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「ダービーも勝たしてもらい競馬人生最高でした」橋口弘次郎調教師にインタビュー

  • 2016年02月23日(火) 18時00分
競馬の職人

橋口弘次郎調教師と



橋口弘次郎調教師「今思い出しても身の引き締まる思いですね。至高の時間でした」

 先週は今年初のGIレース、フェブラリーS(ダート1600m)が行われました。前日の大雨により重馬場でのレースとなりましたがコースレコードの1分34秒0で快勝した“最速の世代交代”モーニンは強い競馬をしましたね。2着馬のノンコノユメと史上初JRAGI・3連覇を狙ったコパノリッキーと共にこれからのダート界を面白くしてくれるでしょう。今後の活躍が楽しみです。

 今年も松田博資調教師、武田博調教師、橋口弘次郎調教師と3人の名調教師が引退を予定されています。あと2日間のレースのみになってしまいました。お聞きしたいことが山ほどあるから何から聞こうかと、取材をお願いした僕のほうが焦っています。

 今回は1回のコラムで語りつくせないほどご活躍された名伯楽橋口調教師にたっぷり胸の内をお聞きしてきました。約束より30分以上も遅れ山手助手より「今どこ? 先生待ってるで」との連絡が…恐縮です。厩舎につくと息子さんの慎介調教師に「先生。向こうの部屋やで」と。またまた恐縮…。

常石 今日はよろしくお願いします。時間に遅れて申し訳ありません。大変失礼しました(快く迎えていただきちょっとホッと胸をなでおろしましたが何からお聞きしようかと緊張しました)。

橋口 外は寒いからこたつを入れて待ってたよ(笑)。

常石 とってもあったかいです。ありがとうございます。先生眠くなってしまいますよ(爆笑)

橋口 まーゆっくりしていって・・・(先生のあったかいお人柄にいつも甘えています。感謝)

常石 この間のきさらぎ賞の感想を教えてください。(※取材は2月11日)

橋口 2頭合わせて5億円対決と話題になったね。2頭とも力はあると思うし、やっぱりいい馬だよね。勝ったサトノダイヤモンドは、完成度が高くすごい力があるレースぶりだったと思いました。ダービーまでにこの馬に対抗できる馬が出てくるのかが楽しみだよね。やっぱりダービーは思いが違うからね。今年のクラシックをにぎわせてくれると思いますよ。これからは馬券買って競馬をゆっくり楽しめますからね(笑)。

常石 いやいや先生まだ早いですよ。まだ大仕事が残っています(京都記念にワンアンドオンリーが出走)。ダービー馬で先生が最後にかける勝負ですよね。最終追切はどうでしたか?

橋口 坂路での併せ馬ラスト300mからエンジンの違いを見せつけて、もったまま4ハロン53.1-13.1をマークし力強く走ってくれました。ちょっと不振だったのでこれを機に脱出したいですね。

常石 先生の思いも十分ありますがワンアンドオンリーの走りをファンの方たちも楽しみにしていますよ。もちろん僕も楽しみです。ウイナーズサークルで待ってますよ。きさらぎ賞の話に戻しますが、きさらぎ賞と言えば先生のところにも面白い話がありましたね。

橋口 そうだね。ダンスインザダークとロイヤルタッチが競ったレースね。あの時のダンスはまだまだ完成されていなくて無理して使ってしまったね。

常石 あの時はオリビエ・ペリエ騎手と豊さんとの戦いも見ごたえありましたね。同じ日に新馬戦を勝って2頭ともラジオたんぱ杯3歳Sに出走しロイヤルタッチが優勝し、ダンスは3着でしたね。同じ時期にデビューするとずっと因縁の対決というフレーズがついてきますよね。

橋口 ライバル関係は面白いんだよね。4戦目の弥生賞は勝ったがダービーは絶対勝てると思って挑戦したけれどフサイチコンコルドに負けまさかの2着。悔しかったね。菊花賞でやっとGIを勝ってくれました。

常石 ダンスインザダークは、種牡馬になってからも活躍しましたね。仔でGI馬4頭も出して血統を繋いでくれたと思います。そのうち2頭が先生の管理馬でしたね。

橋口 そうそうツルマルボーイとザッツザプレンティもよく走ってくれたね。

常石 橋口厩舎は、血統でつながっている馬が多いように思います。バラ一族の馬たちもよく走ってくれましたね。ぼくはローズキングダムが大好きでした。

橋口 馬主さんには大事にしていただき、預かった馬であれだけ勝てたのは言うことないですし、思い残すこともないですよ。

常石 ダービーではすごい記録が残っていますね。

橋口 ダービーに19頭挑戦し2着が4回あり、20頭目のワンアンドオンリーでやっと勝つことができました。うれしかったですね。ハーツクライはダービーで2着。有馬記念で唯一ディープインパクトに黒星をつけたのはハーツクライだったね。そのハーツの仔でダービー勝てたのもすごいことだよ。

常石 あの時の有馬記念は伝説ですね。まだまだ面白いことというか偶然があったんですよね。

橋口 ワンアンドオンリーの誕生日と馬主の前田幸治オーナーと横山典弘君の誕生日が一緒だったんだよね。それに僕を初めてダービーに連れて行ってくれたのがワンアンドオンリーを担当している甲斐君のお父さんだったんですよ。1990年甲斐君のお父さんが担当していたツルマルミマタオーで初挑戦して4着。それから24年間ですよ。通算18年目、20頭目の初勝利はうれしかったですよ。ダービーだけは何としても勝ちたいレースと思っていました。

競馬の職人

カメラ目線のワンアンドオンリー



常石 いろんなドラマがあるんですね。昨年のダノンメジャーを加えるとダービーへは21頭出走させているんでしょう。ということは19年間出走させたことになるんですね。ダービー勝ったら調教師をいつやめてもいい! というお話を聞いたことありましたね。

橋口 あっはっはー、そんなこと言ってましたね。ダービーは想像を絶するレースですよ、次元が違います。簡単には勝てないですよ。あの時も典君がかなり苦労していましたからね。あとは根競べだったと思う。それだけによく走ってくれたし皐月賞馬イスラボニータとの真っ向勝負の叩き合いを力でねじ伏せた典君の剛腕でしょう。よく踏ん張ってくれました。今思い出しても身の引き締まる思いですね。至高の時間でした。

常石 オンリーの名前もいいですよね。

橋口 日本語で「唯一無二」というね。まさにそうだね。

常石 ダービーを話せばストーリーがどんどん広がりますがダービーへは1999年から2006年まで8年連続で出走させてきましたが、出走させる馬の仕上げ方や根拠はどこにあるんですか?

橋口 特に何もやってないよ。だからよかったんじゃないかな(笑)。

常石 いよいよ引退ということですが今どんな気持ちですか?

橋口 ダービーも勝たしてもらい競馬人生最高でしたね。でもやっと終わりか・・・、長かったようなあっという間のような感じかな? でもここまでいろんな事やったよ。こんなにいろいろやったのも珍しいんじゃないかな? 大学に行ってから騎手になったでしょう、それから厩務員になって調教師になったんだからね。騎手時代は体重が重くて減量が大変だったんです。3日くらい食べなかった日もあったな。1年で諦めたけど競馬への情熱はいっぱいありました。調教師のほうが面白いと思いましたね。1971年に吉永猛厩舎で厩務員兼調教助手に、そして1982年に調教師デビューです。

常石 僕が1977年生まれだから5歳ですよ。そう思えば長い調教師人生ですね。

橋口 初GI勝利が天皇賞・秋を11番人気で大穴を開けたレッツゴーターキン。主戦の大崎騎手からのアドバイスで天皇賞に登録はしたものの半信半疑でした。直線人気馬が伸び悩むのを尻目に豪快に差し切って先頭ゴール。開業11年目でした。ここまで来るのに長かったです。開業当初は4月まで未勝利だったことが2回もありましたね。いつの間にかここまで来ましたね。

常石 JRA991勝は現役調教師で2位の成績でしょう。この数字は偉大ですね。1000勝の夢を追いかけていたと思うのですが。

橋口 1つ勝たせていただくことの重みと難しさを痛感します。1000勝なんて私にはありあまる数字ですよ。ちょっと負け惜しみかな(爆笑)。GIも重賞もたくさん勝たせていただきました。

常石 夢を持ち続けて追いかけてきたのがこの数字に表れているんでしょうね。ここまで来た調教の秘訣はどこにあるんですか?

橋口 開業時に厩舎スタッフと『僕は何もない無名の男だから必死で頑張って馬主の方々に信頼をしてもらえるようにしよう、と5年間頑張ろう。そこからが勝負につながる』と意気込みを話して頑張ってきました。率先して働きましたよ。調教にも乗っていましたからね。

競馬の職人

ワンアンドオンリーのゼッケンを持って記念撮影



常石 えー、先生調教に乗っていたんですか?

橋口 これでも少しは騎手していたからね(笑)。

常石 大変失礼しました(爆笑)

***

 橋口調教師との話はもっともっと盛り上がり、迷惑も顧みずに1時間も話し込んでしまいました。この続きは、次回更新の再来週にお届けしたいと思います。楽しみに待っていてください。話せば話すほど先生のお人柄の良さから想像もできないご苦労やジャイアンツファン以外のつねちゃんだから聞けた珍経歴を発見しました。是非楽しみにしていてくださいね。

つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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