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なぜ、人は賭けるのか

  • 2015年11月21日(土) 12時00分


 先週のエリザベス女王杯から年末の有馬記念まで、7週連続でGIが行われる。それに合わせて、私たちは、中6日のローテーションで「予想」「勝負」「反省」を繰り返すのだから、疲れるわけだ。

 私の馬券師デビューは、武豊騎手のデビューと同じ1987年。来年が30年目になる。

 競馬を始めてから、一度も爽やかな気持ちで正月を迎えたことがないのは、秋から年末までずっと唸りつづけてきたからか。

 ――だったら、やめればいいじゃないか。

 と、競馬をやらない人には言われそうだが、「賭けるもののない日々」がいかに退屈かは言わずもがなで、そうなったらなったで、頭がどうかしてしまうだろう。

 つまり私は、いずれにしても正月をすっきりと迎えることなどできない、というわけか。正月を気持ちよく迎えたからといって、それがどうしたという感じもするが、まあ、こぼすのはこれくらいにしておこう。

 なぜ、人は賭けるのか。

 特に、競馬。競馬は、野球やサッカーのリーグがない国でも行われている。で、共産圏や、宗教的な理由でギャンブルが認められない国や地域を除けば、世界中で馬券が売られている。

 つまり、みな、全力で走る馬を見ながら賭けているのだ。

 それは、面白いから、だろう。

 なぜ、どこが面白いのか。

 マイル戦なら1分半後、2000m戦なら2分後の「未来」を言い当てたときの、天下を獲ったかのような高揚感がいい。

 もちろん、当たることより外れることのほうが多いわけで、そんな状況下、回数では負けても金銭的にはプラスになるよう工夫する試行錯誤そのものも面白い。

 たかが1分半後のことがわからない世の中の無常を感じたり、そんなことに大人が夢中になる滑稽さに触れることも、社会勉強というか、世界をひろげることになる。

 なぜ、私はこんなことを書いているのか。

 お気づきの方も多いと思う。そう、このところ、馬券が絶不調なのである。

 馬券の収支にとらわれるのは、人生の収支ばかりを気にしているのと同じで、ナンセンスなことだよ――と寺山修司風に言ってみたいが、負け惜しみになるだけか。

 競馬場で、馬券を当てて喜んでいるグループを見ると不思議に思う。全員が当てたわけじゃないだろうに、外した人まで嬉しそうにしているのはなぜだろう。演技か?

 まあ、人のことはどうでもいい。


 ということで、馬の話を。

 面白いのは、2歳総合リーディング種牡馬争いだ。去年までディープインパクトが圧倒的な優位を誇ってきたが、今年はダイワメジャーがトップに立っている。

 11月15日終了時で、メジャーが5億397万8000円、ディープが3億4359万2000円と、その差は1億6000万円ほど。

 メジャーは、産駒が予想以上の好結果を出すうちに、つける繁殖牝馬の質が上がったことが大きいようだ。

 このままメジャーが逃げ切るのか、それともディープが逆転するのか――というと、現役時代の繰り返しのようでもある。

 今後行われる阪神ジュベナイルフィリーズや朝日杯フューチュリティステークス、ホープフルステークスといった高額賞金レースの見どころが、ひとつ増えた感じがする。

 朝日杯といえば、武騎手が唯一勝っていないGIである。が、今年、ついに勝って国内GI完全制覇をやってのけるかもしれない、と思わせる相棒が登場した。

 エアスピネルである。

 14日のデイリー杯2歳ステークスでは、3連勝でここに来た1番人気のシュウジを楽にかわし、3馬身半突き放した。

 母エアメサイアは自身の手綱で秋華賞を、大叔父のエアシャカールは皐月賞と菊花賞の二冠を制した馬だ。

 ゆかりの血統で大記録達成なるか。

 その馬券を買うまで、私がパンクしないようにしなくては。

 再度、自問。

 なぜ、人は賭けるのか。

 こういう楽しみもあるから、ということを、答えのひとつにしておきたい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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