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これからシーズンが本格化するヨーロッパ障害戦の見どころ・その1

  • 2015年11月11日(水) 12時00分


今週はハードルの2マイル路線と3マイル路線を展望

 7日(土曜日)にドンカスターで行われた開催をもって、英国における今年の芝平地シーズンが終了した。翌8日(日曜日)には、イタリアで今季最後の芝平地G1ローマ賞が行われ、フランスであと1つ、牝馬限定のG3フィーユドレール賞(11日、トゥールーズ)が残されているものの、今年のヨーロッパにおける芝の平地競馬はもはや完全に終戦ムードである。

 代わってヨーロッパで盛り上がるのが、これからシーズンが本格化する障害戦だ。具体的には、13日から15日までイギリスのチェルトナムで、そのものズバリの「ジ・オープン」と呼ばれる3日間開催があり、14日にはアイルランドのパンチェスタウンでシーズン最初のG1モーギニアハードルが行われ、来年春までの障害シーズンが幕を開けるのだ。

 そこでこのコラムでは、今週と来週の2回を使って、今季の障害シ−ズンを彩るであろう有力馬たちの動向をお伝えしつつ、見どころをご紹介することにしたい。

 まず今週は、ハードルの2マイル路線と3マイル路線を展望する。

 ハードル2マイル路線の最高峰G1チャンピオンハードル(3月15日、チェルトナム)へ向けた前売りで、ブックメーカー各社が一様にEven(=2倍)のオッズを掲げて圧倒的1番人気に支持しているのが、フォーヒーン(セン7、父ジャーマニー)である。

 障害戦好きの方にはもはやご紹介するまでもなく、このコラムでも過去何回か取り上げているので読者の皆様の中にも名前をご記憶の方が多いと思うが、改めて紹介すれば、1回だけ走ったポイント・トゥ・ポイント競走と、これも1回だけ走ったナショナル・ハント・フラットを含めて、ここまで11戦11勝という成績で来ている、ハードル界のスーパースターである。

 生まれた年の11月にタタソールズ・アイルランドのナショナルハントセールに上場され、せり場では主取りになった後に直接購入でエージェントのピーター・クインランが4千ユーロ(当時のレートで約48万円)で購入。更に3歳6月にゴフスのナショナルハントセールに上場され、1万2千ユーロ(約140万円)でメドウヴューステーブルに転売されたのがフォーヒーンである。ポイント・トゥ・ポイントを1戦した後、アイルランドの名門ウィリアム・マリンズ厩舎に入り、5歳の春に走ったパンチェスタウンのナショナル・ハント・フラット(芝16F)を22馬身差で圧勝して、フォーヒーンの快進撃がスタートした。

 いよいよハードルを跳びはじめた13/14年シーズンの、3戦目となったライムリックのG3リバティインシュランス・ノーヴィルハードル(芝24F)を5馬身差で制して重賞初制覇を果たすと、翌年3月のチェルトナム・フェスティヴァルでG1バーリングビングハム・ノーヴィルハードル(芝21F26y)を4.1/2馬身差で制してG1初制覇。次走は距離を縮めて、パンチェスタウンのG1ヘラルドチャンピオン・ノーヴィスハードル(芝16F)に駒を進めたところ、ここを12馬身差で圧勝し、5戦5勝の成績で13/14年シーズンを締めくくっている。

 14/15年シーズンは4戦し、ケンプトンのG1クリスマスハードル(芝16F)、チェルトナムのG1チャンピオンハードル(芝16F87y)、パンチェスタウンのG1パンチェスタウン・チャンピオンハードル(芝16F)という、3つのG1を含めて4連勝をマークしている。

 15/16年シーズンの始動戦となる予定なのが今週末のモーギニアハードルで、ブックメーカー各社は1.125倍〜1.14倍という、圧倒的1番人気に支持している。

 昨シーズンのG1チャンピオンハードルでもG1パンチェスタウン・チャンピオンハードルでもフォーヒーンの2着に入り、今季初戦となった11月8日にナーヴァンで行われたG2リスマレンハードル(芝20F)を白星で通過したアークティックファイア(セン6、父ソルジャーホロウ)。昨シーズンのチェルトナム・フェスティヴァルでG1JCBトライアンフスハードル(芝16F179y)を制してデビューからの連勝を4に伸ばしたピースアンドコ(セン4、父ファルコ)。平地でG3セントサイモンS(芝12F5y)2着などの成績を残した後、14/15年シーズンからハードルに転向し、パンチェスタウンのG1チャンピオンノーヴィスハードル(芝20F)を含めて4つのG1を制したニコルスキャニオン(セン5、父オーソライズド)など、2番手グループにも魅力的な馬は多いのだが、この路線における最大のみどころは、フォーヒーンの連勝がどこまで伸びるか、その一点に尽きると言ってよさそうである。

 確たる軸馬のいるハードル2マイル路線と異なり、09年から12年までチェルトナムのG1ワールドハードル(芝24F)を4連覇したビッグバックス引退後の混迷期が依然として続いているのが、ハードル3マイル路線である。

 G1ワールドハードル(3月17日、チェルトナム)へ向けた前売りで、頭1つ抜けた形で1番人気に推されているのが、牝馬のアニーパワー(牝7、父シロッコ)である。祖母が独オークス(芝2200m)を制したチャンピオン牝馬のアンナパオラで、母アンノルースがG3ドイツ牝馬賞(芝2400m)勝ち馬という血統背景を持つアニーパワー。1つ年上の兄に、平地を走ってロンシャンのLRラヴレ賞(芝2400m)を制しているエアトゥルーパーがいるから、スタミナはあるが生粋の障害血統ではなく、アニーパワーも当初は平地を走るつもりでジム・ボルジャー厩舎に入厩。だが、実際には平地は一度も走らずに、4歳夏にナショナル・ハント・フラットでデビューし、2連勝を果たした段階で、フォーヒーンと同じリッチーとスザンナのリッシ夫妻の所有馬となって、ウィリアム・マリンズ厩舎に転厩した。ちなみに、マリンズ厩舎所属で中山グランドジャンプを制したブラックステアマウンテンも、リッシ夫妻の所有馬だった。

 転厩後、ナショナル・ハント・フラットをもう一戦して3連勝を飾ると、12/13年シーズンからハードルを跳びはじめ、3戦目となったナースのG2パディーパワードットコム・ノーヴィスハードル(芝16F)で重賞初制覇。続くフェアリーハウスのG1メアズノーヴィスハードルチャンピオンシップファイナル(芝20F)でG1初制覇を果たし、このシーズンを5戦5勝の成績で乗り切っている。

 13/14年シーズンも当初から3連勝を飾ったが、圧倒的1番人気に推されて臨んだチェルトナムのG1ワールドハードルでモアオヴザットの2着に敗れ、デビューから継続していた連勝が10でストップ。続く牝馬相手のG1メアズチャンピオンハードル(芝18F)は7馬身差で快勝し、鬱憤を晴らしてシーズンを終えている。

 14/15年シーズンは始動が遅れ、チェルトナムのG1メアズハードル(芝20F)がシーズン緒戦となった。圧倒的1番人気に推されたアニーパワーは、最後から2つ目の障害を跳んだあたりで先頭に立ち、後続を一気に突き放して楽勝かと思われたのだが、なんと最終障害で飛越に失敗し、デビュー以来初めて、落馬を経験することになった。続くパンチェスタウンのG1メアズチャンピオンハードルは、前年に続いて雪辱を期すレースとなり、ここを10馬身差で圧勝して3度目のG1制覇を果たしている。

 この馬も今週末のG1モーギニアハードルに登録があるが、ここは回避する予定で、シーズン後半のビッグレースを目標に、今年もゆっくりと始動することになりそうである。

 2番手グループを形成するのは、昨シーズンに続くG1ワールドハードル連覇を狙うコールハーデン(セン6、父ウェスターナー)。昨年のチェルトナム・フェスティヴァルでG1バーリングビングハム・ノーヴィルハードル(芝21F26y)を制しているウィンザーパーク(セン6、父ガリレオ)。14年・15年とエイントリーのG1リヴァプールハードル(芝24F149y)を連覇しているウィスパー(セン7、父アスタラバド)らである。

 14年のG1ワールドハードル勝ち馬で、14年11月のG2ロングディスタンスハードル(芝24F110y)で3着に敗れて生涯初の敗戦を喫した後、ノドの手術を受けて休養しているモアオヴザット(セン7、父ベネフィシャル)も、今シーズンは戦列に戻ると言われているが、管理するジョンジョ・オニール師によると、今季はハードルではなくスティープルチェイスの路線に向かう公算大とのことである。

 来週のこのコラムでは、そのスティープルチェイスの2マイル路線と3マイル路線の展望をお届けしたい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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