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ウオッカの近親タニノセレナーデ ぬくもりある手作り牧場での日々/動画

  • 2016年04月05日(火) 18時01分

あまりの美しさに一目惚れ


 桜花賞の季節が巡ってきた。心に残る桜の女王は何頭かいるが、中でも昨年3月3日に27歳で亡くなったシスタートウショウの美しい栗毛の馬体は印象深い。シスタートウショウが桜花賞を制してから13年後の2004年に女傑ウオッカが生まれた。

 ウオッカはシスタートウショウの全姉エナジートウショウの孫にあたる。前哨戦のチューリップ賞を完勝したウオッカは、1番人気で桜花賞に臨んだものの、ダイワスカーレットの前に2着と敗れている。その後、ウオッカは日本ダービーへと駒を進め、男馬たちを蹴散らしてトップでゴールイン。牝馬としては 64年ぶりとなるダービー制覇を成し遂げた。

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▲64年ぶりに牝馬でダービーを制し、歴史に名を刻んだウオッカ(撮影:下野雄規)


 歴史に残る名牝ウオッカの近親にあたるタニノセレナーデ(牝6)を、リバーサイド牧場という乗馬クラブのホームページで偶然見つけたのは、今から1か月前だった。クラブでの名前はSerena(セレナ)。ホームページ上の写真を見ると、流星の形は違うけれども、どこか品のある表情はウオッカと似ている。

 netekiba.comのタニノセレナーデの掲示板を覗くと、コメント数も多く応援していたファンが多いこともわかった。是非会ってみたいという思いを膨らませて、埼玉県吉見町のリバーサイド牧場を訪ねたのは4月3日だった。

 タニノセレナーデは、2010年4月29日に新ひだか町のカントリー牧場に生を受けた。父はストーミングホーム、母タニノエクセレントはウオッカの3歳上の半姉にあたり、谷水雄三氏の所有馬として地方の兵庫競馬で19戦7勝という成績を残して繁殖牝馬になった。彼女の4番仔として生まれたのが、タニノセレナーデである。

 栗東の岡田稲男厩舎から2012年11月にダート1400mの新馬戦でデビューして2着となり、初勝利は間近かと思われた。しかし意外にも時間がかかり、デビューから10戦目の2013年8月のダート1700m戦で、未勝利から脱出している。500万条件に昇級した後は3着が3回あるものの、2つ目の勝ち星には手が届かないまま、2015年6月13日のレース(9着)を最後に競走馬登録が抹消された。

 乗用馬として売りに出ていたタニノセレナーデの写真を目にした瞬間、そのあまりの美しさに一目惚れしたのが、彼女が今暮らしているリバーサイド牧場オーナーの堀口教さんと兄の堀口克義さんだった。早速タニノセレナーデを購入すべく、繋養先の牧場を訪れたのは昨年12月のことだ。

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▲タニノセレナーデ(現セレナ)と一緒に。向かって左が牧場オーナーの堀口教さん、右が兄の堀口克義さん


 克義さんが跨ってみて感触が良かったために購入を決め、長野県から埼玉県まで運んできた。前の牧場時代に日産リーフのCMにも出演した経歴のある美しいその牝馬は、2015年12月13日にリバーサイド牧場の一員となり、馬名もセレナになった。けれども、現役引退から数か月しか経っていないセレナは、何かあると人を乗せたまま飛び跳ねてしまうため、現在、インストラクターに出張してもらって乗馬としての調教中だという。

「実はこの馬を飼いたいという気持ちが強くて、性別を確認していなかったんですよねえ。帰りの車の中で牝だと気づきました(笑)。牝馬は結構難しいですからねえ」と克義さんは苦笑いしていたが、それでもセレナが可愛い娘であることには変わりはない。

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▲堀口兄弟が一目惚れした、美しいタニノセレナーデ


脱サラして乗馬施設を開設


 堀口家で最初に馬を飼い始めたのは、2013年10月だ。その年の3月に長野県の牧場で教さんと克義さんは自馬を共同購入して、たびたび乗馬を楽しんでいた。

「長野県に通い続けるのも遠いですし、とうとう10月には自馬を自宅に連れてきてしまいました」(教さん)

 その馬がトロッターのJimmy(ジミー・セン7)。「地味だからジミーなんです(笑)。前の牧場からの名前でしたけど、名前の通り他の馬にいじめられて餌を取られたりして、地味だったんですよね」(克義さん)

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▲地味だからジミー!? 牧場開設前からいる馬でとても従順


 リバーサイド牧場に来てからのジミーは、いじめっ子たちから解放されて、堀口さん一家やお孫さんたちを乗せる優秀な乗馬となった。今は脚を痛めてお休み中。1日も早い回復が待たれるところだ。

 自宅でジミーを飼い外乗を楽しむうちに、外乗を主とした乗馬施設を開設するという夢が膨らみ、一気に実現へと突き進んだ。

「2014年3月に脱サラして、4月1日からオープンに向けての準備が始まりました」(教さん)

 克義さんと協力して、着々と準備は進められた。洗い場も、クラブハウスも、馬場もすべてが手作り。水桶の水は少なくなると自動的に供給されるように、わずかな費用で工夫して作った。

 中間種のDambo(ダンボ・セン15)とアパルーサのMaxim(マキシム・セン7)の2頭も、オープンに向けて2014年4月に仲間に加わった。昨年10月には、サラブレッドのKing(キング・セン11)も一員となったが、同馬は血統不詳であり、競走馬として走っていたかどうかは残念ながら不明だ。

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▲中間種のダンボ 元気だけど少しシャイな性格


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▲アパルーサのマキシム 優しくて牧場オーナーのお孫さんが乗っても大丈夫


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▲穏やかな性格のキング サラブレッドだが競走馬として走っていたかは不明


 2014年にオープンして今年で3年目となるリバーサイド牧場だが、当初見込んだ外乗よりも、馬場で練習をしたいというお客が多いらしい。けれどもお米や野菜や果物栽培の農業部門もある牧場の敷地内には田んぼや畑、牧草地があり、その周囲をのんびりと歩いてプチ外乗気分を味わえるのが、ここの素晴らしいところだ。

 この日来場していたS.Nさん(50代主婦)は、熱心に通う会員さんの一人だ。「幼い頃から馬が好きでしたが、なかなか乗馬ができる環境にはなかったんですよね」(S.Nさん)

 それでも馬への憧れは失せることなく、子育てがひと段落ついて、ついに自宅からほど近い牧場で馬に乗り始めた。そこで1年ほど経験を積み、リバーサイド牧場に訪れてすぐ会員になった。やがてご主人も会員となり、夫婦で牧場を訪れては馬と触れ合ったり、騎乗したり、堀口さん兄弟と談笑して、有意義な休日を過ごしていくそうだ。

「馬と触れ合うのも良いですけど、乗るともっと楽しいですよ」と、S.Nさんはリバーサイド牧場での乗馬にすっかりはまっているが、馬以外にも会員さんがこの場所に通いたくなる理由がある。

「会員さんには、ウチで採れた農作物を安く提供しています」(堀口教さん)
「秋になったら柿がたくさんなりますし、桃も採れます。ここは何でもあるんですよ」(S.Nさん)

 セレナたちの馬糞が肥料として有効利用されて、おいしい作物ができる。お米も美味で一般向けに販売もしているとのことだ。

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▲リバーサイド牧場入り口


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▲自宅に隣接した厩(うまや)、馬場も含めて施設はすべて手作り


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▲このあたりがもう少しすると田んぼに。田んぼの周りも馬に乗って歩け、収穫したお米の販売も


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▲外乗コースにもなっている牧場そばの荒川河川敷 今の季節は菜の花が満開


 珍しくこの日は午後から予約がなく、セレナを軽く放牧した後に克義さんが騎乗して見せてくれることとなった。装鞍してまずは脚慣らしに丸馬場へ。ところがセレナが何かを見つけて立ち止まった。視線の先を追っていくと、数十メートル離れたところにある木の枝に白い風船が引っ掛かっていた。フワフワ不安定に揺れる風船の動きにセレナはすっかり気を取られ、ややイレ込み気味になったが、教さんが風船を取り外すとすぐに落ち着きを取り戻した。

「危険があってはいけないので、河川敷を行く外乗ではサラブレッドは使わないことにしました」と克義さんが話をしていたが、風船を気にした時のセレナの様子は、サラブレッドらしい繊細さ、敏感さを垣間見た気がした。

 普段のセレナに戻ったことを確認した克義さんは、丸馬場を出て牧草地と丸馬場の外を速歩で進む。「最近はだいぶ跳ねなくなってきました」という克義さんの言葉通り、セレナは軽快な脚取りで真面目に周回した。

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▲木の枝に引っ掛かった風船に気を取られるも、その後は軽快な脚取りで真面目に周回


 騎乗を終え、洗い場へと戻ってきたセレナの体を改めて観察すると、首筋から肩のあたりにかけて細かい白い星(白い差し毛)がたくさん点々としていた。タニノセレナーデの掲示板にもその特徴を書き込んでいる方がいるように、これがセレナのトレードマークなのだろう。

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▲首のあたりに目立つ星(白い差し毛)がたくさん、これがセレナのトレードマーク


 流星が走る顔は美しく、歩く姿も、克義さんを乗せて速歩をする姿も、洗い場に立つ姿も、すべてに気品が漂っていて、さすがにシスタートウショウや、ウオッカと同じ血筋だけあると思わずうっとりしてしまう。堀口さん兄弟が一目惚れしたのも、十分理解できた。

 セレナは乗馬としての訓練はまだ途上だが、6歳という若さを考えても元気があるのは当然だし、年齢を重ねるにつれてもっと落ち着きも出てくるはずだ。会員さんにも喜ばれる素敵な乗馬に成長していくことだろう。キジやイタチ、たぬきも出没するというのどかな土地で、優し気な教さんと笑顔の克義さんに挟まれたセレナの表情は満足気だった。



※タニノセレナーデ(セレナ)は、見学可です。

リバーサイド牧場
〒355-0112
埼玉県比企郡吉見町丸貫652-1
電話  090-1698-9484
メール horiguchi.o@e-ml.jp
URL:http://www.bokujo.org

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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