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サクラ戦線で2着以下に大きな差をつける圧勝/阪神JF

  • 2015年12月14日(月) 18時00分


陣営の仕上げも素晴らしかった

 来季のサクラ路線の、「能力の基準」に値するだろうパワフルな候補が出現した。絶好のスタートを切ると、ペースメーカーは行きたい伏兵に譲ったが、先手を取ったキリシマオジョウは気難しさを出し4コーナー手前で自滅。変わってハナに立ったメジェルダもその時点でもう余力がない。1番人気のメジャーエンブレム(父ダイワメジャー)は4コーナーで早くも先頭。前後半「46秒9-47秒6」=1分34秒5。決して緩くはない流れを楽々と押し切り、2着以下に2馬身差の圧勝だった。

 雨の影響があったこの週の馬場差は読みにくいが、フルーキーが抜け出し1800m1分46秒1で決着した前日の古馬G3チャレンジCの1600m通過が「1分34秒1」なので、レース全体のレベルと流れを考えると勝ち時計は上々か。昨年、47秒2-47秒2の前後半で差して1-2着したショウナンアデラ=レッツゴードンキの1-2着が「1分34秒4-5」だった。独走に近い形で1分34秒5ならそれ以上である。

 秋の東京の「アルテミスS」は歴史が浅いが、2歳の時点ではまだ能力全開はかえって良くなく、素質の片鱗(へんりん)を示せば十分とされる。2012年、1分33秒9で2着だったアユサンは、桜花賞を勝った。昨2014年、1分34秒4で2着だったレッツゴードンキも桜花賞を勝っている。1分34秒1で2着だったメジャーエンブレムは、候補の位置を再確認させるように阪神JFを圧勝した。今回の2着以下は、よほど変身しない限り、メジャーエンブレムと大きな差があるランクだろう。

 これから次つぎに候補が出てくるが、男馬と見まちがえるほどパワフルで、この日は迫力あふれる494キロだったメジャーエンブレム。10着以内に好走した馬はメジャーエンブレム以外、他はみんな450キロ以下であり、中に410キロ以下の小型馬が4頭も含まれていた。そんな中で、美浦で水曜日(9日)にビシッと併せ馬で追い切り、なおかつ直前輸送がありながら、前回と同じ494キロで悠然とパドックを歩いている精神力はすごい。追い切る前は、ちょっと太いのでないかと思わせながら、当日はちゃんと現時点の理想体重にもってくるあたり、陣営の仕上げも素晴らしい。ライバルは小柄なのに、ここで馬体重を大きく減らしてしまった馬が多かった。

 近親に日本で知られる活躍馬はいないが、ファミリーはロジユニヴァースの3代母ソニックレディ(ムーラン・ド・ロンシャン賞などG13勝)が代表する伝統のイギリス牝系で、ロジユニヴァースの6代母ルーカスランド(英ジュライC勝ち馬)は、メジャーエンブレムの7代母にあたる。父ダイワメジャーも、母方も、早熟ではなく、かといって遅咲きでもない。種牡馬ダイワメジャーは、13日終了現在、2歳種馬ランキングを約6億3399万円でトップ堅持。2位ディープインパクトは、約4億8202万円で、その差1億5197万円。常勝ディープインパクトは、今週の朝日杯FSに登録馬がいない。まだホープフルSや特別戦はあるが、2歳種牡馬ランキング1位は、身内のダイワメジャー(この世代だけディープと互角の産駒数がいる)に逆転されることになった。

 2着ウインファビラス(父ステイゴールド)は、直前の輸送が響いたか馬体重マイナス12キロの448。新潟2歳S時の452キロより減ってギリギリに映ったが、しぶとく追い上げロードクエストの2着した新潟2歳Sと同じようなレース運びで2着確保。

 父ステイゴールドは、細く映る420キロ台くらいならいいが、430キロを超えると成績が良くない馬だった。この日、マイナス6キロの「398」で9着のアドマイヤリードも、マイナス2キロの「408」で6着したペルソナリテも、マイナス2キロの「438」で15着のウインミレーユも、そして2着ウインファビラスも、ステイゴールド系に限っては、小柄だとか、マイナス体重をとやかく言われる筋合いはないが、さすがにいまは身体を減らして激走する時期ではないのもたしかである。

 新潟2歳S(12番人気)につづいて、10番人気の今回も2着に押し上げたウインファビラスは、シルクスキー(オークストライアルなど重賞4勝)、コスモドリーム(オークス)、ヤマフリアル(エ女王杯2着など)が代表する名門ゲランの一族であり、ビッグレースで波乱の主役を務める伝統も引き継いでいる。馬体重減がいい印象を与えないから、春本番でもきっと人気薄だろう。でも、大駆けする名牝系出身馬であることを忘れないでおきたい。

 3番人気のブランボヌール(父ディープインパクト)は、同じ馬体重減でも余裕残しだったファンタジーSと違ってビシッと仕上げて絞った身体。今回はファンタジーSを上回るレースが可能と思えた。実際、ファンタジーSで遅れを取ったキャンディバローズ(9着)、メジェルダ(14着)には借りを返したが、今年の「ファンタジーS」はかなりレースレベルが低かったことを身も持って示す役割りを果たすことになってしまった。今回の状態で一杯いっぱいの3着では、一歩前進はしたものの、全体の中では二歩後退を受け入れざるを得ない。

 一気に突っ込んできたペプチドサプルアットザシーサイド、ペルソナリテ…は、大駆けを評価された伏兵らしさを確かに示した。まだ路線から脱落したわけではないが、入着争いにとどまり、勝ち負けとは遠かったのは事実である。みんなキャリアは浅い。3歳になると同時に急上昇したい。

 デンコウアンジュ(父メイショウサムソン)は、終始外を回って積極的な運びだったが、あと1ハロンで失速。直線一気の前回とは逆に、正攻法のレース運びが裏目に出たか。父メイショウサムソンと異なり、前半に脚を使うと良くないのだろう。

 素晴らしい状態とみえたクロコスミア(父ステイゴールド)は、ステイゴールド5騎の中でただ1頭プラス体重。気迫満点だったが、好スタートが裏目、かかってしまった。まだ戦い方(脚質)を狭める時期ではないが、デンコウアンジュとともに、先行型に育つタイプではないように映った。なし崩しに脚を使う形は良くないのもしれない。

 しかし、香港遠征組は素晴らしい仕事をしてくれた。みんな偉い。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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