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ダート短距離路線の苦悩

  • 2015年10月02日(金) 18時00分


◆もう少し出走しやすいレースがあっていいのではないか

 9月30日に行われた東京盃は、『交流重賞回顧』のコラムにも書いたとおり、ダノンレジェンドが盤石の競馬で完勝。これで本番のJBCスプリントを断然人気で迎えることになりそうだ。

 そして驚いたのが、2着のドリームバレンチノ。人気3頭での決着になるかに思えたところ、コーリンベリー、シゲルカガを並ぶ間もなく交わし去ってという、この馬の上り3Fは35秒7。ここ3戦の凡走を払拭する走りを見せた。

 1400m以下を得意とするダート短距離馬の大目標はJBCスプリントだが、実際にそれを勝ってしまうと、その後には試練が待っている。

 中央・地方を通じて古馬のダート1400m以下の重賞では、GI(GにはJpnも含む、以下同)はJBCスプリントが唯一、GIIも東京盃とさきたま杯の2レースしかない。GIIIでは実績馬に厳しい負担重量を課されるレースがほとんどで、ダート短距離路線のGI馬のその後は、常に斤量との戦いを強いられることになる。特に地方のGIIIでは、GI勝ち馬には5kg増という極端な別定重量が設定されているレースもある。

 近年のJBCスプリントの勝ち馬を見ると、スーニこそ何度か復活を果たしたが、サマーウインド、タイセイレジェンドなどは、明らかに負担重量に苦しめられた。ドリームバレンチノも昨年のJBCスプリントを勝って以降は、58、59kgでしか出走していない。

 一方、ダート中長距離路線を見ると、1800〜2100mの古馬GIは、中央・地方を通じて5レース(牝馬限定戦を除く)。1600mも含めると8レースにもなる。さらにGIIまで含めるとかなりの数になる。

 つまり、ダート中長距離路線の活躍馬は、定量もしくは負担重量の差が少ないGI、GIIだけでローテションを組むことができるのだ。たとえば近年の活躍馬でいえば、地方のフリオーソは3歳時のジャパンダートダービー以降は、8歳で引退するまでGII以上にしか出走しなかった。GI・9勝の記録を持つヴァーミリアンに至っては、5歳時の川崎記念でGI初制覇を果たして以降は、海外も含めてGIにしか出走していない。

 今年15回目を迎えたJBCの過去の勝ち馬を見ると、クラシックでは、アドマイヤドン、タイムパラドックス、ヴァーミリアン、スマートファルコンと、2勝、3勝を挙げている馬が多数いるのに対し、スプリントではスーニが2勝を挙げているだけ(ブルーコンコルドは2006年が1600mのJBCマイルとしての施行だった)。この違いは、先に挙げた短距離路線と中長距離路線のレース体系の差によるところが大きいと思われる。

 競馬にはかつて長距離偏重だった時代があり、特にダート戦線において短距離と中長距離で層の厚さが違うのは、その名残もあるのだろう。安易にGIやGIIを増やすグレードの安売りは問題だが、ダート短距離では唯一のGIであるJBCスプリントの勝ち馬のその後のレース選択の苦悩を見ていると、もう少し出走しやすいレースがあっていいのではないか。

 8歳のドリームバレンチノの今回の好走は、そうした苦労からの復活を思わせた。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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