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運営面が心配も中身は極めて濃いものとなりそうな今年のブリーダーズC

  • 2015年10月21日(水) 12時00分


ラストランとなるアメリカンフェイローを見るだけでも、今年のBCは価値がある

 北米競馬の祭典「ブリーダーズC」の開催が、来週末(10月30日・31日)に迫っている。

 今年の大きな話題が、持ち回り開催が原則のブリーダーズCが創設以来32回目にして初めて、北米最大の馬産地ケンタッキー州の、そのまた馬産地のド真ん中にあるキーンランド競馬場が舞台となる点にある。競走名からも推察できるように、もともとは、サラブレッドの生産者たちが所有する種牡馬の種付け料1回分を供出することで、1000万ドルという当時としては破格の総賞金を捻出したことで成立したビッグイベントである。そういう意味では、むしろ遅すぎた感のある馬産地初開催といえよう。

 キーンランド競馬場は、外回りのダートコースが1周8.5ハロン、内回りの芝コースが1周7.5ハロンと、北米の中ではむしろ大きい部類に入るトラックを備えている。それではなぜ、これまでブリーダーズCの開催がなかったかと言えば、常設の座席数が8799しかないというスタンドの狭小さが理由だった。5万人分のシートがあり12万人の収容が可能なチャーチルダウンズや、座席数が2万6千あって6万人を収容したこともあるサンタアニタなどに比べると、キーンランドの規模はいかにも小さく、興行的見地に立つとここでの開催に二の足を踏みたくなるのも無理はなかった。それでも、馬産地で開催する意義は大きく、ようやく初めてのBC開催が決まったキーンランドでは、仮設のスタンドをあちこちに設け、2万8千枚のチケットを販売。現地ではお祭りムードが高まっている。

 ただし、弊害も出ている。深刻なのがホテル不足で、BC前後はお膝元のレキシントンはもとより、近隣エリアにあるホテルが軒並み半年前から満室状態となっている。レキシントンでは、BC翌日の11月1日にファシグティプトン・ノヴェンバーセール、2日からキーンランド・ノヴェンバーセールという、大きなブリーディングストックが開催されるが、セールの購買者がホテルを確保出来なくて往生する事態となっている。

 しかも、運よく予約がとれたとしても、価格は通常の3倍以上で、普通のシティーホテルの一室が日本円で1泊7万円などという、恐ろしいほどの暴利がまかり通っている。更に心配されているのが、当日の交通事情だ。ニューサークルロードと呼ばれる環状線の車線を1つ増やす工事が行われていたりするが、それでも市内が大渋滞となるのは火を見るよりも明らかだ。更に、競馬場の出入り口が裏側を含めても3か所しかなく、普段の競馬開催日でも相当の時間を要する競馬場の出入りに、いったいどれだけの時間がかかることになるのか、想像もつかないことになっている。筆者の知り合いの中には、大混乱を予測して、毎年のように行っていたノヴェンバーセールでの購買を今年は取りやめた生産者も出ている。

 運営面ではかなりの心配があるものの、競馬の中身は極めて濃いものとなりそうなのが、今年のブリーダーズCである。

 37年ぶり12頭目の3冠を達成したアメリカンフェイロー(牡3、父パイオニアオヴザナイル)にとってラストランとなる、メイン競走のクラシック(d10F)を見るだけでも、今年のBCは価値があるというものである。社会現象とまでなった3冠馬が、現役生活の集大成としてどんなパフォーマンスを見せてくれるか、世界中のファンが固唾を呑んで見守ることになりそうだ。相手候補の筆頭と目されているのが、牡馬への初挑戦となった8月のG1パシフィッククラシック(d10F)を8.1/4馬身差で制し、09年にこのレースを制しているゼニヤッタ以降の「最強牝馬」と言われているビホールダー(牝5、父ヘニーヒューズ)というのも、レースに一層の彩りを添えている。

 同じくここがラストランとなるのが、BCターフ(芝12F)に出走するゴールデンホーン(牡3、父ケイプクロス)だ。史上7頭目となる英ダービー・凱旋門賞連覇を成し遂げた欧州最強馬が、名手フランキー・デトーリを背に北米のトラックでどんな競馬を見せるのか。そして、ジャパンCに登録のあるG1アーリントンミリオン勝ち馬ザピッツァマン(セン6、父イングリッシュチャネル)が、持ち味である爆発的な末脚を活かしてどこまで迫れるかも、私たち日本の競馬ファンにとっては見どころとなる。

 日本のファンにとっては更にニアルコス・ファミリーによる日本での生産馬、カラコンティー(牡4、父バーンスタイン)の連覇がかかるBCマイル(芝8F)も見逃せない一戦となろう。

 メンバー構成から言って、レース史上でも類のない至高の争いとなりそうなのが、2歳牝馬によるBCジュヴェナイルフィリーズ(d8.5F)だ。

 1番人気になりそうなのが、ソングバード(牝2、父メダグリアドロー)だ。デビュー戦(d6f)を6.1/2馬身差、続くG1デルマーデビュータント(d7F)を5.1/4馬身差、前走G1シャンデリアS(d8.5F)を4.1/2馬身差と、いずれも楽勝続きで3連勝している、西海岸の代表馬である。

 9月5日にサラトガで行われたG1スピナウェイS(d7F)を制してデビュー2連勝を果たしたレイチェルズヴァレンティーナ(牝2、父バーナーディーニ)は、09年の全米年度代表馬レイチェルアレグザンドラの2番仔だ。G1スピナウェイS2着のタップトゥイット(牝2、父タピット)も、母リーヴミーアローンがG1テストS勝ち馬という良血馬である。そこに、東海岸の代表として加わるのが、10月3日にベルモントパークで行われたG1フリゼットS(d8F)を3.1/2馬身差で快勝したニックネイム(牝2、父スキャットダディ)だ。

 主催者側も心得ていて、BCジュヴェナイルフィリーズを2日目(31日)のオープニングレースに組んで、いきなりスタンドのボルテージを高めることを目論んでいる。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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