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A.アッゼニ騎手(2)『競馬ファンからジョッキーへ 英国の若武者の素顔』

  • 2015年12月14日(月) 12時01分
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▲今週はイギリス競馬のことから、独自の騎乗論までうかがっていきます


短期免許で来日中の、イタリア出身のアンドレア・アッゼニ騎手。今回は、普段騎乗しているイギリス競馬のお話を伺っています。GI戦線でも活躍していて、今シーズンはカタールレーシングの主戦も務めたアッゼニ騎手。世界で戦う若武者ならではの精神力と騎乗論とは。(取材:赤見千尋)

(前回のつづき)

日本のGIはグレイト!!


赤見 話はさかのぼりますが、ジョッキーになったきっかけは何だったんですか?

アッゼニ 小さい時から馬が大好きだったんです。友達と一緒に競馬観戦に行ったのがきっかけです。

赤見 競馬ファンだったんですか。それは身近に感じる日本のファンも多いと思います。ご家族に競馬関係者がいらしたというわけではないんですね。

アッゼニ 家族に関係者はいないです。母も歯科医ですしね。日本だと親子でというのも多いですよね。僕の場合は友達からで、さらに幸運な事に、身長と体重もそれほど増えなかった。それもあって、気が付いたら自然と目指していましたね。

赤見 日本に来られるにあたって、去年あたりから成績面でトップが見えてきたということですが、飛躍するようなきっかけがあったんですか?

アッゼニ 良い馬に乗せていただくことが増えたのが一番だと思います。それを実感できるようになったのは、2年くらい前から。それが勝利数やGI勝ちにつながったんです。僕は今回初来日なんですが、堀厩舎や藤原厩舎などトップ厩舎の馬に乗せていただく機会もいただけています。初来日の僕に騎乗機会をいただけているのはとても嬉しいですし、感謝しています。

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▲左から中内田師、アッゼニ騎手、吉澤克己氏(引き受け馬主)、吉澤ステーブル内の事務所にて


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▲吉澤ステーブル内の厩舎にて、管理馬をチェックする様子


赤見 そこで声を掛けられるというのは、実績も残してきたということですよね。

アッゼニ そう言ってもらえると嬉しいです。イギリスでもロジャー厩舎の馬に乗せてもらっていて、最初は未勝利の馬が多かったけども、コツコツやっていたら、だんだんと調教師に認めてもらえるようになったんです。最終的にはGIに出るほどの馬にも乗せてもらえるようになりました。それをきっかけに、他の厩舎からも認めてもらえたんです。

赤見 昨年はイギリス三冠レースのセントレジャー、今年はキングジョージを勝たれて。大きな舞台で結果を出しているというイメージがあります。

アッゼニ 最近は自分のなかでも、大きなレースに出させてもらっている実感がすごくあるんです。だからこそ、もっと結果を出して、期待に応えたいと思っています。

赤見 GIのような大きなレースでは、やはり緊張しますか?

アッゼニ ないです。全くない。周りからも「びっくりするぐらいリラックスしてるね」って言われるんです。そこは日本に来ても変わらないです。

赤見 来日されてからエリザベス女王杯、マイルCSなど、GIにも騎乗されています。日本のGIはいかがですか?

アッゼニ グレイト!! あんな体験は初めてです。ファンファーレが鳴って、ファンの人達が手拍子を始めて、歓声がブワーッて。他の競馬場では見られない光景です。素晴らしい!

赤見 乗っているジョッキーとしても、ワクワクしますか?

アッゼニ ワクワクします。自分の気持ちまで高ぶってしまって、僕も一緒に馬の上で手を叩きそうになりました(笑)。自分が日本にいるんだという実感、日本のGIに乗せてもらっているんだという実感が湧きましたね。

赤見 それでもやっぱり、緊張はしなかった?

アッゼニ しなかったですね。僕が緊張することは、かなりレアです(笑)。ただ、緊張しないということが、日本でも良いことなのかは分からないんですけど…。

赤見 日本でも良いことだと思います。精神的な強さもジョッキー向きですね。昔からそうだったんですか?

アッゼニ 年々変わっていったと思います。経験を積んで自信を持てたら、リラックスできるようになりました。緊張しない一番の理由は、自信を持って乗っているからです。馬と調教師と厩舎を信じて乗っているので、緊張しないんです。

赤見 今シーズンは、カタールレーシングの主戦を務められました。日本では馬主さんとの専属契約ってないんですが、どういうものなんですか?

アッゼニ たしかに、日本にはないですよね。イギリスでは、大きなオーナーとの契約というのがあります。専属と言っても、他の馬に全く乗れないわけではなくて。例えば、そのレースの中にオーナーの馬がいなかったら、他の馬に乗ってもいいんです。

赤見 大オーナーの専属になるというのは、ステータスの1つなんですか?

アッゼニ そう言えると思いますし、専属契約を結ぶということはお金を生むことであり、常に乗り鞍があるということでもあります。専属契約を結んでいなければ、乗り鞍がないことも当たり前にありますからね。

赤見 ジョッキーが安定して働けるという意味もあるんですね。

アッゼニ そうです。「専属契約がある」=「常に乗り鞍がある」。それは、良い馬に当たるチャンスもあるということです。常にそういう騎乗機会をいただけるのは、とても大きいです。

赤見 なるほど。ところで、日本でのレースぶりを拝見していると、コーナーは内にこだわって直線でぐいぐい伸びて行くという印象が強いです。人気薄で2着になった時も、そういうレースでしたよね。

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▲「人気薄で2着になった時も内にこだわっていましたよね」


アッゼニ 例えば、この間のブルーフラッシュですとか(11/14、京都ダ1400m、500万下)?

赤見 そうです。日本では内に行くとリスクがあるって考える人が多い中で、海外の方は内にこだわるのかなって。

アッゼニ 内のポジションを取るのは、僕はそこまでリスキーだと思っていません。良いところ良いところ、馬場も良いところを狙って行く。内が悪かったら外を選ぶし、そこはその日の馬場のコンディション次第。あの馬にとっては、内に入る選択が良かったんだと思います。ちゃんと見ていてくださったんですね。ありがとうございます。

赤見 とんでもないです。やはり、ポジションにこだわりを持っていらっしゃるんですか?

アッゼニ ポジションにというか、勝つことが何より大事なので、その馬にとって良いポジションはどこかを常に考えています。内が良かったら内に、外が良かったら外に。その馬が勝てるための騎乗を大事にしているんです。

赤見 テン乗りも多いですし、どうやって感じ取るんですか?

アッゼニ もちろんゲートが開いてからじゃないと分からないんですけど、前走の映像を見ることと、調教師の言葉ですね。初めて乗るんだから、分からないことも多い。調教師が内と言えば内に行くようにします。そこは大事にしますね。

赤見 騎乗に関して、絶対に譲れないポリシーというのはありますか?

アッゼニ ポリシーですか? もう7年も乗っていますので、自分自身のポリシーというよりは、やはり馬に合わせて乗ること。決めつけないで、その馬のことを理解して乗ることが一番大事だと思います。

(次回へつづく)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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