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【騎手 それぞれの道】花田大昂元騎手(2)『ジョッキーの経験を活かしてGI馬を作りたい』

  • 2016年03月28日(月) 12時00分
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▲忘れられない騎手最後の日、振り返ってみての騎手人生…本音を明かします


毎年3月は新人騎手のデビューの時。特に今年は女性騎手の誕生で、例年以上に大きな注目を集めています。しかし、新たな仲間を迎えるということは、ライバルが増えるということ。生き残っていくためにどんな道を選び、どんな決断をするかは自分次第。今月は、騎手として大きな決断をした2人を直撃します。今回は花田大昂元騎手の後半。騎手としてのラスト週をどんな思いで迎えたのか。憧れてなった騎手から離れてみて、いま一番思うこととは。(取材:東奈緒美)


(前回のつづき)

競馬場に向かうタクシーの中で涙


 昨年末に引退が決まって、報道があったのが年明けの1月22日でした。そして、30日と31日が最後の週ということに。

花田 辞めるって決まってからの最後の1か月は、競馬に行くのが本当に楽しかったですね。特に最後の週は、一番幸せな2日間でした。あの時、競馬場に向かうタクシーの中で、「今日が最後なんだな」ってひとりで考えてたら、「…あら」って涙が出てきて。

 実感が湧いたんですね。

花田 そうだと思います。「うわっ、ここで泣くんだったら、競馬中もずっと泣いてるんじゃないかな」って思ったんですけど、競馬場に着いたら全く泣かなかったっていう(笑)。土曜日が中京で日曜日が京都で、それぞれ1鞍ずつだったんですけど、土曜日は吉田直弘先生のところでいい馬に乗せていただいて。結果は出せなかったですが、そのレースも次の日の最後のレースも、競馬に乗れる喜びを感じられました。

※2016年1月30日、中京2R、ウインウェルス、4番人気5着
※2016年1月31日、京都3R、マンテンロード、13番人気14着

 最後は笑顔で迎えられたんですね。

花田 最後まで楽しんで乗ってきました。僕の最後のレースで武豊さんがJRA通算3800勝を達成されたんですが、豊さんから「花ちゃん、最後やからプラカードを持ってくれる?」とお願いされたんです。喜んでお受けしたんですが、本当にいい思い出になりました。

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▲武豊騎手の計らいで、記念のプラカードを持つことに


 そのシーン話題になってましたね。豊さんが声をかけてくださったんですね。

花田 自分では分からなかったですけど、「花ちゃん、いい引退式だったね」とか、「花ちゃんの人柄が出てて良かったよ」ってみんなが言ってくれたから、そういうのも本当にうれしくて。

 わたし、花田さんにお会いするのが初めてだったので、今回の取材前に周りの方に「花田さんってどんな方?」って聞いてみたら、誰に聞いても「優しくて真面目な方」って。

奥様 そんな風に言ってもらえたら、喜んじゃうね(笑)。

花田 しめしめ(笑)。

 あはは(笑)。引退後、環境が変わって戸惑いはなかったですか?

花田 戸惑いはやっぱりありましたし、妻との会話の内容も変わりましたね。出馬投票のある毎週木曜には「今週は競馬ある?」「今週はないわ」とか、そういう会話があったんですけど、ジョッキーじゃなくなったら、それもなくなりました。

奥様 4週間くらい競馬がない時もあったけど、その一方で「今週は3鞍あるよ」という時もあって。この会話が、仕事があるっていう喜びを感じられる時だったよね。

 騎手への未練というのは、ありますか?

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▲「騎手から離れてみて、騎手への未練はありますか?」


花田 未練ですか。難しいところですけど、いまはもうないです。だって、最後勝てなかったですからね。去年の11月に、柴田光陽先生のところで1番人気の馬がいたんです。僕が乗って1番人気だから、豊さんだったら1.1倍くらいだったと思います。こんなチャンスはもうないだろうなっていう機会で、それで勝てなかったので。その時に「もうダメかな」って思いました。

※2015年11月15日、京都1R、アリノマンボ、1番人気5着

 自分の中で、踏ん切りがついたというか。

花田 そこで吹っ切れたのはありますね。競馬に乗りたくて、美浦に行ったりセリに顔を出したり、小倉に滞在したりしてきました。まだまだ出来ることはあったのかもしれないですけど、自分としては限界。やることはやったって、満足しちゃったところはあります。いろいろアクションは起こしたけども、結局結果としては残せませんでした。それは僕の実力、責任ですからね。でも、美浦に行ったことは勉強になりましたし、自分の中での大きな財産です。

 「この時こうしておけば」とか「もっとこうだったらよかったかな」とか、振り返って思うことはありますか?

花田 なんだろうな…浮かぶことはいくつかあるんですけど。一番は性格かな。乗ってるうちは、無理にでも勝気にじゃないですけど、「勝ちたいんです」って頑張って口にはしてました。もちろん、勝ちたいんですよ。本当に勝ちたいんですけど、乗れなくなってくると気持ちがだんだんと丸くなってしまって。後輩がたくさん出てくると、余計にそういうのは感じましたね。

奥様 よく「ジョッキーらしくない性格」とか「優しすぎる性格」って言われてたもんね。

 ライバルを蹴落としていくような世界ですもんね。

花田 蹴落とせないんです…。そういうところでも、助手の仕事は自分でも向いているなって思います。みんなで輪になって協力し合いながら、ひとつの目標に向かっていく。特に吉田厩舎は、個人個人ではなく、みんなで勝利に向かってという厩舎ですので、合っているのかもしれないですね。

人生プランは「40歳までジョッキー」


 これから、どんなホースマンでありたいですか?

花田 ジョッキーが乗って「乗りやすい」って言われるような馬を作りたいですね。ジョッキー目線じゃないですけど、ジョッキーの経験を生かしてやっていけたらいいなと思います。

 花田さんならではですね。最後に、改めて「騎手になってよかったな」って思いますか?

花田 それは思います。ジョッキーの経験って、なかなかできるものじゃないですからね。今思えば、なれたこと自体が本当にすごいなって思うくらいなので。ゲームの中で見てきた豊さんとか、そういう憧れた人たちと一緒に競馬ができたのが一番嬉しいです。

 また、勝った時の騎手だけがわかる喜びもあるんでしょうね。

花田 勝った時は本当にうれしいですね。一昨年の年明け、畠山吉宏厩舎(当時)のフォースフルで勝たせていただいたんですけど、それが結果的に最後の勝ち鞍になったんですが、思わずガッツポーズしちゃいましたもんね。500万下でしたけど、やっぱりうれしいんですよね。できることならもう1回勝ちたかったですし、ずっと騎手を続けたかったですもん。僕の人生プラン、40歳までジョッキーだったんですけどね(笑)。

※2014年1月5日、中山8R、フォースフル、3番人気1着

 誰みたいなジョッキーになりたかったんですか?

花田 僕の憧れは渡辺薫彦さんです。生き方がカッコイイなって。人柄が良くて、競馬にも乗って、かつ勝っているというのが、すごく羨ましかったです。若くして重賞を勝たれたから、乗れるイメージもあるし、師匠の沖芳夫先生のところに最後まで所属もされて。そういうジョッキーっていいなって思ってました。

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▲ナリタトップロードで菊花賞を優勝した渡辺薫彦元騎手(現調教師)。デビュー6年目でのGI制覇(撮影:高橋正和)


 渡辺薫彦さんはいまは調教師になられて、早速勝利も挙げられましたけども、花田さんもいつかは調教師に?

花田 いやいや、まだまだそんなことは。僕はそんなに賢くないですしね(笑)。なにより、助手としてまだまだですから。まずは今できることを精一杯頑張りたいです。吉田厩舎の皆さんにも良くしていただいて、すごくやり甲斐を感じる日々です。

 みんなに愛されそうな性格ですよね。

花田 そういっていただけるとうれしいです。これからはジョッキーの経験を活かしてGIで勝てるような馬を作れるように頑張っていきたいです。(了)

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▲騎手経験を活かしてGI馬を作りたい ―新たな夢に向かって



【掲載スケジュール】
■柴田未崎騎手(3月7日14日の全2回)
1977年6月18日生まれ。「花の12期生」として1996年にデビュー。2011年3月31日に一度は騎手を引退し、美浦・斎藤誠厩舎で助手となる。13年に騎手試験に再び合格。14年3月に騎手復帰。その後、所属を栗東に変更。

■花田大昂元騎手(3月21日28日の全2回)
1990年1月1日生まれ。競馬学校27期生として2011年にデビュー。同期は藤懸貴志、森一馬ら。16年1月31日をもって騎手引退。JRA通算676戦11勝。現在は栗東・吉田直弘厩舎の調教助手。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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