スマートフォン版へ

「この馬の価値を落とさないように」ショウナンパンドラ・高野調教師にインタビュー

  • 2016年01月26日(火) 18時00分
競馬の職人

高野調教師と記念撮影



高野調教師「パンドラの力を証明できた時は自分を失ってしまいましたね」

 陽気な天候から一変して冬型低気圧到来で滋賀県も雪景色になってきました。雪が降ると調教が難しくなるので関係者を悩ませる季節。そんな中でも確実にレースに使えるように仕上げるスタッフの力量はすごいといつも感服します。

 先日の日経新春杯では素晴らしいドラマが生まれましたね。名伯楽松田博資調教師と川田騎手とのコンビで制覇したレーヴミストラル、優勝おめでとうございます。日経新春杯レース史上最速となる上り33秒1の豪脚を繰り出し直線一気に差し切って2馬身差の快勝。

 松田先生は「ジックリいけや」との指示。どんな馬に乗る時でもレース前の指示はほぼ変わらないそうです。愛馬の力を信じて直線勝負「それで負けたら仕方ないさ」が口癖だそうです。名セリフがきけなくなるのはさみしくなります。

 今回は高野調教師にショウナンパンドラの魅力をお聞きしてきました。その中で高野先生からも名セリフがありました。

常石: ジャパンカップ制覇おめでとうございます。強い勝ち方でしたね。(取材日は昨年末、有馬記念前に行いました)

高野: ありがとうございます。牝馬での制覇は貴重だからうれしいですね。オールカマーではそれまでの敗戦が嘘のような瞬発力を見せてくれて完勝。天皇賞・秋では牡馬に胸を借りるつもりで出走させましたが、後方から上がり最速でくいこんだものの4着に敗れてしまいました。

常石: 牝馬なのでエリザベス女王杯に出走、とは考えなかったんですか。

高野: 末脚にパワーがあるのであえて牡馬相手にどれだけやれるか試してみたかったんです。

常石: それが成功したんですね。

高野: 勝ったから言えるんですが。天皇賞・秋を使ってから間隔はさほどなかったのですが、腰からトモにかけてさらに迫力が出たなって感じていました。牡馬の1線級を相手にしても十分勝負できる力が備わってきたなと感じました。

競馬の職人

ジャパンカップを制したショウナンパンドラ(撮影:下野 雄規)



常石: この決断は勇気がいりますね。でもオールカマーのレースぶりは見事でしたね。道中ムキになることもなくリラックスして走っていましたね。ゴーサインに反応しすごい末脚を使っていました。池添騎手も絶賛していましたね。

高野: 中山は苦手かと思っていたけど、元々これくらいは走る馬だと思っていました。池添騎手もうまく乗ってくれているから安心して任せてます。夏くらいから天皇賞・秋かなと予定していたので中4週はほしいのでオールカマーになったのが成功しましたね。

常石: パンドラっていい名前ですね。

高野: 僕も名前気に入ってます。パンドラの箱を開けてびっくりです。

常石: 厩舎に入ってきたときの印象はどんな感じだったんですか?

高野: はい。この馬は背中が柔らかくチーターみたいな走りをします。スピードが出ると柔軟な感じでよくわかるんですよ。

常石: 体をぐねーっとくねらせる感じですね。

高野: 牧場ではあまり評判は良くなかったんですよ。体は420キロから450キロくらいのほうが自由がきき使いやすいし調整しやすいですね。大型馬は無理すると足元が不安になることが多いからね。

常石: 本当にきれいな整った馬体をしていますね。写真を撮ってもいいですか?

高野:: 調教終わって服を脱いだ状態(リラックスムードに入っている)なので写真はお断りしています。浅田真央さんがパジャマ着ている姿かな(爆笑)。調教の時はいっぱい撮ってください。

常石: はいわかりました。真央ちゃんのパジャマ姿か? それはだめですよね(笑)。ジャパンカップの1週前追い切りの時、池添騎手が乗って追い切りされましたよね。

競馬の職人

トレセンで調整をするショウナンパンドラ



高野: 池添騎手に感触を味わってもらいたかったからです。馬の様子がとっても良くなっていたので確かめてもらいたかったんです。僕の思っていたとおり池添騎手は「天皇賞の時もいいなーと思っていたけどそれ以上に動きが柔らかく良くなっている」と言ってくれたんです。距離延長もいいなと思っていました。東京2400mはダービー・オークスと同じコースだし、切れ味が求められる上にタフさもいる難しいコースでやっと走らせることができると思うとうれしかったです。オークスを狙っていましたからね。

常石: 先生の狙いが的中されたんですね。GI・2勝され次は有馬記念ですか?

高野: パンドラの力を証明できた時は自分を失ってしまいましたね。いま改めてすごいレースを勝ったなって思います。厩舎力と池添騎手のおかげです。うまく乗ってくれましたよね。これからはこの馬の価値を落とさないようにしていかなくてはいけないので調整が難しくなってきました。無理させたくないので有馬記念は馬の調子を見てから決めます。牝馬の調整は難しいです。繁殖に行ったとき元気な子どもを産まなくてはいけないからね。牡馬のほうが調整しやすいですね。だからきっちり結果を出していきたいです。そのためにもスタッフみんなで力を合わせて仕上げていきたいと思います。応援してください。

常石: 東京2400mは力もスピードもタフさも必要な厳しいコース。そこで行われるジャパンカップを制覇したパンドラは素晴らしいです。ありがとうございました。強いパンドラの写真撮りに来ます。その時はまたよろしくお願いします。

競馬の職人

一列になって調教へ向かう高野厩舎の所属馬



 ※インタビューの後に有馬記念を回避し放牧へ。年が明けて2015年度最優秀4歳以上牝馬にショウナンパンドラが選ばれました。2016年1月13日(水)に再度取材させていただきました。

常石: 最優秀4歳以上牝馬、おめでとうございます。

高野: 最優秀っていい感じですよね。ありがとうございます。放牧に出て順調に来ています。

常石: いつ頃帰厩予定ですか?

高野: まだわかりませんが始動は大阪杯と思っています。

常石: 楽しみですね。どんなパンドラの箱を開けてくれるんでしょうか?

高野: 期待してください。応援よろしくお願いします。

常石: ありがとうございました。

***

 その後、京成杯に出走したナムラシングンの取材をさせていただきました。次々に重賞レースに出走する馬を育てる高野厩舎は厩舎カラーのオレンジが示すようにエネルギッシュな雰囲気にあふれていました。つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング