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十大ニュースにかえて

  • 2015年12月26日(土) 12時00分


 例年ならこのあたりで「今年の競馬界十大ニュース」をやるところだが、今年は、後藤浩輝騎手の自死に順位付けをしたくないので、やらずにおきたい。あのあと、彼の笑顔や病室で話したことなどが生々しい質感をもって繰り返し蘇ってきて、いろいろ考えさせられた。そのうちに、ひとつ、私のなかで受けとめ方が定まった。それは「後藤浩輝は最後まで騎手として生きた」ということだ。そうすることを彼は選んだのだ。以前は「死に方は生き方だ」といったことを言われてもピンと来なかったが、騎手のまま死んだ彼を見て、少しわかったような気がする。

 おい、嘘だろう――と、何度も呟いたあの日が2月27日。10カ月前だ。もう10カ月も経ったのか、という人もいるだろうが、私は、あれが今年の出来事だったというのが不思議なくらい、遠い過去のように感じている。

 八戸で初めてえんぶりを見たのは、その前週のことだった。国の重要無形文化財に指定されているえんぶりは、その年の豊作を祈願する伝統行事で、馬の頭をかたどった烏帽子を被った踊り手たちが、頭を大きく振って舞い躍る。最年少ダービージョッキーの前田長吉は、風呂に入っているときも、馬に乗っているときも、えんぶりの笛を練習していたという。

 男たちの横笛の音を聴いて、

 ――長吉もこうして街を歩いたのか。

 と感動したのは、確かに今年のことだという実感がある。

 今、手帳の2月のところを見ているのだが、どの予定も、今年の出来事として普通に思い出せる。

 後藤騎手のことだけが、私のなかで遠い過去に追いやられている。

 私はけっして強い人間ではない。弱い自分の心を守るため、自己保存本能のようなものが働き、彼のことだけ時制をズラして記憶にとどめているのかもしれない。

 春はドゥラメンテが二冠を獲り、ゴールドシップが強さと個性で私たちを驚かせた。

 個人的には、恒例の相馬野馬追取材や介護帰省など、国内での移動が多かった。

 キズナの引退も大きなニュースだった。

 武豊騎手のGIコンプリートを目撃しようと阪神に行ったらエアスピネルは2着に敗れ、馬券もひどいトリガミでフラフラになった。

 といった2015年の競馬シーズンも、まもなくフィナーレを迎える。

 有馬記念の出走馬に、自身の育成厩舎にいた馬はいるかどうか、ノーザンファームの横手裕二さんに電話したところ、彼はこの秋、厩舎長から育成主任になり、2つの厩舎を統括して見る立場になったという。

「あれは化け物ですね」と横手さんが言ったリオンディーズも、育成馬時代、彼が管轄する2厩舎のうちのひとつである森下厩舎にいた馬だという。

 ――朝日杯に行く前に電話しておけばよかった。

 と後悔したが、後の祭りもいいところだ。

 横手さんは言う。

「『久々に出た!』という感じだったポルトフォイユが故障したのが残念です。うちでは、リオンディーズより、ポルトがエース格でした。来年の夏過ぎに復帰できるといいですね」

 武騎手は、3週連続で2歳重賞を勝ち、「ジャニーズ事務所のようだ」と言っていたが、ポルトは事務所の看板タレントになっていたかもしれなかったわけだ。

 有馬の出走馬では、ラブリーデイが、かつての横手厩舎にいた馬だという。

 ――育成馬時代から、将来走ってきそうな雰囲気を感じさせたんですか?

 そう訊くと、横手さんは「ぜんぜん」と笑った。「キンカメの産駒にしては、目立った体をしていなかったし、今も掛かるというか、行きたがりますよね。ああいうところはずっとあって、ぼくらは『力がないからムキになって走ろうとするのだろう』とジャッジしていたんです。調教で宥めながら、『力がつけばいいね』と話していたら、今年になって、本当に力をつけましたね」

 有馬を勝てば、年度代表馬の座をぐいっと引き寄せる。

 ほかの馬が勝った場合、その座につくのはモーリスかドゥラメンテか。モーリスだけ戸川牧場の生産馬だが、3頭ともノーザンファームで育成された馬だ。

「モーリスは森下厩舎、ドゥラメンテは林厩舎にいたんです。ぼくと3人で、『誰の厩舎にいた馬がタイトルを獲るのかな』と話して盛り上がっています」

 杉本清さんの「私の夢は〜です」ではないが、今年は、「私の年度代表馬は〜です」という馬が何頭もいた年だったように思う。

 さて、有馬記念翌日の12月28日、月曜日、大阪の「心斎橋 Soap Opera Classics」で、私が作詞した「キズナ きらめく風になれ」を歌う関根奈緒さんのライブ「慕情一夜 vo.9 〜心斎橋ロマン〜」が行われる。詳細は関根さんの公式サイト(http://sekinenao.net/index.html)をご覧いただきたい。

 まだ「キズナ」を聴いたことがないという方は、このページ下部からどうぞ。CDが絶賛発売中なのにこんなことを言うのはどうかと思うが、ライブのほうがCDよりいいぐらいだ。力のある人が歌い込むとこうなるのか。

 システム手帳の2016年用への差し替えが終わった。カレンダーもそろそろか。一番気に入っている、内藤律子さんの「サラブレッドカレンダー」と、同じく毎年素敵なノースヒルズのカレンダーをどこに飾ろうか。迷うのも楽しい。

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作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊ギャロップ、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。趣味は読書と読売巨人軍の応援。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。最新刊はテレビドラマ原作小説『絆〜走れ奇跡の子馬』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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