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過去最多の日本馬が挑んだドバイワールドCナイト・後半3レース回顧

  • 2016年03月30日(水) 12時00分


リアルスティールの単勝オッズ9倍は、私たちから見ると非常においしい馬券だった

 26日にドバイのメイダン競馬場で行われたドバイワールドCナイトから、先週のこのコラムで展望をお届けした主要3競走を回顧したい。まずは、当日の第7競走として行われたG1ドバイターフ(芝1800m)。

 展望でもお伝えしたように、出走すれば大本命が予想された昨年のこのレースの勝ち馬ソロウ(牡6)が、レース10日前に外傷を負い回避。本命不在となった中、英国のオッズで2.75倍の1番人気に推されたのが、今年に入ってメイダンでG3ドバイミレニアムS(芝2000m)、G1ジェベルハタ(芝1800m)をいずれも最後方一気の競馬で制していたトリスター(セン5、父シャマーダル)。3.75倍の2番人気が、当初はG1ドバイワールドCに出走を予定していたところ、ソロウの回避でこちらに矛先を向けてきた、G3ローズオヴランカスターS(芝10F95y)勝ち馬インティラーク(牡4、父ダイナフォーマー)だった。

 日本から参戦のリアルスティール(牡4、父ディープインパクト)はと言えば、オッズ9倍の4番人気で、日本人の目から見ると予想外の低評価となったのは、おそらく15頭立ての14番という外枠を引いたことが要因であろう。しかし、メイダンの1800mコースは、向こう正面右手にある引き込み線が、周回コースに合流する少し手前にスタート地点があり、3コーナーまでの直線が800mほどある。すなわち、馬に巧く立ち回る脚があり、それを引き出す技量がある騎手が手綱をとっていれば、致命傷にはならないのがメイダン1800mの外枠である。

 鞍上の名手ライアン・ムーアは、レースの入りは“馬なり”ではなく“馬を促しつつ”になったものの、強引に内に切れ込むことはせず、ジワジワと態勢を作っていった。なかなか前に馬を置くことが出来なかったが、3コーナーに入る手前で4〜5番手外目に馬を落ち着かせることが出来た。

 ところが、脚を溜めているように見えたのも束の間で、3〜4コーナー中間付近でムーアの手が動き始めた時にはヒヤっとしたが、直線に向くとリアルスティールは伸びた。それも、一気に弾けるといった伸び方ではなく、ムーア騎乗の際によく見られる、追えば追うほど加速がつくといった雰囲気でグイグイと脚を伸ばし、残り1F付近で先頭へ。一昨年のG1ビヴァリーディーS(芝9.5F)勝ち馬で、前走G2バランチーン(芝1800m)2着のユーロシャーリーン(牝5、父マイボーイチャーリー)がゴール前で脚を伸ばしたが、これを半馬身退けてリアルスティールが優勝。単勝オッズ9倍は、私たちから見ると非常においしい馬券だったと思う。



ドゥラメンテが秋のフランスで雪辱を期す機会を心待ちにしたい

 第8競走として行われたG1ドバイシーマクラシック(芝2410m)は、発走前にアクシデントが起こった。馬場入場を終えた段階で、ドゥラメンテ(牡4、父キングカメハメハ)が右前脚の蹄鉄を落としていることが判明。1頭だけ待避馬房に引き返したものの、結局新たな蹄鉄を履くことなく、右前脚は裸足のままレースに臨むことになった。

 馬が興奮して新たな蹄鉄を打たせなかったのか、馬のテンションが上がることを憂慮して敢えて打ち変えないことにしたのか、待避馬房にいる間の事情は不明だ。片足が裸足であることがパフォーマンスに影響しないわけがないが、一方で、本馬場に戻ってきた時のドゥラメンテに過度にイレ込んだ様子は見えず、精神面で発馬前にレースが終わった雰囲気は見られなかった。

 典型的な逃げ馬がいなかった中、鞍上が手を動かして先手を取ったのは、ライアン・ム−ア騎乗のハイランドリ−ル(牡4)だった。こちらも一瞬行く気を見せた武豊騎乗のワンアンドオンリー(牡5、父ハーツクライ)が好位に付け、その後ろに英国のオッズで1.8倍という圧倒的な1番人気に推されたポストポーンド(牡5、父ドゥバウィ)。ラストインパクト(牡6、父ディープインパクト)とドゥラメンテは中団より後ろでレースを進めることになった。

 まるで前哨戦のG2ドバイシティオヴゴールドのVTRを見るように、直線に向くと楽な手応えで先頭に立ったのがポストポーンド。これを必死に負ったのがドゥラメンテだったが、差は詰まらず、ポストポーンドが優勝。2馬身差2着がドゥラメンテで、最後に追い込んだラストインパクトが3着。4着ハイランドリールを挟んで、ワンアンドオンリーが5着だった。

 落鉄がなかったら勝っていたかという“たられば”を言っても意味はなかろう。前哨戦を楽勝しての参戦だった、欧州12F路線の最高峰の1つであるG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝12F)勝ち馬の2着というのは、充分に評価できる結果である。そして幸いにして、ドゥラメンテには雪辱を期す機会が残されている。その舞台となる秋のフランスを、心待ちにしたいと思う。



カリフォルニアクロームの強さに改めて畏怖を感じた

 そして、最終競走として行われたG1ドバイワールドC(d2000m)。5頭出しの大攻勢をかけた北米勢の中でも1頭抜けた強さを発揮したのが、カリフォルニアクローム(牡5、父ラッキープルピット)だった。

 管理するアート・シャーマン調教師がレース前から「1年前より5馬身は強くなっている」と豪語していただけに、人気もこの馬が抜けた本命に推されるかと思ったのだが、英国のオッズでは、G2アルマクトゥームチャレンジ・ラウンド2(d1900m)を5馬身差で制しての参戦だったフロステッド(牡4、父タピット)とカリフォルニアクロームが、オッズ2.875倍で横並びの1番人気となった。これはおそらく、カリフォルニアクロームが12頭立ての11番という外枠からの発走となったせいであろう。

 鞍上のヴィクター・エスピノーザが、スタートから馬を出して行く形で好位を取りに行ったが、だからと言って馬が気負うわけではなく、3番手につけるとピタリと折り合う操作性の高さを発揮。5歳を迎えて競走馬として完成した姿を誇示することになった。それでも、終始3頭分は外目を廻らされる競馬を強いられながら、直線では力強く伸びて、2着以下に3.3/4馬身差をつける快勝。勝ち時計の2分1秒83は、従来の記録を1秒以上縮めるトラックレコードだった。

 更に驚いたのは、馬を止めはじめたエスピノーザ騎手の鞍が大きく後ろにずれていたことで、大きな事故にならなかったことを安堵するとともに、まともだったらもっと強烈なパフォーマンスになっていたかと思うと、カリフォルニアクロームの強さに改めて畏怖を感じた。

 2着に入ったのは昨年のG2UAEダービー(d1900m)を8馬身差で圧勝した実績のあるムブタヒッジ(牡4、父ドゥバウィ)だった。今季はここまで、G3ファイアブレークS(d1600m)が5着、前走G1アルマクトゥームチャレンジ・ラウンド3(d2000m)が4着と、今一つ精彩を欠く競馬を続けていたが、管理するマイク・ドゥコック師がレース前に、「ここへきてようやく馬が良くなってきた」と語っていた通りのパフォーマンスとなった。

 3年連続の参戦となったホッコータルマエ(牡7、父キングカメハメハ)は、後方馬群から伸びずに8着に終わった。今年の顔触れは、前年よりも遥かに分厚かっただけに、致し方のない結果であった。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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