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エアグルーヴの血を引く“お坊ちゃま”フォゲッタブル/動画

  • 2015年11月24日(火) 18時01分
第二のストーリー

▲長距離路線で活躍したフォゲッタブルの今


馬術の障害飛越競技にも出場


 11月半ば、新千歳空港からシャトルバスに乗り、苫小牧市美沢にあるノーザンホースパークに向かった。しばらく走ると、車窓からは放牧地で草を食む馬たちの姿が目に入ってくるようになった。空港から20分ほどで、バスはノーザンホースパークに到着した。もはや初冬とも言っても良い季節だが、太陽の日射しのお蔭で寒さは感じなかった。そんな爽やかな空気の中で、待望の馬たちに対面する。

 厩舎から曳き出されて来たその馬の瞳は、キラキラと輝いていた。その瞳に気を取られて最初は気づかなかったが、よく見ると体も大きい。競走馬時代の馬体重は480〜490キロくらいと500キロには達してはいなかったが、目の前のその馬はかなり雄大に映った。

 その馬の名は、フォゲッタブル(セン9)。父ダンスインザダーク、母は名牝エアグルーヴとの間に、2006年4月3日に、北海道安平町のノーザンファームで生まれた。

第二のストーリー

▲2009年ステイヤーズS優勝時(撮影:下野雄規)


 祖母に1983年のオークス馬のダイナカール、半姉には2003、2004年とエリザベス女王杯(G1)を連覇したアドマイヤグルーヴ、半兄に種牡馬となっているサムライハート、半弟に2012年に香港のクイーンエリザベス1世C(GI)を制し、2011年の日経新春杯や2012年のAJCCなど重賞5勝を挙げたルーラーシップ、半妹には2012年のマーメイドS(GIII)に優勝したグルヴェイグなど、錚々たる馬たちが血統表に名を連ねる。さらにアドマイヤグルーヴは、今年の日本ダービーに優勝したドゥラメンテを輩出するなど、ダイナカールから繋がる牝系からは活躍馬が多出ており、今後のさらなる繁栄が期待されている。

 名門出身のフォゲッタブルは、栗東の池江泰郎厩舎(2011年からは池江泰寿厩舎)から2009年1月にデビューし、2009年の菊花賞(GI)で2着、同年のステイヤーズS(GII)や2010年のダイヤモンドS(GIII)に優勝するなど、長距離路線で活躍した。ダイヤモンドSに勝った後は勝ち星には恵まれず、2013年4月の天皇賞・春(GI・10着)が最後のレースとなり、6月1日に競走馬登録を抹消して、ノーザンホースパークでの乗馬生活が始まった。

 キラキラ光る瞳に負けず劣らず、目の前に立つ黒鹿毛の馬体も黒光りしていた。今年4月入社という細沼宏行さんがフォゲッタブルを曳いて歩かせようとするも、頭を上げたり、バタバタして真っ直ぐに歩かなかったりと、かなりのヤンチャ振りを見せていた。その様子を見守っていた乗馬営業課・観光乗馬部門統括の太田和明さんが「元気が良いんですよー」と、口を開いた。

第二のストーリー

▲新人の細沼宏行さんが曳いてみると…


「ここで乗馬になると聞いた時には、あのフォゲッタブルが来るんだと最初に思いました」

 と太田さん。同パークには菊花賞、メルボルンCに優勝したデルタブルース(セン14)、春の天皇賞馬のアドマイヤジュピタ(セン12)やジャガーメイル(セン11)、マイルCSを制したトウカイポイント(セン19)、JCダート勝ちのアロンダイト(セン12)らのGI馬をはじめ、現役時代に活躍した競走馬たちがたくさん顔を揃えている。そして今度はGIには手は届かなかったものの、名牝エアグルーヴの血を引くあの馬が来る…というワクワク、ザワザワとした心持ちで、太田さんたちスタッフはフォゲッタブルを迎え入れた。

「大きいなというのがフォゲの第一印象でしたね。そしてすごく柔らかそうな馬だと思いました。ええ、その時から元気でしたね」(太田さん)

 netkeiab.comのフォゲッタブルの掲示板には、実際にノーザンホースパークで会ったファンの方々の「人懐っこい」という言葉が並んでいる。そして目の前にいるフォゲッタブルはと言えば、好奇心旺盛で、キラキラと光る瞳で近くにいる人間をじっくり観察しているように見えた。

「すごく頭が良いですね。人を見るんです。噛みついてきたりもしますよ。立ち上がったり、人を無視してスタスタスタスタと歩こうとしたりですね(笑)。やはり新人のスタッフがやられますね(笑)」

 ファンの方たちに人懐っこいのは「応援してくれた人たちには、親切にしなきゃ。人参クッキー(馬のおやつとして販売しています)もくれるし」と、ちゃんと人を見分けていたのかもしれないなと思った。

 そして、太田さんなどベテランのスタッフの前では、大人しくしているのだという。太田さんがフォゲッタブルを曳き始めると、はしゃぎたい気持ちをグッと抑えて、何やら神妙な面持ちで歩いている。その姿からも、逆らえない相手には紳士的に振る舞う様子がよく伝わってきた。

第二のストーリー

▲ベテランの太田和明さんが誘導すると


「フォゲをちゃんと曳けるように頑張る! という新人スタッフもいますよ。ある意味、新人の先生となって頑張っていますよね(笑)」(太田さん)

 細沼さんも「まだ曳ききれていなかったです」と反省の面持だったが、フォゲ先生に鍛えられてホースマンとしてどんどん成長していくものと思う。


 フォゲ先生は、新人スタッフの指導以外にも、馬術の障害飛越競技にも出場している。

「ノーザンファームのスタッフが、ここにいるサラブレッドで練習をしているんです。そのスタッフが乗って、試合にも出場しています。1番最近の試合では110mのクラスの障害を飛んでいます。結構、頑張っていますよね。それに素軽い感じなんですよ、見ていても」(太田さん)

 障害飛越競技は、高さ80cm以内の小障害から、高さ160cm以内の大障害まで、レベルに応じてクラス分けがされている。ちなみにフォゲッタブルの飛越した110cmは、中障害Dというクラスの競技となる。来年はさらに上のクラス(中障害Cで120cm以内)を目指すのかどうか。競技馬としてのフォゲッタブルにも注目だ。

 新人スタッフには厳しく、だがファンには愛嬌を振りまきサービス満点、さらにはノーザンファームスタッフの練習馬としての役割を果たし、競技会では軽やかに障害を飛び越えてくる。フォゲッタブルは、ここノーザンホースパークでその存在感をしっかりと示している。

「何て言いますか、お坊ちゃまみたいな感じですよね。ヤンチャでちょっとワガママで、でも可愛いですけど」

 たくさんのエピソードをお話頂いたが、太田さんがフォゲッタブルを評した『お坊ちゃま』という言葉に、彼のすべてが集約されているような気がした。これからも瞳をキラキラ輝かせながら、人懐っこい姿でファンを喜ばせ、厳しい先生として新人スタッフに接し、障害飛越競技で活躍していってくれることだろう。(つづく)

(取材・文・写真:佐々木祥恵)


※フォゲッタブルは見学可です。

ノーザンホースパーク
〒059-1361
北海道苫小牧市美沢114-7
電話 0144-58-2116

開園時間
夏(4/23〜10/31) 9:00〜18:00(10月は〜17:00)
冬(11/1〜4/22)10:00〜16:00
入園料:大人500円(冬季は無料です)
新千歳空港から無料シャトルバス有り

公式HP http://www.northern-horsepark.co.jp/

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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