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日本で導入されれば大いに人気を博すであろう「アンティポスト・ベット」

  • 2015年07月15日(水) 12時00分


というのも、日本には既にアンティポスト・ベットの下地があるからだ

 日本調教馬による凱旋門賞参戦が日常化したことで、日本の競馬ファンの間にもかなり浸透したのが、「アンティポスト・ベット」の概念だろう。

 アンティポスト・ベットとは、単刀直入に言えば「長期前売り」のことで、凱旋門賞を例にとれば、その年のシーズンが始まる頃には既に、ブックメーカーたちは半年以上先の凱旋門賞の単勝馬券を、各社それぞれのオッズを掲げて発売している。

 英国の競馬日刊紙レイシングポストを見ても、毎日必ずと言ってよいほど1ページを丸々使って、主要競走を巡るアンティポスト・ベットのオッズを表示している。

 冬は芝の平地競馬がシーズンオフに入るのがヨーロッパで、芝の平地しか買わないというファンは5か月に及ぶシーズンオフの間に何をしているかと言えば、来たるシーズンの主要競走を対象としたアンティポスト・ベットを楽しんでいるのである。ブックメーカーたちが売るのは主要競走の単勝馬券だけではなく、例えば誰がリーディングジョッキーになるかなど、人を対象とした賭けも催している。

 かつてに比べれば馬券の種類もかなり増えた日本だが、アンティポスト・ベットは残念ながら、まだ発売されていない。そして、これが売り出されたら、大いに人気を博するのではないかと、筆者は以前より考えている。というのも、日本には既にアンティポスト・ベットの下地があるからだ。netkeiba.comの読者の皆様の中でもお楽しみの方が多数おいでのことと思うが、競馬ファンの間で人気のペーパーオーナーゲーム(POG)は、アンティポスト・ベットと同じ思考を持って取り組む遊びである。逆に言えば、まさに今、ブックメーカーたちが売り出している、来年のクラシックレースを対象とした単勝馬券は、2歳6月の段階でその年の2歳チャンピオンや翌年のクラシックホースを占うPOGと、限りなく近い発想で買う馬券なのである。

 7月13日現在で、来年の2000ギニー(芝8F)へ向けた前売りで各社が15倍前後のオッズを掲げて1番人気に推すのがサナスパーアクアム(牡2、父テオフィロ)である。英二千ギニーなど4つのG1を制したドーンアプローチの甥にあたる本馬。6月28日にカラのメイドン(芝7F)でデビュー勝ち。続いて7月9日にレパーズタウンで行われた条件戦(芝7F)を4.3/4馬身差で制して連勝。レース内容が良く、血統的にも距離延長に不安がないことから、クラシック本命の座に躍り出ている。

 この馬が今後も勝ち続け、その上で来年の二千ギニーを制したら、当日のオッズはついたとしても2〜3倍である。それなら、考えられるいくつかのリスクは承知の上で、15倍もつく現段階で買っておくのが得策と考えるファンが少なくないのである。

 大手ブックメーカーのラドブロークスやコーラルが、15倍のオッズを掲げてサナスパーアクアムと横並びの1番人気に支持しているのが、ビュラティーノ(牡2、父エクシードアンドエクセル)だ。ダーレーが生産しゴドルフィンが所有するビュラティーノは、仏国で走りLRプティトエトワール賞(AW1900m)3着などの成績を残したベルガマスク(その父キングマンボ)の4番仔にあたる。マーク・ジョンストン調教師の管理下に入った同馬は、3月28日にチェルムスフォードのメイドン(AW5F)でデビューし、ここを3.1/2馬身差で制して緒戦勝ち。以降、現在まで既に6戦を消化し、2馬身差で快勝したロイヤルアスコット初日(6月16日)のG2コヴェントリーS(芝6F)を含めて4勝を挙げている。

 早熟タイプで、現段階では完成度の違いで2歳戦線をリードしている、という見方も出来るのがビュラティーノだ。更に同馬は現段階で6Fを越える距離を走っておらず、父がオーストラリアのチャンピオンスプリンターであることを考えれば、距離が延びたらパタっと止まる可能性もおおいにある。

 だがサナスパーアクアム同様に、ビュラティーノが今後もクラシック戦線の先頭を走り、来年の2000ギニーを制したとしたら、これも、レース当日の単勝はまず間違いなく2〜3倍しかつかないであろう。そしてビュラティーノが父よりも、母や母の父の影響を強く受けている個体であった場合、8Fは楽に守備範囲内にあるし、成長力も保持している可能性が高い。であるならば、15倍〜17倍もつく現時点で、大きな金額でなくてもよいから、2000ギニーにおけるビュラティーノの単勝を買っておこうかというのは、無理なく成立するロジックである。

 各社が17〜20倍のオッズを掲げて3番手評価としているのが、エアフォースブルー(牡2、父ウォーフロント)だ。北米産馬で、キーンランド9月市場にて49万ドル(当時のレートで約5204万円)でクールモアグループに購買され、愛国のエイダン・オブライエン厩舎に入厩したエアフォースブルーは、日本で走り1勝しているシェーンメーアの半弟にあたる。5月24日にカラのメイドン(芝6F)でデビュー勝ちを飾った後、G2コヴェントリーSがビュラティーノの2着だった。

 一方、牝馬の1000ギニーへ向けた前売りで、ウィリアムヒルとコーラルがいずれもオッズ17倍で横並びの1番人気としているのが、イルミネイト(牝2、父ゾファニー)とバリードイル(牝2、父ガリレオ)の2頭である。

 ドンカスター8月1歳市場にて9万5千ポンド(約1638万円)で購買され、リチャード・ハノン調教師の管理馬となったイルミネイトは、日本で走り船橋で1勝を挙げたクイーンオブハルカの半妹にあたる。5月3日にソールズバリーの条件戦(芝5F)でデビュー勝ちすると、次走はロイヤルアスコットのG3オルバニーS(芝6F)に駒を進め、ここも快勝。前半は後方に控え、馬群が壁になって抜け出す進路を探しあぐねた後、ようやく見つけた隙間に飛び込み差し切った競馬は、極めて印象的であった。血統的にも、本馬をはじめ初年度産駒から活躍馬が続々と出ている父ゾファニーは現役時代、G1セントジェームスパレスS(芝8F)でフランケルに3/4馬身差まで迫る2着に健闘した馬で、母系も叔母にG1伊オークス(芝2200m)2着馬レディーキャサリンがいるから、少なくとも8Fまでは問題なくこなせそうである。

 一方のバリードイルは、G1愛プリティポリーS(芝10F)やG1愛1000ギニー(芝8F)を含めて4つのG1を制したミスティーフォーミーの全妹という、超良血馬である。A・オブライエンが管理する同馬は、5月23日にカラのメイドン(芝6F)でデビューし、ここは4着に敗退。次走は、緒戦で敗れたにも関わらず、ロイヤルアスコットのLRチェシェイムS(芝7F)に挑み、勝ち馬スーツユーに短頭差及ばぬ2着に入っている。すなわち、現時点ではバリードイルは未勝利なのだが、今後の大きな成長が見込まれることから、アンティポストでは人気を集めており、ラドブロークなどはイルミネイトの17倍に対してバリードイルには15倍のオッズを掲げ、この馬を前売り1番人気にしている。

 一方、ウィリアムヒルがオッズ17倍を掲げ、イルミネイト、バリードイルと横並びの1番人気に推しているのが、アリススプリング(牝2、父ガリレオ)である。タタソールズ10月1歳市場のブック1にて55万ギニー(約1億103万円)という高値で購買され、A・オブライエン厩舎に入ったアリススプリングは、6月26日にカラで行われたメイドン(芝7F)を2馬身半差で快勝。この1戦だけで、ウィリアムヒルは同馬をクラシックの本命に押し上げたのだった。

 未勝利馬や、デビュー戦を勝ち上がっただけの馬が人気になることもままあるのが、「先物買い」を旨とするアンティポスト・ベットである。

 日本で今、来年の皐月賞の単勝馬券が買えるとしたら、ポルトフォイユやプロディガルサンを買っておきたいと考えるファンが、少なからずいると思う。

日本でも、アンティポスト・ベットの導入を、ぜひ前向きに検討してほしいものである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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