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両レース共に5日前登録で一波乱あった英ダービー、英オークス展望

  • 2015年06月03日(水) 12時00分


A.オブライエン厩舎の英ダービー4連覇は厳しい状況に

 5日(金曜日)に行われるG1英オークス(芝12F10y)の5日前登録が先週土曜日に、6日(土曜日)に行われるG1英ダービー(芝12F10y)の5日前登録が今週月曜日に締め切られ、オークスに14頭、ダービーに15頭がエントリーを済ませた。

 昨年秋から、1000ギニーとオークスへ向けたアンティポスト(長期前売り)でいずれも抜けた1番人気の座にあったのが、G1マルセルブーサック賞(芝1600m)勝ち馬ファウンドだった。だが、3月に入って風邪をひくアクシデントがあり、調整が遅れて1000ギニーは出走を断念。1000ギニー翌日のG3アサシS(芝7F)に廻り、ここで明らかな格下相手に2着と敗退。この春、エイダン・オブライエン厩舎の期待馬がシーズン緒戦で敗退するケースが頻発していた中、ファウンドまでもがその轍を踏むことになった。

 だが、3週間後に出走したG1愛1000ギニー(芝8F)では、2着に敗れはしたものの、良い脚で追い込んでの惜敗で、復調をアピール。さて次走はどこになるという話になった時、決定までのプロセスを複雑にする要因として絡んできたのが、前述した「オブライエン厩舎の異変」だった。オブライエン厩舎には今年、「ダービー4連覇」という偉業がかかっているのだが、それにしてはダービーを目指す陣容が手薄なのだ。そこで、復調したファウンドをオークスではなく、追加登録を行った上でダービーにぶつけるプランが浮上。ファンが色めき立つ事態となった。

 で、どうなったかと言うと、ファウンドは30日に締め切られたオークスにエントリー。その一方で、1日の登録ステージでダービーに追加登録はされず、これでファウンドはオークスへ出走という「元鞘」に戻ったかに見えた。

 ところが、だ。ダービーへの追加登録を見送った1日、オブライエン師は「ファウンドはオークスも使わず、次走はロイヤルアスコットになる」とコメント。ということで、すったもんだの挙句、冒頭で14頭が登録済みとご紹介したオークスは、最大でも13頭立てで行われることになった。

 各社3.5〜4倍のオッズを掲げて1番人気に推しているのが、レガーティッシモ(牝3、父デインヒルダンサー)だ。

 所有するのはクールモアチームだが、管理するのはデイヴィッド・ウォッチマンで、2歳時の戦績は3戦1勝。デビュー2戦目のメイドン(芝7F)で初勝利を挙げた後、LRフレイムオヴタラS(芝8F)で2着となってシ−ズンオフに突入。今季初戦のG3レパーズタウン1000ギニートライアル(芝7F)で3着に敗れた後、一気の距離延長となったLRヴィクターマコーモントメモリアル(芝9F100y)を完勝し、さすがにG1アスコットGC(芝20F)勝ち馬フェイムアンドグローリーの姪という血統背景を持つ馬だけあると、関係者から高く評価された上で、「オークス候補」の1頭に数えられることになった。

 続いて出走したのが、再び距離を縮めることになったG1英1000ギニー(芝8F)で、いささか手薄な顔ぶれだったとはいえ、ここも後方からきっちりと差し切って完勝。本命馬としてオークスを迎えることになった。

 4〜4.5倍という、1番人気と差のないオッズで各社が2番人気に推すのが、クリスタルズヴェズダ(牝3、父ドゥバウィ)だ。

 G1カナディアン国際(芝12F)勝ち馬ヒルスターの半妹という良血馬で、管理するのはマイケル・スタウトである。昨年10月にリングフィールドのメイドン(芝7F1y)を制し、デビュー2戦目で初勝利を挙げて2歳シーズンを終了。今季初戦となったのが5月16日にニューバリーで行われたLRフィリーズトライアルS(芝10F6y)で、ここを3馬身半差で快勝し、一気にオークス戦線に台頭してきた馬である。そこで手綱をとっていたのは、長年にわたってスタウト厩舎の主戦を務めていたライアン・ムーアだったが、今季のムーアはクールモアと優先騎乗契約を交わしたため、オークスではレガーティッシモへの騎乗が濃厚。オークスにおけるクリスタルズヴェズダの鞍上には、リチャード・ヒューズが指名されている。

 以下、5月6日にチェスターで行われたLRチェシェアオークス(芝11F79y)を6馬身差で快勝したダイヤモンズアンドルビーズ(牝3、父ファストネットロック)、昨秋のG1マルセルブーサック賞3着馬で、今季初戦のG1愛1000ギニー4着のジャックネイラー(牝3、父シャンゼリゼ)の2頭が、オッズ7〜9倍で横並びの3番手評価となっている。

 さて、結局のところファウンドは追加登録されなかった、6日(土曜日)のG1英ダービー。窮地に立ったオブライエン陣営は、なんと、英愛二千ギニー連覇のグレンイーグルスを参戦させるプランを画策。実際に、5月22日に設けられていた登録ステージで、同馬の名前は登録リストに残っており、ファンの間からは「マジですか?」の声があがっていた。

 だが、1日のエントリーステージでグレンイーグルスはダービー登録から外れ、当初の予定通りロイヤルアスコットのG1セントジェームスパレスS(芝8F)に向かうことになった。ということで、オブライエン厩舎からは3頭がエントリーしたものの、2日時点でオッズひと桁台の上位人気に挙げられている馬はおらず、4連覇達成は厳しい情勢となっている。

 一方で、1日の段階で7万5千ポンドの追加登録料を払って出走を表明した馬が2頭いて、ブックメーカー各社が2.75〜2.875倍のオッズを掲げて1頭抜けた1番人気に推しているのが、追加登録組の1頭であるゴールデンホーン(牡3、父ケイプクロス)である。

 アンソニー・オッペンハイマー氏の自家生産馬で、G1コロネーションS(芝8F)勝ち馬レベッカシャープの甥にあたる本馬。1歳10月にタタソールズ・オークトーバーセールに上場されたものの、販売希望価格に届かずに19万ギニーで主取りとなって、生産者の服色で走ることになった。

 ジョン・ゴスデン厩舎の一員となったゴールデンホーンは、2歳10月にノッティンガムのメイドン(芝8F75y)でデビュー勝ち。シーズンオフをはさんで、4月15日にニューマーケットで行われたLRフィールデンS(芝9F)に出走し、ここも勝って2連勝。この段階で、血統背景から「この馬は10Fの馬」と見ていた馬主は、春の目標をG1仏ダービー(芝2100m)に絞ることを決め、シャンティーのクラシックへ向けた前哨戦として出走したのが、5月14日にヨークで行われたG2ダンテS(芝10F88y)だった。英ダービーへ向けた前哨戦としても知られるのがダンテSで、今年も、ジャックホブス、エルムパーク、ジョンエフケネディーといった、この段階でダービー前売り上位人気に名を連ねていた馬たちが出走していたのだが、こうした顔触れを相手にゴールデンホーンは後方から強烈な末脚を繰り出して2.3/4馬身差の快勝。ダービー制覇への千載一遇のチャンスを目の前にして馬主も心変わりをし、日本円にして約1423万円を支払ってのダービー参戦を決めたのである。ダンテSではウィリアム・ビュイックが手綱をとっていたが、ダービーはフランキー・デトーリで臨むことが発表されている。

 各社が5.5〜6倍のオッズを掲げて2番人気に推しているのが、愛国のダーモット・ウェルドが管理するゾウラック(牡3、父シャマーダル)である。

 ハムダン殿下のシャドウェルによる自家生産馬ゾウラックは、G1英1000ギニー(芝8F)やG1コロネーションS(芝8F)を制したガナーティの甥にあたる。昨年10月にレパーズタウンのメイドン(芝7F)でデビュー勝ち。シーズンオフを挟んで、4月12日にレパーズタウンで行われたLR2000ギニートライアル(芝8F)も3.1/2馬身差で快勝。その後、英2000ギニーや愛2000ギニー参戦が取り沙汰された後、結局はどちらも使わず、前走から2か月近い間隔を置いた上で英ダービーに挑むことになった。

 この馬が回避したG1愛2000ギニーで、LRレパーズタウン2000ギニートライアルの2着馬エンドレスドラマが、グレンイーグルスに3/4馬身差に迫る2着に健闘。三段論法で、ゾウラックの評価が再浮上することになった。血統背景やこれまでの実績から、果たしてエプソムの12Fを走り切るスタミナがあるのかどうか、疑問視する声も挙がっているが、陣営は「距離は大丈夫」と強気の姿勢を見せている。

 オッズ6〜8倍の3番手評価が、ゴールデンホーンと同厩のジャックホブス(牡3、父ホーリング)である。

 いささか地味な血統で、1歳秋にはタタソールズ・オークト−バーのブック2に上場され、6万ギニーでゴスデン夫人を含むグループに購買されている。デビューは昨年の12月27日にウルヴァーハンプトンで行われたメイドン(AW8F141y)で、ここを3馬身差で制してデビュー勝ち。2戦目となったのが4月24日にサンダウンで行われたハンデ戦(芝10F7y)で、ここを12馬身差で圧勝。この段階で、ダービー前売り本命の座に祭り上げられることになった。次走が5月14日のG2ダンテSで、強敵相手の競馬はここが初めてだったが、ゴールデンホーンの2着に食い込んでいる。ダンテS後、権利の半ばをゴドルフィンが買収。ダービーはゴドルフィンの服色を背負っての出走となる。

 オッズ7〜10倍の4番手評価が、エルムパーク(牡3、父フェニクスリーチ)だ。キングスクレアスタッドの生産馬で、キングスクレア・レーシングクラブの所有馬として、アンドリュー・ボールディング厩舎に入厩。2歳8月にデビューし、デビュー2戦目のニューバリーのメイドン(芝7F)で初勝利。続くソールズベリーのLRストーンヘッジS(芝8F)を連勝した段階で、カタール・レーシングが権利の半分を買収。次走、ニューマーケットのG2ロイヤルロッジS(芝8F)で重賞初制覇。更に、ダービーへの登竜門と言われるドンカスターのG1レイシングポストトロフィー(芝8F)も勝って4連勝でG1制覇を果たすと、カタール・レーシングが残りの権利も取得して、単独の所有者となった。

 今季初戦となったのがG2ダンテSで、2着馬ジャックホブスから3.1/4馬身差の3着に入り、ダービーに駒を進めてくる。2歳時からダービー候補に挙げられていた馬で、実際に上位人気馬として本番に参戦するのは、結局この馬1頭だけとなった。

 英オークスと英ダービーの模様は、7日(日曜日)午後にグリーンチャンネルの競馬中継で放送される他、JRAの競馬場とウインズでも放映予定なので、皆様もぜひご覧いただきたいと思う。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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