スマートフォン版へ

第43回北海優駿

  • 2015年06月03日(水) 18時00分
第43回北海優駿

第43回北海優駿を制したフジノサムライ


昨年もそうだったが、ダービーという言葉から連想されるような華やいだ雰囲気からはいささか遠い雰囲気

 ダービーウィーク2015が日本ダービーの行なわれた5月31日(日)に、佐賀競馬場「九州ダービー・栄城賞」からスタートしている。6月1日には盛岡競馬場で「岩手ダービー・ダイヤモンドカップ」が行なわれ、翌2日(火)、舞台を門別に移して「第43回北海優駿」がナイターで実施された。

 九州ダービーも、岩手ダービーも、出走馬の人気が著しく偏っており、ともに圧倒的な一番人気がそれぞれ前評判通りに“圧勝”した。九州ダービーはキングプライドがマイネルジャストに5馬身差をつけ危なげなく優勝したのだったが、3着以下はそこから大差がつき、まったく勝負にならない展開であった。

 翌日の岩手ダービーでも、同じような展開になり、こちらは単勝1.0倍のデビュー以来負けなしで快進撃を続けるロールボヌールが、これまたほとんど調教にでも出てきたかのような余裕のある走りで、ひとつも追わずに2着のトーホクライデンを10馬身ちぎり、楽勝であった。持ったままでありながら、上がり3ハロン37.5秒は出色の好タイムらしく、今後の活躍が期待される。

 前置きが長くなったが、こうした流れが北海優駿でも踏襲される「はず」であった。人気は、前走の「日本最大規模! 芝ざくら滝上特別」を6馬身、前々走の「北斗盃」を7馬身差で難なく勝ち進んできたオヤコダカに集中しており、ここでも圧倒的一番人気に支持されていた。まず普通に発馬できたら、勝ち負けできるはずであった。馬券はこの馬から売れており、単勝は1.1倍にまで達していた。

当日のパドック風景

北海優駿当日のパドック風景



 良く晴れたこの日の門別は、夜になってからも気温が高めで、17度〜18度。暑くもなく寒くもない絶好の観戦日和となったが、入場者はそれほど多くない。門別の場合、コースは地方競馬の中でも屈指の広々とした馬場だが、観客エリアは狭く、場内をざっと見渡すだけでおおよその人数が判断できる。因みに、この日の本場の入場人員は689人であった。

 第10レースが終わり、いよいよ北海優駿の出走馬がパドックに姿を現したが、柵沿いにもそれほど人が集まっていない。唯一の生産地にある競馬場でありながら、生産者の姿もそれほど多くない。せめてこの“ダービーデイ”くらいは来場してくれても良さそうなものだが、生産地は多忙な季節を迎えているので、近隣の人々でなければ足を運ぶ気になれない、のかも知れない。昨年もそうだったが、ダービーという言葉から連想されるような華やいだ雰囲気からはいささか遠い雰囲気なのだ。

当日のパドック風景

北海優駿のパドック



 人々の関心は、オヤコダカがどんな勝ち方をするか、にほぼ絞られていた感がある。1.1倍の支持率は「まず勝てるだろう」という人気度であり、後は後続を何馬身離せるか、この大一番でどんなパフォーマンスを見せてくれるか、という点に集中していたはずだ。

 門別の2000mスタート地点は、4コーナー奥にあるポケットで、返し馬を終えた出走各馬がそれぞれゲート後方に頭理、定刻の8時40分ちょうどにいよいよファンファーレが鳴り響いた。

 9頭立てのレースである。順調にゲート入りが進み、ガシャッという音とともに各馬が一斉にスタートした。と、思ったら、実況が突然「一頭、落馬しました」と興奮気味に伝える声が聞こえてきた。どれだろう? と思いながら馬群を見るものの、遠くて分からないでいると、すぐに「オヤコダカ、落馬です」と実況が馬名を伝えた。おそらくスタンドも騒然となったに違いない。断然の大本命馬が、スタート直後にいきなり落馬してしまうことになろうとは誰も予測できなかったはずで、その瞬間、かなりの金額の馬券が紙くずに化けてしまった。

 ゴール前にいる私たちの眼前を、8番フジノサムライが先頭で各馬一団となって駆け抜けて行く。オヤコダカも馬群の後方、内埒沿いを空馬で追走して行く。

 そのうち、オヤコダカがスルスルと抜け出し、先頭に立つと、終始埒沿いの経済コースを進んで他馬に先んじてゴールしたのであった。一方、肝心のレースはそのままフジノサムライが先行し、4コーナーを回ってからもトップを譲らず、内側から迫る6番タイムビヨンドを4分の3馬身差退けて優勝した。

石川倭騎手

ガッツポーズをする石川倭騎手



 ダービーと名前のつくレースで断然の一番人気の馬が発走直後に落馬したという前例は、古くはタカツバキ(1969年の日本ダービー)があるのだが、それ以外にはちょっと思い浮かばない。ダービーは中央であれ地方であれ、その年の3歳馬のチャンピオンを決める一戦であり、どの陣営にとっても喉から手が出るくらいに欲しいタイトルである。

 今回のオヤコダカは現道営勢の中では断然の実力馬として認知されており、ここをステップとしてジャパンダートダービーに駒を進めて各地のダービー馬と戦う姿をぜひ見せて欲しかった。

 競馬には時としてこういうハプニングが付きまとうとはいえ、何とも残念な結果になった。

 なお優勝したフジノサムライは父スクリーンヒーロー、母カシノヴィガ、その父デヒアという血統の牡黒鹿毛馬。石川倭騎手が騎乗。米川昇厩舎所属。馬主・藤澤和徳氏、生産者は新冠町・柏木一則氏。通算成績は12戦4勝、獲得賞金は1062万5千円。このレースには昨年に続き、副賞としてエイシンフラッシュ号の交配権利が馬主に贈られた。

フジノサムライ関係者

優勝の副賞としてエイシンフラッシュ号の交配権利が馬主に贈られた



 この日の売り上げは2億2239万円と昨年よりも約4000万円増加した。ただ、北海優駿の売り上げ8351万円のうち、場外(電話、ネットを含む)が8183万円を占めており、本場の売り上げはわずか168万円に過ぎない。もともと地理的条件のハンデがあるとはいえ、せめてダービーデイならばもう少し賑わいが欲しいところだ。
当日のスタンド風景

北海優駿発走直前のスタンド風景

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング