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BTCの韓国人研修生

  • 2015年08月19日(水) 21時00分
乗馬歴が長く25年のキャリアを持つ元騎手の金さん

乗馬歴が長く25年のキャリアを持つ元騎手の金(キム)さん


将来的には「韓国競馬を今よりもっとオープンにして国際競争力をつけたい」というのが彼らの目標

 近年、少しずつ交流が生まれてきているお隣の韓国から、このほどBTCに研修生が来日してきており、日々研修に打ち込んでいる。

 今回、初めての試みとなるこの研修生派遣は、韓国の農水省畜産発展基金なるところから予算が下り、手始めに5人の研修生が派遣されてきた。期間は8月3日より28日までの約25日間である。

 一行5人のうち、1人は通訳で、残り4人が研修を受けている。研修生といっても、全員、年齢が高く、こと騎乗に関しては「ベテラン」の域に達している。

 ざっと5人を紹介しよう。まず通訳の羅盛安さん(53歳)。そして、4人の研修生は任庠律さん(52歳)、李鍾渉さん(37歳)、金延年さん(45歳)、柳志煥さん(30歳)。全員、男性である。

 任(イム)さんは、KRR育成調練アカデミーの教官を務めている。乗馬歴は5年である。李(リー)さんは、元騎手で乗馬歴20年のベテラン。日本にも過去に5回ほど観光旅行で訪れたことがあるという。

韓国人留学生(李さん)

元騎手で日本にも過去に5回ほど観光旅行で訪れたことがあるという李(リー)さん



 金(キム)さんはさらに乗馬歴が長く25年のキャリアを持つ元騎手。45歳。李さんとともに、ソウル競馬場で乗っていたらしい。現在は、長水育成牧場で騎乗している。日本流に言うと、騎乗スタッフとして働いている、ということか。

 柳(リュウ)さんも、長水育成牧場で騎乗者として働く。年齢は一番若く30歳である。元軍人で、フランスに留学中、乗馬に目覚め、27歳から騎乗訓練を始めたという変わり種だ。

 これらの方々は、こと騎乗に関しては今さら教えてもらうことなどないように思えるが、いったい今回の研修の目的はどのあたりにあるのか?と質問してみたところ「どうやって騎乗者を育てているか、どのような教育システムで研修を行っているのかを学ぶためにきた」というのであった。

 彼らは基本的に月から金まで、週5日間の研修メニューである。乗馬の実技に関しては、コースでの騎乗は元騎手も2人おり、お手のもので、むしろ角馬場での障害飛越や基本馬術などの方が目新しく映るらしい。その他、講義などを通じて、BTCにおける育成調教技術者の養成の方法などを学ぶことに重点が置かれている。

韓国人留学生(柳さん)

元軍人で、フランスに留学中、乗馬に目覚め、27歳から騎乗訓練を始めた柳(リュウ)さん



 もちろん、それとともに、各地へ熱心に視察、見学にも出張している。「先週は、札幌競馬場に行ってきました。とても、芝コースがきれいなのが印象的でした」と任さん。因みに韓国には現在、ソウル、釜山、済州島の3か所で競馬が開催されているが、日本のように芝コースは設置されておらず全てダートである。

 通訳の羅さんは、日本獣医畜産大学に学んだ経歴を持ち、日本語は趣味のアマチュア無線から独学で学び始めたという。日常会話はほぼ完ぺきで、他の4人が全く日本語を解しないことから、とても貴重な存在であった。

 騎乗中は、4人にそれぞれ受信機がつけられており、BTCの教官が出す指示を羅さんが韓国語でマイクを通じて4人に伝えるという方式である。

 韓国競馬は未だ発展途上にあり、日本からも多くの種牡馬や繁殖牝馬が輸出されている。もちろん、現役の競走馬にも日本から輸出された馬がいるし、一部では交流レースも実施されている。しかし、まだまだ行き来が自由に行われているわけではなく、ハードルはまだ高い。

 任(イム)さんが「BTCの施設はとても広く、なおかつひじょうに良く管理が行き届いている」と絶賛していた。また「素晴らしい教官たちに多くのことを学び、実り多い研修になっています」などとも口にした。

韓国人留学生(任さん)

「実り多い研修になっています」と任(イム)さん



 韓国は、済州島に生産牧場の8割が集中しているという。また、韓国版BTCとでも表現したらいいのだろうか、KRAの管理する「育成調練アカデミー(韓国では“調教”ではなく、“調練”と表現するらしい)」なる、民間に施設を貸与して競走馬の調教を行う施設もあるという。

 ただ、任さんが「韓国の生産牧場はまだまだレベルが低いです」とのことで、両手を使って縦に50センチくらいの幅で落差を表し「これくらい違います」と言っていたのが印象的であった。

 日本の生産牧場を見学したのですか?と尋ねると「はい、ノーザンファームなどに行きました」との答。「面積も、草地の管理も、繋養されている繁殖牝馬の質も、何もかも違いました」と答える。日本人の私たちでさえ、あまりの違いに絶句するのだから、彼らが一様に驚いたのも無理はない。

 いずれ将来的には「韓国競馬を今よりもっとオープンにして国際競争力をつけたい」というのが彼らの目標だという。日本競馬が歩んできた道を、彼らは今必死で追いかけてきているということなのだろうか。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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