速が18mに達するほどのコンディションとなった。札幌競馬場は右回りで、西風の場合、直線では「追い風」となる。そのせいもあってか、公開調教では好タイムが続出した。

 25日の公開調教開始は午前9時30分。全体を6グループに分割し、番号はバラバラである。というのは、多頭数を上場している育成牧場が少なくないため、騎乗者のやりくりをする必要から、こういう措置が取られた。基本的には2頭併せで追われ、向こう正面からスタートし、4コーナーに差しかかったあたりの残り400m地点より計測が始まる。ゴールするとすぐに場内放送と大型ビジョンで2ハロンそれぞれの時計が発表される。

 大半の上場馬が11秒台をマークする中、10秒台で駆け抜ける馬も次々に登場した。1グループ終了ごとに馬場にハロー掛けが行われ、少しの間、休憩タイムとなる。1時間ずつ予定時間をずらしており、各グループは概ね20〜23組が調教を行う。馬名と上場番号の他、性別、VTR収録時のタイム、父名、騎乗者名、斤量、飼養者名と上場申し込み者名、待機厩舎番号などが一覧表になっており、購買関係者はそれを見ながら1頭ずつ丹念に調教を見守る。

 公開調教において、2ハロンの合計で最速タイムを計上したのは、第5クルー10組目に登場した7番ミスグランドコーホの2013で、10秒73、10秒70の計21秒43であった。父ヴァーミリアンの牝馬で、単走での公開調教となったが、トレーニングセールで時計を出すことに定評のある山口ステーブルからの上場馬らしく、67キロの斤量をものともせずに駆け抜け、一番時計をマークした。

ミスグランドコーホの2013

2ハロン合計の最速タイムを計上したミスグランドコーホの2013



 また終いの1ハロンに限ると、第3クルーの7組目に登場した139番グロリアスドータ2013(父スターリングローズ、牝)が、10秒11を叩き出し、これが最速タイムであった。

 晴れてはいたものの、終日西風が吹き荒れる天候のせいで体感温度が低く、スタンドのカメラマン席から撮影していると寒くて震えるほどであった。

グロリアスドータ2013

終いの1ハロン最速タイムを叩き出したグロリアスドータ2013



 1頭だけ落馬があったものの、それ以外は大したアクシデントもなく、予定通り午後3時半くらいには公開調教を終了した。

 また初日の午後4時には、武豊騎手が来場し場内でトークショーを行った。

武豊騎手のトークショー

初日には武豊騎手が来場し場内でトークショーが行われた



 2日目。上場頭数が多いため、セリ開始は午前9時。今回が新札幌競馬場での初のセールとなることから、木村貢・日高軽種馬農協組合長の挨拶のあと、セリ舞台上で、札幌競馬場長や札幌馬主協会会長などのお歴々によるテープカットが行われた。

 予定通りセリが始まったが、最初は出足が鈍く、主取り馬が続出して模様眺めムードが濃い。次々に登場する2歳馬たちがひと声もかからずに扉の外に消えて行く。会場はスタンド内部に特設されていて、上場馬は厩舎地区からパドックにやってきてそこでしばらく周回し、通路を上がって行って会場入りする動線である。パドックを見下ろす階段状になった観客スペースにも多くの人々が陣取り、1頭ずつの歩様に視線を送りながらチェックする購買者も大勢いる。今年のトレーニングセールは昨年の360名から一気に120名も購買登録者が増え、482名に達したという。それだけ多くの人々が2歳馬を求めて来場したことになるわけだが、やや財布のひもが固く、途中までは売却率が半分前後を行き来するような状態でセリが進んだ。

テープカット

新札幌競馬場での初のセールとなることから行われたテープカット



 80番、160番、230番と間で計3度の「再上場」が設定されており、その時には、黄色いベストに身を包んだ引き手とともに、多くの再上場馬が登場した。本来ならば、初回のセリ上場時に落札されているのが普通だが、お台付け価格が高かったりして購買者の希望する価格と折り合わずに主取りとなるケースがある。その馬を追いかけて再度“交渉”し、後で上場してもらってセリ落とすという仕組みである。かつては落ち葉拾いのように主取り馬に群がり買い叩くというような光景があちこちで見られたが、今は、中央地方ともに市場取引賞を交付している関係からか、こうしてセリを通す取引が主流になり、かなり健全化した。

 せり結果はすでに既報の通り、267頭(牡143頭、牝124頭)が上場され、166頭(牡95頭、牝71頭)が落札された。売り上げ合計は10億8950万4千円。売却率は昨年よりも12.69ポイント下落し、62.17%であったが、売り上げは過去最高を記録した。

 なお、セールを通じての最高落札馬は、259番パーフェクトダンスの2013で3240万円(税込)。父ワークフォース、母パーフェクトダンス、母の血サンデーサイレンスという血統の牝馬で、公開調教でも11秒34、10秒28と動いていた。生産者は(株)タイヘイ牧場。販売申し込み者と飼養管理者は(有)グランデファーム。落札は増田雄一氏。

パーフェクトダンスの2013

パーフェクトダンスの2013の立ち姿



 また、最後に去る4月28日に中山競馬場にて開催されたJRAブリーズアップセールで主取りになった馬と欠場した馬8頭がここで上場され、全馬完売となったことを付記しておく。

 以上を振り返り主催者である木村貢・日高軽種馬農協組合長は「こけら落としのセリとしてまずまずの結果が出てホッとしています。細かな運営上の問題点などもありますが、まずは80点をつけたい」と評価した。

 上場馬を連れて行くのはかなりの負担になるが、購買者にとっては交通の便の良い札幌での市場開催は歓迎するところであり、将来的には他の市場もここで開催してくれるとありがたいという声も一部にはある。しかし、家族経営規模の生産牧場にとっては、多忙なこの時期に時間を割いて札幌まで足を運ぶだけでも大変なことである。また小規模の育成牧場にとっても、スタッフと馬が土曜日から4日間も留まらざるを得ない(日曜日には前日展示がある)のは負担が大きい。が、売らんがためには遠いとか負担が大きいなどとは言っていられない現実もある。「静内は遠いからね」とある調教師が語っていたように、より便利な場所でのセリと比較すると、交通の利便性(もっと具体的に言うと空港からの距離)で日高はかなり大きなハンデを背負っている時代になったと言える。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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