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【騎手 それぞれの道】柴田未崎騎手(1)『騎手復帰して2年“今すごく充実しています”』

  • 2016年03月07日(月) 12時00分
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毎年3月は新人騎手のデビューの時。特に今年は女性騎手の誕生で、例年以上に大きな注目を集めています。しかし、新たな仲間を迎えるということは、ライバルが増えるという意味でもあります。横一戦でデビューしてからは、誰ひとりとして同じ道を歩むことのない世界。生き残っていくためにどんな道を選び、どんな決断をするかは自分次第。今月は、騎手として大きな決断をした2人を直撃。最初のゲストは柴田未崎騎手です。一度は騎手を引退して調教助手に転身するも、3年を経て騎手復帰。さらに所属を栗東に変えて、奮闘中です。大きな決断をした時の心境とは。今まで明かされなかった胸の内を語ります。(取材:東奈緒美)


環境を変えてリセットしたのが良かった


 「騎手復帰」「栗東移籍」と、2度の大きな決断をされた未崎騎手ですが、一昨年の3月に騎手復帰されて、もうすぐ2年が経ちますね。

未崎 復帰してからは、とにかく「一生懸命」の一言でした。騎手として3年のブランクがありますから、レースで冷静に乗れなかったり、体力的にも取り戻すのが大変で。

 その間は調教助手として馬に跨っていましたが、騎手となるとまた違いますか?

未崎 全然違いますね。特に、辞める前は障害レースをメインに乗っていて、久しぶりの平地レースだから余計にというのもあります。遅いかもしれませんが、最近になってようやく慣れて来ました。レース感覚とか、トレーニングの効果で体も動くようになってきて、馬乗り自体を楽しめています。今すごく充実していますね。

 栗東に来られてから、結構経ちますよね。騎手に復帰した時は美浦の所属で、しばらくしてから栗東へ。

未崎 最初に来たのが一昨年の秋なので、もう1年以上になりますね。最初のきっかけは、マイネルさんから声をかけていただいたことでした。マイネルさんにはずっとお世話になっていて、(双子の兄の)大知と一緒に牧場に乗りに行ったりもしていたんです。美浦だとなかなかチャンスもなかったんですが、栗東に行けばもう少しチャンスが広がるのではないかって。

 拠点を変えるのはそれなりの覚悟がいると思うのですが、悩みましたか?

未崎 家族も美浦にいますし、そういうことも踏まえてどうしようかなとは考えました。ただその当時、現実として、なかなか思い通りにいかないジレンマもあったんです。それで、このまま美浦にいるよりは、一度環境を変えてみるのもいいのかなって。

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▲「このまま美浦にいるよりは、一度環境を変えてみるのもいいのかなって」


 知らないところに行くのは、怖さもありそうですが。

未崎 怖さより、やらないで悩むよりは行動した方がいいっていう気持ちでした。やってだめだったら、それは仕方ないですしね。最初は長期でというより、何か月間かやってみようという感じだったんです。こっちで過ごすようになって、半年くらい経った頃ですかね、栗東に移籍しようと決めました。

 それで、昨年の9月に正式に栗東の所属に。

未崎 最初は単身でしたが、後から家族にも来てもらったので、家族の理解は欠かせなかったです。もちろん、移籍したからといって、すぐに結果が出るわけではありません。今の競馬界はシビアですから、そこは僕が努力しないといけないところ。マイネルさんも気にかけてくださって、サポートしてくださったり、厩舎とのつながりを作ってくださったりしています。

 お世話になっている厩舎といいますと?

未崎 たくさんあるのですが、特に田所厩舎、梅田厩舎、鮫島厩舎ですね。調教もこの厩舎を中心にやってます。栗東に来て最初に基盤となったのが田所厩舎だったんです。そこの助手さんがもともと関東にいた方で、僕が新人時代に最初に出入りをした厩舎にいらしたんです。

 そういうつながりが。

未崎 すごくご縁を感じるんですよね。「うちで調教を手伝わない?」って言ってくださって、それがすごくありがたかったですし、受け入れてくださった田所先生にも頭が上がりません。本当によくしていただいています。こっちに来て、たくさんの温かい人たちに囲まれて…感謝しかないですね。

 田所先生も騎手時代に、美浦から栗東に移籍されたので、そういう面でも気にかけてくださったんでしょうか。

未崎 そう思ってくださったのかもしれないですね。先生はすごく面倒見がいいんですが、騎手だっただけあって、負けず嫌いな面もあるんです。レースの時も「なんであそこで引くんだ!」って、ビシッと言われますよ。これが、結構怖いんです(笑)。でも今は、そういう言葉も素直に聞くことができるようになりました。

 それは、そうではない時もあったということですか?

未崎 そうですね。美浦にいる頃、人間関係でも悩んでいたんです。関東と関西の雰囲気の違いってあると思うんですけど、関東の人はかしこまっちゃうところがあるんですよね。だから言葉には気を付けて話すようにはしていて。

 そのうち、「こういう言い方をするとまずいかな」「こう言ってるけど本当はこう思ってるんじゃないか」って、普通の会話でも変に深読みするようになってしまった。自分で周りと壁を作って、いつの間にか素で接することができなくなっていましたね。

 人間関係の影響は、少なくない世界ですもんね。

未崎 何もかも、考えすぎてしまっていたんですよね。僕の良くないところなんですけど。そういうこともあったので、栗東に来ることで環境を変えて、一度リセットできたのが良かったです。どっちがいいということではなく、僕の場合は栗東の環境が馴染みやすかったなと。

 栗東には福永騎手や和田騎手、細江さんや常石さんなど、同期の「花の12期生」もたくさんいらっしゃいますね。

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▲「栗東には花の12期生の仲間がたくさんいらっしゃいますね」


未崎 みんなそれぞれ忙しいので、一緒にご飯を食べに行く機会はあまりないんですが、会えば話をします。特に、和田や古川とはよく話しますね。常石もパラリンピックを目指して頑張ってますし、そういう姿を見ると僕も頑張らなきゃという気持ちになります。

 もしも栗東からデビューしていたら、騎手を一度は辞めるっていう決断もなかったのかなって思うことはありますか?

未崎 あぁ。もしかしたら、そうだったかもしれないですね。こればっかりは何とも言えないですけど、「栗東で始めてたらどうだったのかな?」って考える時はあります。とはいえ、今はやりたいことをやらせてもらっていますし、気持ちの面でもすごくいい状態なんです。

 ブログで、「今年はメンタル面を少し考えてみようかな」って書かれていましたね。

未崎 そうそう。騎手にとってメンタルは大事なので。メンタルトレーナーをお願いすることも考えたんですけど、調べたら料金が高くて…。なので、本を読んだり瞑想を取り入れてます。朝と晩に5〜10分ぐらいですけど、落ち着くんです。美浦にいる時はヨガもやってました。

 私もヨガを始めたんですけど、すごくいいですよね! 体も心も整います。

未崎 ヨガはいいですよね。体の柔軟性が出るので、ヨガをやった次の日に馬に乗ると、体がよく動くんです。それに、競馬の日は集中するので、気持ちが高ぶったまま1日が流れてしまう時もあったんですけど、程よくリラックスできるようにもなりました。僕にはすごく合っていましたね。

(つづく)


【掲載スケジュール】
■柴田未崎騎手(3月7日14日の全2回)
1977年6月18日生まれ。「花の12期生」として1996年にデビュー。2011年3月31日に一度は騎手を引退し、美浦・斎藤誠厩舎で助手となる。13年に騎手試験に再び合格。14年3月に騎手復帰。その後、所属を栗東に変更。

■花田大昂元騎手(3月21日28日の全2回)
1990年1月1日生まれ。競馬学校27期生として2011年にデビュー。同期は藤懸貴志、森一馬ら。16年1月31日をもって騎手引退。JRA通算676戦11勝。現在は栗東・吉田直弘厩舎の調教助手。


【的場文男騎手への質問大募集】
4月のゲストは大井の帝王・的場文男騎手を予定しています。今年の9月に還暦を迎えるという、競馬のレジェンド的存在! そこで、的場騎手に聞いてみたいことを大募集。下記のフォームから、どしどしお寄せください!

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東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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