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平地以上にファンの人気が高いヨーロッパ障害戦の見どころ・その2

  • 2015年11月18日(水) 12時00分


フォーヒーンの連勝がストップする大波乱

 先週のハードル編に引き続き、今週は欧州における障害の15/16年シーズン展望・スティープルチェイス編をお届けするが、まずはその前に、15日に愛国のパンチェスタウンで行われた今季最初のハードルG1モーギアナハードルで起こった大波乱について触れたいと思う。

 先週のこのコラムでご紹介したように、昨シーズンのG1チャンピオンハードルを含めて10戦無敗の成績を誇り、来春のG1チャンピオンハードルへ向けた前売りでもガチガチの本命に推されていたフォーヒーン(セン7、父ジャーマニー)が、今季初戦にG1モーギアナハードル(芝16F)を選択。1.17倍という圧倒的1番人気に推されたのだが、なんと、2着に敗れて連勝がストップしてしまったのである!

 道中2番手を追走したフォーヒーンは、最後から2番目の障害を跳んだ後、逃げていたニコルスキャニオン(セン5、父オーソライズド)を捕まえに行ったのだが、これまで見せたことがなかった内にもたれる仕草を見せて行き脚がつかず、ゴール前でようやくエンジンがかかったものの時既に遅しで、ニコルスキャニオンを半馬身捉えることが出来なかったのだ。ニコルスキャニオンも先週のこのコラムでご紹介していた馬で、ハードル初年度だった昨シーズンにノーヴィスハードルのG1を4つもとっていた、この路線の上がり馬だった。

 初めての敗戦を喫したフォーヒーンだが、チャンピオンハードルに向けた前売りでは依然として1番人気の座を維持。ただし2倍前後だったオッズは、2.5倍から2.875倍辺りまで上昇している。一方、先週の段階では、フォーヒーンをかなり離れた位置から追う2番手グループの1頭としてご紹介したニコルスキャニオンは、オッズ5〜7倍で単独の2番人気に浮上している。

フォーヒーンよりも被った本命になっているアンドゥソー

 それでは、本題であるスティープルチェイス路線の展望へと移ろう。まずは2マイル路線から。

 この路線の最高峰であるG1クイーンマザーチャンピオンチェイス(芝16F)で、ブックメーカー各社が2.1倍から2.625倍という、現時点ではチャンピオンハードルのフォーヒーンよりも被った本命になっているのが、アンドゥソー(セン7、父デンハムレッド)だ。

 仏国産馬で、祖国でナショナルハントフラットを2戦しいずれも白星で通過した後、現在の馬主に購買されて愛国のW・マリンズ厩舎に移籍。まずはハードル路線を歩み、祖国に遠征して優勝したオートイユのG2レオンランボー賞(芝3900m)など3つの重賞を含めて7戦7勝の成績を収めている。14/15年シーズンからスティープルチェイス路線に移ったが、緒戦となったサールズのビギナーズチェイス(芝18F)で、キャリア初の落馬と敗戦を経験することになった。

 だが、落馬も敗戦もこの時一度切りで、次走フェアリーハウスのビギナーズチェイス(芝16F)でスティープルチェイス初勝利をあげると、レパーズタウンのG1アークルノーヴィスチェイス(芝17F)、チェルトナムのG1アークルチャレンジトロフィー(芝15F199y)、パンチェスタウンのG1ライアンエアノーヴィスチェイス(芝16F)をいずれも楽勝で制して昨シーズンを終えている。12月6日にコークで行われるG2ヒリーウェイチェイス(芝16F)が、同馬の今季初戦となる予定だ。

 各社が4〜5倍のオッズでG1クイーンマザーチャンピオンチェイスの2番人気に支持しているのが、古豪のスプリンターセクレ(セン9、父ネットワーク)である。コラムの冒頭で、G1モーギアナハードルで起きた波乱について書いたが、実は同じ日に、チェルトナムで劇的な復活を遂げたのがスプリンターセクレだった。

 11/12年シーズンからスティープルチェイスを走り始め、13年のG1クイーンマザーチャンピオンチェイスを含めて10連勝を飾ったスプリンターセクレ。スティープスチェイス2マイル路線の王者に異変が起きたのが、13年12月にケンプトンで行われたG2デザートオーキッドチェイス(芝16F)で、レース中盤からズルズルと後退しはじめた同馬は競走を中止。直後の獣医検査で不整脈が確認された後、その後の詳しい検査で心房細動を発症していたことがわかり、1年以上にわたって戦列を離れることになった。15年1月にアスコットのG1クラレンスハウスチェイス(芝16F192y)で復帰して2着に好走したものの、続くチェルトナムのG1クイーンマザーチャンピオンチェイスで、鞍上がノド鳴りの予兆を察知して再び競走を中止。その後の検査で呼吸器官に異常は見られず、6週間後にサンダウンで行われたG1APマッコイセレブレーションチェイス(芝16F)に登場したが、ここでも2着に敗れて昨シーズンを終えていた。

 そのスプリンターセクレが、チェルトナムの「ジ・オープン」開催最終日のG2チェルトナムチェイス(芝15F199y)に登場し、ここを14馬身差で制して2年7か月ぶりの勝利を手にしたのである。同馬の次走は、12月5日にサンダウンで行われるG1ティングルクリークチェイス(芝16F)の予定だ。

 そして、各社がG1クイーンマザーチャンピオンチェイスへ向けた前売りでオッズ7倍前後の3番人気に支持しているのが、昨シーズンのこのレースの勝ち馬ドッジングブレッツ(セン7、父ドゥバウィ)だ。

 同馬の今季初戦は当初、これも自身の連覇がかかったサンダウンのG1ティングルクリークチェイス(芝16F,12月5日)の予定だったが、10月下旬に右前脚に骨瘤が出て調教のペースを落としており、ローテーションは白紙に戻っている。前年のチャンピオンがいつ戦列に戻るか、おおいに気になるところである。

 続いて、スティープルチェイス3マイル部門に目を移そう。

 2マイル路線に軸となる馬がいるのに対し、3マイル路線は混戦という構図は、スティープルチェイス路線もハードル路線と同様で、総決算となるG1チェルトナムゴールドC(芝26F110y)へ向けた前売りでも、オッズ10倍以下に4〜5頭がひしめく展開となっている。そんな中で、頭1つ抜け出した状態となっているのが、各社5倍〜5.5倍のオッズを掲げるヴートゥアー(セン6、父ロバンデシャン)だ。

 仏国産馬で、祖国でハードルを2回走って2度とも2着になった後、現在の馬主に購買されて愛国のW・マリンズ厩舎に移籍するという、近頃よく見られるルートを辿った同馬。13/14年シーズンはハードルを5戦し、チェルトナムのG1シュプリームノーヴィスハードル(芝16F87y)など3つのG1を含めて5連勝をマーク。14/15年シーズンからスティープルチェイス路線に転じ、ナーヴァンのビギナーズチェイス(芝17F)でスティープルチェイス初勝利を挙げた後、レパーズタウンのG1レーシングポストノーヴィスチェイス(芝17F)で2着に敗れてマリンズ厩舎所属後の初黒星を喫した。だが、続くレパーズタウンのG2キリニーノーヴィスチェイス(芝19F)、そしてチェルトナムのG1ゴールデンミラーノーヴィスチェイス(芝19F198y)を連勝して昨シーズンを終えている。同馬の今季初戦は12月26日にケンプトンで行われるG1キングジョージ6世チェイス(芝24F)の予定だ。

 ブックメーカー各社が6〜7倍のオッズを掲げて2番人気に推しているのが、昨年のG1チェルトナムゴールドCで、1974年のキャプテンクリスティ以来となるノーヴィスチェイサーによる優勝を果たしたコニーグリー(セン8、父カリンガベイ)である。

 G3ヘネシーゴールドC勝ち馬カールーサーの半弟にあたる同馬。12/13年シーズンをハードラーとして過ごし、4戦してチェルトナムのG2ブリストルノーヴィスハードル(芝23F213y)など2重賞を含む3勝。その後、骨盤を傷めて戦線を離脱し、1年10か月の休養をはさんで14年11月にスティープルチェイサーとして戦線に復帰。そこから、あれよあれよという間の4連勝でG1チェルトナムゴールドCを制したのがコニーグリーである。

 既に今季初戦を終えており、11月8日にケンプトンで行われたLRフューチャースターズチェイス(芝24F37y)を25馬身差で圧勝。次走は11月28日にニューバリーで行われるG3ヘネシーゴールドC(芝25F214y)で、兄カールーサーに続く兄弟制覇を目指す予定だが、16日(月曜日)朝の調教中に左後肢落鉄のアクシデントが発生。蹄を傷めてしまったため、ヘネシーゴールドC出走が微妙な状況になっている。

 各社が6〜8倍のオッズを掲げてG1チェルトナムゴールドCの2〜3番人気に推しているのが、昨年のチェルトナムフェスティヴァルではG1ライアンエアチェイス(芝21F)に出て3着に敗れているドンコサック(セン8、父ショロコフ)だ。

 スティープルチェイス2シーズン目だった昨季は、重賞ばかり7戦して敗戦はその1戦のみ。パンチェスタウンのG1ジョンダーカンメモリアルチェイス(芝20F)、エイントリーのG1メリングチェイス(芝19F200y)など3つのG1を含む6勝を挙げている。今季は既に2戦を消化し、パンチェスタウンのG3アイリッシュデイリースターチェイス(芝23F)を12馬身差で、ダウンロイヤルのG1ジェイエヌワインドットコムチャンピオンチェイス(芝24F)を8馬身差で快勝している。次走は12月26日にケンプトンで行われるG1キングジョージ6世チェイスの予定だから、ここでヴートゥアーとぶつかる公算大である。

 各社7〜9倍のオッズで4番人気になっているのが、ドンコサックと同馬主のドンポリ(セン6、父ポリグロート)だ。昨年のチェルトナムフェスティヴァルではG1RSAチェイス(芝24F80y)に出走して快勝。これを含めてチェルトナムは2戦2勝というコース巧者である。

 同馬は、11月28日にニューバリーで行われるG3ヘネシーゴールドC、12月6日にパンチェスタウンで行われるG1ジョンダーカンメモリアルチェイスの両方に登録があるが、現段階でどこが今季初戦にあるかは明らかにされていない。

 各社が9〜11倍のオッズで5番人気に推すのが、昨シーズンのG1チェルトナムゴールドC2着馬ジャカダム(セン6、父サンデセインツ)だ。同馬の今季初戦は、12月6日にパンチェスタウンで行われるG1ジョンダーカンメモリアルチェイスか、12月28日にレパーズタウンで行われるレクサスチェイス(芝24F)になる模様だ。

 ヨーロッパでは平地以上にファンの人気が高い障害戦を、日本の皆様もぜひフォローしていただきたいと思う。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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