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成長した3歳馬が実績馬を一蹴/JBCレディスクラシック

  • 2015年11月05日(木) 18時00分

(撮影:高橋正和)



大野拓弥騎手のいくつかの好判断

 ほとんど同じメンバーで同じような条件で対戦しても、必ずしも同じ結果にならないのが競馬の難しいところ。机上の計算では、前哨戦のレディスプレリュードで別定重量を他馬より余分に背負っていたサンビスタが、今回は定量戦になったことでさらに強い勝ち方をするのではないかと見るのも当然のことで、それゆえ単勝1.3倍の断然人気。しかし結果は、レディスプレリュードと上位4着までの顔ぶれは同じだったものの、順番はまったく違うもの。その結果に至るレース展開もかなり違うものだった。

 逃げたのは同じブルーチッパーだったが、まずペースが違った。レディスプレリュードが、2F目に11秒台になった以外は12秒台のラップが続いて、1000m通過が61秒2という平均ペース。対して今回は、1000m通過までに11秒台のラップが3回あっての59秒4というハイペース。レディスプレリュードのレース後に、「JBCではもっと思い切って逃げる」というブルーチッパー陣営の話が伝えられていたが、中央時代に3勝を挙げている幸騎手に鞍上を替えての作戦だったのだろう。

 その速い流れに控える競馬がピタリと当たったのがホワイトフーガだった。強敵を負かそうとするときに、普通なら積極的に前に行ってどこまで粘れるかという作戦をとりそうなもの。ましてホワイトフーガは、これまで逃げ先行で結果を残してきている。しかしホワイトフーガが今回とった作戦は逆だった。4番手で併走したサンビスタ、アムールブリエの2強を前に見る6番手を追走した。

 さらに大野拓弥騎手にはいくつかの好判断もあった。まずは3〜4コーナーでコースロスのない内ラチ沿いを回って、無理することなく位置取りを上げたこと。さらに4コーナーでは、すぐ前にいたサンビスタが、先に仕掛けていた外のアムールブリエに馬体を併せに行ったところ、最内で失速しかけていたブルーチッパーとサンビスタとの間にできた1頭分の狭い隙間を突いたこと。

 さらにそうした展開的なこと以上に大きな要因として、ホワイトフーガが一戦ごとに充実していたことも挙げられる。関東オークスを大差で圧勝したあと、ブリーダーズゴールドC、レディスプレリュードはともに3着。その2戦は、直線を向いて先頭に立ちかけたところ、サンビスタに交わされてという、まったく同じような展開だった。しかしその2戦で違っていたのは、ブリーダーズゴールドCでは交わされるとズルズル後退していたのに対して、レディスプレリュードでは残り100m手前のあたりまで食い下がっていたこと。たしかにその上積みは感じられたが、定量53kgという3歳馬ゆえの恵まれた斤量があったにしても、まさかサンビスタを負かして、さらに5馬身もの差をつけるまでとは驚かされた。

 ただ今回、まったく抵抗できなかったサンビスタのレースぶりからは、本来の力は発揮していないと思われる。レディスプレリュードを57kgで勝って、今回が55kgの定量ということを考えればなおさらのこと。

 そのサンビスタから2馬身半差の3着がトロワボヌール。向正面ではホワイトフーガよりも少し後ろの外目を追走していたが、3コーナー過ぎではホワイトフーガより前に出ていた。しかし4コーナーではアムールブリエのさらに外を回したぶんのコースロスがあり、直線での伸びもいまひとつだった。

 アムールブリエはレディスプレリュードと同じ4着。前回も、そして今回も、鞍上の浜中騎手は「2000m以上距離があったほうが…」ということを繰り返した。大井の1800mというコースは、この馬には合っていないようだ。だとすれば、実際にワイルドフラッパーを3馬身ちぎった川崎のエンプレス杯(2100m)は牝馬同士でもあり当然として、牡馬が相手でも名古屋グランプリ(名古屋2500m)や、年が明けてのダイオライト記念(船橋2400m)あたりを視野に入れてもよさそうだ。

 地方最先着は5着のリュウグウノツカイ。南関東B2級でも勝ちきれないという伏兵だ。ただこれは、ブルーチッパーがイチかバチかのハイペースの逃げに出て失速(8着)、重賞6勝の実績馬ノットオーソリティも向正面あたりでは勝ち馬のうしろを懸命に追いかけて直線一杯になった(6着)のに対して、リュウグウノツカイは道中後方集団を追走して直線だけ脚を使ってということはあった。地元南関東勢のこのあたりの着順は、必ずしも実力どおりの結果ではない。

 さて、勝ったホワイトフーガはまだ3歳ゆえ、さらなる成長が見込める。一方で、JpnIを勝ってしまったことで、サンビスタがそうだったように、今後は別定重量という試練が待っている。それを克服した時に、真のダート女王という評価となるのだろう。

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1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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