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拍手の沸き起こる素晴らしいレース/中山記念

  • 2016年02月29日(月) 18時00分


まだまだ身体は成長の過程

 ゴール直後のスタンドに拍手が沸き起こった。向こう正面まで流したドゥラメンテ(父キングカメハメハ。母アドマイヤグルーヴ)が馬場の入り口まで戻ってくると、また、スタンドのファンから大きな拍手が巻き起こった。

 有馬記念や日本ダービーではないので、熱狂の歓声が飛び交ったわけではないが、こんなふうにファンが拍手で称えるレースはめったにない。勝ったドゥラメンテも、猛然と追い込んできたアンビシャス(父ディープインパクト)も、最後にちょっと伸びを欠いたが差のない3着に押し上げたリアルスティール(父ディープインパクト)も、無事に、期待通りに始動した。

 高速の芝を猛然と飛ばした伏兵がいたわけではないから、「前半48秒1-(11秒3)-後半46秒5」=1分45秒9は、史上3位の時計にとどまったものの、向こう正面からピッチの上がる全体時計以上に厳しい攻防で、後半1000mは「57秒8-上がり34秒9-11秒8」だった。

 勝ったドゥラメンテは、このあと「GIドバイシーマクラシック2410m」に出走の可能性が高く、2着アンビシャスも招待されると、アドマイヤムーン、ジャスタウェイが勝った「GIドバイターフ1800m(当時はドバイデューティーフリー)」に挑戦。3着リアルスティールも同じ「GIドバイターフ」に出走の意思がある。

 拍手の沸き起こる素晴らしいレースは、休み明けの4歳馬3頭の始動戦とすると、それほど過度の負担がかかるほど激しいレースではなかったのは、歓迎すべきことである。

 2011年のヴィクトワールピサ(有馬記念→中山記念→ドバイWC)あたりから急速にレースのもつ意味が変わり、これに2014年のジャスタウェイ(天皇賞・秋→中山記念→ドバイデューティーF)がつづき、今年のドゥラメンテ以下がさらにつづくとなると、GII中山記念1800mはもう、「中山の1800mなら…」というタイプが主役のレースではなく、この距離でこそのリピーターが好走できるレースではなくなるかもしれない。

 来年またドゥラメンテ以下の上位馬がここに出走の可能性は小さい。これに中山記念向きゆえに人気上位だった3番人気イスラボニータ、5番人気ロゴタイプが凡走に終わった事実を重ねると、毎日王冠1800m、チャレンジC1800mなどと並び、こういう距離を守備範囲とする馬がほとんどになった現在、中山記念1800mは春先の軽快なスピードレースは飛び越えた。

 ドゥラメンテは、もちろんまだ完調に近い仕上げだったわけではなく、弾けるようなフットワークではなかった気がするが、それはムダな動きがなくなったからの印象だったかもしれない。18キロ増でもスラッとした体つきに映ったあたり、実はまだまだ身体は成長の過程なのだろう。

 輸入牝馬パロクサイド(1959。父ネヴァーセイダイ)を基礎牝馬に、そこに配されてきた種牡馬は「ガーサント、ノーザンテースト、トニービン、サンデーサイレンス、そして、キングカメハメハ」。「牝馬ダイナカール→エアグルーヴ…」の代表するパロクサイドの牝系ファミリーは、巨大な社台グループのなかでも名牝系の代表格となった。サイアーラインと異なり、牝系はどこまでも発展し枝を広げ続けることになっている。約半世紀の間にここまで発展した牝系は、さらに強固な枝をのばして多くのチャンピオンホースを輩出することになる。

 2着に突っ込んだアンビシャスは、レース前に時おり激しい気性を前面に出すなど同じ4歳馬の中ではまだまだ未完の印象が強いが、今回の末脚は昨秋の天皇賞・秋でラブリーデイの0秒2差5着に押し上げた当時を大幅に上回る迫力があった。3代母カーニヴァルスピリット(父クリス。その直系祖父エタンは輸入種牡馬)は、1990年の凱旋門賞馬ソーマレズ(父レインボウクェスト)の1歳上の半姉にあたる。そこにこの牝系が合うことが分かった1985年の凱旋門賞馬レインボウクェストを改めて配したのが祖母カルニオラであり、次に配されたのは1999年の凱旋門賞2着のエルコンドルパサー。そして、2006年の凱旋門賞で見せ場を作ったディープインパクトという配合である。別に凱旋門賞を意識したわけではないが、日本の凱旋門賞ファンには、「やがて…」の魅力にあふれる期待馬であり、クラシックには出走できなかったが、かえって大きな成長をもたらした可能性もある。おそらくスタミナに不安はない。このあとが楽しみになった。そういう成長を示したアンビシャスを称える拍手でもあった。

 2番人気リアルスティールは、4コーナーで後続の追い上げを外から受けるちょっと苦しい位置取りになってしまったが、ドゥラメンテの上がり34秒1に対し、こちらの上がりも34秒1。見劣ってはいない。勝負どころで(右にもたれた…福永騎手)スパートのタイミングがずれたため、爆発力の差が出てしまったが、完敗という着差ではなく、決して悲観する内容ではない。

 3冠「2着、4着、2着」。さまざまな距離区分で好走しているから、このあとも路線を限定することなく挑戦をつづけるはずだが、2000m前後がベストだろうか。一見、完成度の高い優等生タイプにみせて、キングマンボを送った一族出身を考えると、実は大きく変わるのはこれから…の可能性もある。

 ロゴタイプ(父ローエングリン)は、残り200mまで争覇圏に近い位置にいながら、最後は差のある7着。ちょっと残念な結果だった。今回はずいぶん体が太ったように映ったあたり、マイラー型に変わりつつあるのか、それとも余裕残しの馬体だったのか、ちょっと判断がむずかしい。

 負け過ぎだったのはもう1頭の皐月賞馬イスラボニータ(父フジキセキ)も同様で、自在の脚を使える器用なタイプにしては、スタート直後から後手、後手に回ってしまったのが誤算。ペースが上がった勝負どころでも外を回されてしまった。

 大駆けに期待したラストインパクト(父ディープインパクト)は、F.ベリー騎手が積極果敢に先行してくれたが、このペースで最後に失速しては仕方がない。もうちょっとメンバーの落ちる2000m級で巻き返したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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