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減量期間が3年から5年に 若手騎手の騎乗機会確保策を考える

  • 2015年10月26日(月) 18時01分
教えてノモケン

▲デビュー前の騎手候補生たちによる模擬レースの様子(撮影:下野雄規)


 9月下旬に複数のスポーツ紙が、来年度から見習い騎手に与えられる減量特典の期間を現行の3年から5年に延長されると報じた。JRAは現時点で明言はしていないが、11月に発表される来年度の事業計画を立案する過程で、こうした内容が馬主団体や厩舎関係者に説明された形跡はある。

 実は筆者は昨秋、競馬雑誌と馬主団体の会報で2度に渡って、減量期間の延長を提言したことがある。2015年度の新規騎手免許試験の1次をミルコ・デムーロ、クリストフ・ルメール両騎手が突破したことを受けたものだった。後に美浦に行くと関係者から寄稿の件で何度か声をかけられ、概して肯定的な反応だった。また、水面下で調整中との話も聞こえてきた。

 見習い(減量特典)制度は、騎手の生態系という大きな枠組みの中の従属変数のような位置づけだが、現在の国内の騎手事情を見る限り、若手の騎乗機会確保策としては、この程度しか思い浮かばないというのも事実だ。

かつてはダービーの前座で


 かつて、見習い騎手限定競走と言えば、日本ダービーの前座という印象があった。筆者が競馬を覚えたのは1970年代後半だが、ダービー当日のテレビ中継で、見習い騎手戦を目にした。組まれた意図はダービー参戦騎手全員を、ファンが見守るパドックで騎乗させること。トップ騎手の連続騎乗が当たり前の今日、ダービーでも検量室前で慌ただしく騎乗する騎手の方が下手をすると多数派。もちろん、入場者も多く、視聴率も高い舞台で若手をお披露目する意図もあった。

 一昨年のダービー当日は、第80回を記念し「ホープフルジョッキーズ」を、後述する若手騎手限定の特別競走(500万条件)として編成した例があるが、これは午後最初の5レースだった。

 ダービー前の見習い騎手戦は84年に姿を消したが、当時の減量特典制度はどうなっていたか? 勝ち数に応じて1-3kgの減量が与えられるのは現在と同じだが、対象は現在より広く「数え年26歳以下」だった。数え年を使うこと自体、今回改めて問い合わせて知って驚いたが、満年齢で言えば25歳程度となろう。勝利数の刻みを見ると、20勝以下が3kg(▲)、21-30勝が2kg(△)、31-40勝が1kg(☆)だった。この刻みは66年9月に設定され、71年4月からは「23歳未満は41勝以上でも1kg減」と扱われるようになった。

 このルールが見直されたのは92年だが、契機となったのは武豊(46)に代表される競馬学校騎手課程出身者の台頭だった。同課程が初めて騎手を出したのは85年で、今では柴田善臣(49)が唯一の現役となったが、彼らの活躍で「41勝」は一人前の騎手のハードルとしては低すぎる水準となった。そのため、2kg以上の減量特典は据え置き、1kg減の適用範囲を100勝以下に拡大した。

 刻みが変わる直前の91年の勝利数ランクを見ると、2位の武豊(96勝)を筆頭に、上位10人中5人、上位30人中13人が騎手課程出身者だった。彼らが41勝を通過した時期を見ると、デビュー3年目までかかったのは柴田善、横山典弘、佐藤哲三の3人だけで、あとは2年でクリアした。この年は30位以内に入っていない蛯名正義も武豊と同期デビューで、初年度30勝、2年目43勝と2年で突破している。91年と言えば1期目の柴田善がやっと25歳になった年である。リーディング争いに加わる騎手までも一般競走で1kgの減量特典に浴していたわけで、制度の見直しは必然だったと言える。

「プロパー」に国際化の荒波


 92年からは1kg減の範囲が31-100勝に拡大された(2-3kg減は従来通り)一方、減量期間は一律に「免許取得後3年」と一気に圧縮されており、騎手課程の黄金時代を象徴するような措置だった。なぜ初期の騎手課程出身者がここまで活躍したか。後年、競馬学校長を歴任した井上敏夫氏に聞いた話だが、「開校以前に騎手養成を担っていた馬事公苑では、騎乗訓練が1日2本だったが、競馬学校では3本に増やした」という。先行世代より練習量を増やしたことが、すぐに結果として現れたのだ。

 ただ、この措置が執られた当時、騎手界には「国際化」という新たな波が迫っていた。94年に外国人騎手短期免許制度が新設され、95年には地方競馬との「交流元年」を迎える。

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1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。

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