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林満明騎手(4)『奥深い障害競走 レースの高揚と解放感』

  • 2015年06月29日(月) 12時00分
おじゃ馬します!

▲林騎手インタビューの最終回、障害競走のいろはを教えていただきます


林騎手のインタビューも最終回。今回は、障害レースのいろはを教えていただきます。大障害がある中山競馬場など本場はもちろん、ローカル競馬場でも行われている障害競走レース。しかし、コースごとに様々な違いがあるそうです。ジョッキー視点で選ぶ、乗りやすいコースと危険なコースとは。さらに、レース中のジョッキー心理、終わってからの解放感まで、たっぷり語っていただきます。(取材:赤見千尋)


乗りやすいコースは小倉と東京!


赤見 デビュー以来30年間障害レースに乗られていて、何か変わったなと感じることってありますか?

 僕自体は何も変わってないですね。まあ、レース自体がローカルに追いやられているな…というのは(苦笑)。本当は本場でやりたいです。ローカルばっかりだと、本場に戻った時がちょっと嫌ですもんね。

赤見 やっぱり違いますか?

 違いますね。いくら飛ばしても、本場での競馬のペースとは違うので。馬の勉強としても、やっぱり本場を使っておきたいです。

赤見 一番スピードを要求されるコースというと、どこですか?

 スピードは中京とか新潟かな。スタミナで言うと中山、東京あたり。ローカルの中だったら、小倉が一番いいんですよ。タスキもバンケットもあるから、いろんな勉強ができるんですよね。福島なんて、とんでもないコースですしね。

赤見 えっ? そうなんですか!?

 福島は一番怖いんですよ。何でかと言うと、1個目の障害までが遠いから。馬がスピードに乗りまくってから飛ぶので、危ないんです。だから福島って落馬も多いですしね。

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▲「1個目の障害までが遠いと馬がスピードに乗りすぎて危ないんです」


赤見 1つ目の障害がどこにあるかっていうことが大事なんですね。福島は、その手前に障害を作ることはできないんですか?

 本当はそれが一番いいんですけど、置けないんです。可動式障害っていうのがあるんですよ。あれを置いて、飛んだ後にすぐに引っ張り出すようにすればいいんですけど、施行規程で、ゲートで落ちてまた乗ってレースに参加するというパターンがあるから、外す時間が取れないということで。

赤見 そんなことってなかなか起こらないとは思いますけど…、そういう理由でできないんですね。知らなかったです。逆に乗りやすいコースというと?

 小倉と東京かな。東京はスタートして向正面で3つ障害を飛ぶでしょう。そうすると馬が結構冷静になってくれるんです。

赤見 障害を飛ぶ時は、馬自身も慎重になるものですか?

 そうですね。1個目まではガーッと行っても、2個3個と続くと素に戻るというか、我に返る。京都とか阪神は、1個目を飛んでからが長いでしょう? そこでリズムを崩す馬もいるので、ひっかかる馬はあまりつれて行きたくないですね。

赤見 中山の大障害コースに関してはいかがですか?

 う〜ん、やっぱ怖いねぇ。毎回緊張する。あんな大きい障害、馬もよく飛びますよね(笑)。

赤見 レース前に馬に障害を見せてるじゃないですか。見せるのと見せないのとでは全然違ってきますか?

 どうなんですかね? あれはむしろ、人間の気休めもあると思います。見せて、愛撫して、「頼むぞ!」「お前に任せた!」って。

赤見 中山のGIはファンの方も拍手したり、一体感がありますよね。

 歓声はよく聞こえますね。大障害のところで拍手があったら「みんな無事に回ったな」とか、悲鳴が上がったら「あ、誰か落ちたのかな」って思います。

赤見 本当に危険とも隣り合わせですね。レースが終わって検量に上がってくると、ジョッキーの皆さん、アドレナリンがすごい。

 そうそう、いっぱい出てます。だからみんな、声が高いでしょう(笑)?

赤見 はい(笑)。「うわぁー、何とかだったよーーー」、みたいな感じで。西谷さんの声がすごく大きいイメージがあります。

 佐久間も大きいですよ。前だと、出津さんもすごかったですね。やっぱり終わると「仕事したー」みたい感じになりますからね。

赤見 相当な緊張感とか、集中力の中での戦いなんですね。そう言えば林騎手は、パドックでいつもこうやっていらっしゃいますよね? 精神統一されているのかなって思ってました。

おじゃ馬します!

▲パドックでのシーン、胸に手をあて目を閉じる林騎手


 あぁ。よく見てますね。「今日も無事に上がって来られますように」という意味を込めてやっています。サッカーでそうしているのを見て、「あっ、これ、俺もやろう」って思ったんですよ(笑)。

赤見 サッカーですか! ひと仕事終えて、「あぁ、解放された〜」ってやることはありますか?

 家に着いてからのビールかな。一番ホッとする時ですね。「今日もちゃんとビールが飲めた」って。

赤見 当たり前の幸せこそ大きいですもんね。ご家族もレースの時はいつもドキドキして、緊張されているでしょうね。

 どうなのかな? うちの家族はあんまり気にしてないような気もしますけど。競馬をあまり見てないですからね。

赤見 見るとものすごく緊張しますもんね。

おじゃ馬します!

▲「障害レースは見ているだけでとても緊張します」


 僕もそうです。乗ってる方がまだ楽っていうか。見てる方がしんどい。見てると「あいつ、危ねぇ!!」とか思っちゃいますから。

赤見 テレビで見てると横の動きって分からないですけど、実際はまっすぐ飛んでる馬ばっかりじゃないわけですもんね。

 うん。でもその辺は、あんまり気にしたらダメなんです。気にしすぎないことですね。もちろん怖さもあるんですけど、乗るとテンションが上がるので、馬に対しても「この野郎!」「しっかりしろ!」「ちゃんと飛べ!」って、怒りながらみたいな感じで乗ってます。

赤見 障害レースに乗ってて、一番おもしろいなと感じるのはどの辺りですか?

 やっぱり勝っても負けても、無事にゴールした瞬間ですね。自分で仕上げた馬で一緒にレースに行って、無事に回って来れたみたいな達成感と言いますか。調教から携わっているので、思い入れもたくさんありますからね。だから今回のアップトゥデイトのように、光る物を持った馬と出会うと心が高鳴るんですよね。

赤見 最後に、この先のことは何か考えてらっしゃいますか?

 乗せてもらえる馬がいる限り、ジョッキーでいたいです。それがいなくなったら、さすがにもうダメですけどね。幸い、まだまだ乗せてもらえる馬がいますし、幸せな騎手人生かなって思いますよ。僕は結構落馬が多い方なんですけど、その割にはケガが少ないですので。

赤見 この世界でそれはすごいことですよね。落ち方が違うんですか?

 いや、運でしょう(笑)。まあ、みんなケガはよくしますもんね。体を見たらあちこち縫い傷だらけで、見てる方が「うわぁ…」と思うこともありますもんね。幸い僕は体が丈夫な方なので、これからも出来る限り乗りたいとは思うんですけど、同期がなかなか乗せてくれないですね(苦笑)。年もあるから煙たがられて、なおさら乗せてくれないんですよね。

赤見 いえいえいえ。ご自身が調教師というのを考えたことは?

 それは全然。そんな頭ないから無理ですよ(笑)。出来るところまで、出来る限りジョッキーを続けたい。まあ、他にできることがないだけですけどね(笑)。(了)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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