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ジャパンCダート優勝馬 アロンダイトの本性/動画

  • 2015年12月01日(火) 18時01分
※次回の更新は12/15を予定しています。

第二のストーリー

▲今週末はチャンピオンズC!ジャパンCダート時代の優勝馬アロンダイトの今


(前回のつづき)

顔の“くし”


 今週末、ダートの国際競走チャンピオンズC(GI・ダ1800m)が、中京競馬場で行われる。一昨年までジャパンCダート(GI)という名称で、2000年の第1回から2007年の第8回までが東京競馬場の2100mで、2008年の第9回から20013年の第14回までは阪神競馬場の1800mで施行されていた。東京競馬場で行われていたジャパンCダート時代の第7回の優勝馬が、3歳馬のアロンダイトだった。

 アロンダイトは、2003年5月4日に父エルコンドルパサー、母キャサリーンパーの間に早来町(現・安平町)のノーザンファームで生まれた。馬名は、アーサー王伝説に登場するランスロットが愛用していた剣の名称が由来だ。全妹のクリソプレーズの子から、ジャパンダートダービー(JpnI)など交流重賞3勝のクリソライト、今年のエリザベス女王杯(GI)を制したマリアライト、今年の神戸新聞杯(GII)を制したリアファルがおり、今注目の血脈と言っても良いだろう。

 アロンダイトは、石坂正厩舎から2005年10月にデビューした。初戦、2戦目は芝のレースを走って8着、11着と大敗するが、休養を挟んだ3戦目から路線をダートに変更して3着と好走すると、4戦目には初勝利を挙げている。そこから快進撃が始まり、500万下、魚沼特別(1000万下)、銀蹄S(1600万下)と4連勝でオープン入り。

 その勢いに乗って挑戦したジャパンCダートでは、シーキングザダイヤ、ヴァーミリアン、サンライズバッカス、ブルーコンコルドなどの強豪をねじ伏せ、重賞初出走でGI初制覇を果たしている。内をピッタリと回って直線で抜け出してくるロスのない競馬で勝利に導いた後藤浩輝騎手の見事な手綱捌きと、3歳馬の成長力を感じさせる勝利だった。

第二のストーリー

▲ジャパンCダート優勝時のアロンダイト(撮影:下野雄規)


第二のストーリー

 その後は骨折など脚部不安による長期休養を余儀なくされ、4歳秋に復帰するも勝ち星には恵まれず、2011年8月5日に競走馬登録を抹消して北海道苫小牧市のノーザンホースパークで乗馬としての第二の馬生が始まった。

 アロンダイト(セン)は現役時代、550キロ前後の馬体重を誇っていた。晴れ渡った空の下、厩舎から出て来た黒鹿毛の馬体にはやはり威圧感があった。と同時に、顔の上から真ん中あたりまでに白く走る曲線に目を奪われる。例えて言うなら、崩れたクエスチョンマークか。競走馬時代はメンコにブリンカーを着用していたためにその顔の模様に気づかなかったが、その顔を目の前にすると、どうしても崩れたクエスチョンマークに目が行ってしまう。

第二のストーリー

▲額に浮かびあがる文字…


「僕たち乗馬のスタッフは、白い部分について特に何も思っていなかったのですが、馬を扱わないスタッフが『顔に“くし”って書いてありますよね』と言ったんですよ。そこで初めて『ホントだ!』と気付いたんです(笑)」

 と、乗馬営業課・観光乗馬部門統括の太田和明さんが教えてくれる。普段から馬に接しているスタッフからすれば、顔に白い模様がある馬は結構いるので、それほど気に留めなかったのと思われる。だが馬には直接関わらないスタッフの方が、馬に対して先入観がないので、その模様を素直に“くし“と読んだのではないだろうかと想像してみた。太田さんに教えられると、もはやその模様は“くし”という文字にしか見えなくなるから不思議だ。

人を試す知能犯


 現在12歳になるアロンダイトは、ここでは「アロン」と呼ばれている。「アロンは、すごくのんびり屋さんですよ」と太田さん。

「運動がそんなに好きじゃないんですよ。運動に行く時は、動作がとてもゆっくりなんです(笑)」。馬場に行きたくなくて、ノロノロと歩くアロンの姿が目に浮かぶ。

「でも朝の放牧の時は、運動の時とは違ってとても元気なんです(笑)。それで『運動に行くよ』と言ったら、今度はノソノソノソノソ、ゆっくりゆっくり(笑)」

 つまりは人間に強制的にやらされる運動は嫌で、自分の気の向くまま行動できる放牧ならOKということらしい。わかりやすい馬だ。

 アロンダイトには、手強い癖もある。「いざ乗り運動が始まると、突然暴れます(笑)。普通は馬が暴れる時は、『あっ、来るな』ってだいたいわかるんですよ。でもアロンの場合は、全くわかりません。急にピョーンと(笑)。怖いですよね。普通に駈歩しているのに、突然ですから」

 アロンが暴れれば、落ちる人もいる。「僕も何回か落とされています。落とした後は、『何で落ちてるの?』とでも言いたげにその場に止まっていることもあれば、バーッと走り回っていることもありますね。いかにも自由になったー! という感じで(笑)。ノーザンファームの新人など牧場のスタッフが練習でアロンに乗っていますけど、「難しい馬」だとよく言っています。多分、乗っている人を試しているのでしょうね。暴れても落ちなかったら、ちゃんとしなきゃとか、落ちたら、ご主人様ではない人からおやつをもらってしまおう(笑)とか…」

 話を聞けば聞くほど、アロンはかなりの知能犯。絶対に乗りたくないタイプの馬だ。

第二のストーリー

▲暴れるタイミングがまったく分からないというアロンダイト


「人を試したりはしていますけど、健康ですし、すごい食欲なんです。ここで1番の食いしん坊と言っても良いでしょうね。何でも食べますよ(笑)。馬用の人参クッキーを販売しているのですけど、他の馬がご飯を食べ過ぎてちょっとお腹一杯みたいな素振りを見せると、『オレ、クッキー、食べられるよー!』っていうアピールがすごいんです(笑)」

 前掻きをしたり、首を上下させたりしながら、人参クッキーを持った人に盛んにアピールするアロンの姿を想像すると、思わず笑みがこぼれそうになる。

「食欲がある馬なので、体調の良し悪しもすぐにわかります。いつも残さずペロリと食べる馬が草を残していると、少しお腹の調子が悪いのかなとかですね。でもそんなことも、ほとんどないですけどね」

 顔には“くし”と書かれていて、放牧には喜んで行くのに乗り運動は嫌々で、前触れなく暴れては人を試し、食べ物には貪欲で至って健康なアロン。現在の生活振りを聞いていると、ジャパンCダートでゴール板をトップで駆け抜けた9年前のあの日の栄光よりも、今のアロンにとっては目の前のおやつの方が大事なのかもしれないと、ふと思ったのだった。(つづく)


(取材・文・写真:佐々木祥恵)


※アロンダイトは見学可です。

ノーザンホースパーク
〒059-1361
北海道苫小牧市美沢114-7
電話 0144-58-2116

開園時間
夏(4/23〜10/31) 9:00〜18:00(10月は〜17:00)
冬(11/1〜4/22)10:00〜16:00
入園料:大人500円(冬季は無料です)
新千歳空港から無料シャトルバス有り

公式HP http://www.northern-horsepark.co.jp/

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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