スマートフォン版へ

売上げ好調の先を見据えて

  • 2016年04月08日(金) 18時00分


◆先の一手を模索しておくことが必要

 2015年度の地方競馬開催成績(速報値)が地方競馬全国協会から発表された。総売得額の4310億2738万3030円は前年比111.1%で、4000億円を越えたのは2003年度以来とのこと。

 主催者別で見ると、岩手以外すべてが総売得額、1日平均ともに前年度を上回っている。岩手で前年度より下回ったのは、前年度にJBCの開催があったためで、予算額はクリアしている。地方競馬もネットでの発売が5割を超えるようになって、JBC開催の発売額はそれほど大きいものになったともいえる。

 2003年度といえば、中津、益田、新潟(三条も含む)はすでに廃止されていたが、上山、栃木(足利、宇都宮)、高崎、福山、荒尾はまだ健在だった時代(といっても、主催者によっては廃止が検討されはじめていたが)。その後、それらの競馬場が廃止される中で売上げはさらに落ち込み、2011年度には3314億円余りまで落ち込んだ。まさに震災のあった年で、そこから4年で目覚ましい上昇を見せたことになる。

 ちなみに2015年度の1日平均の売上げは3億3464万8600円で、前年比では111.6%。1日平均で3億円を越えたのは1994以来のことで、当時は年間の総売得額がまだ7320億円余りもあった。“地方競馬30場”と言われていた時代のことで、それが今は14場となって、いい意味でも悪い意味でも競馬場が淘汰され、しかしネット発売全盛の時代となって、残った競馬場に売上げが集約されることになった。

 近年の売上げアップは、2012年10月にスタートした『地方競馬IPAT』(JRA-IPATでの地方競馬の発売)によるところが大きいが、今のところ地方競馬IPATでの発売が行われていないばんえい競馬の売上げも回復していることから、ネット投票全体が定着して売上げが伸びているということもいえそうだ。

 ファンの世代交代によってネット投票はまだしばらく伸びる可能性はあるものの、それも永遠ということではない。好調のうちにその先の一手を模索しておくことが必要だ。

 実は地方競馬のいくつか主催者では、それで苦い経験をしている。地方競馬は、地方競馬全国協会が設立された昭和37(1962)年度以降、順調に売上げを伸ばしていたが、昭和56(1981)年度に前年比で売上げがマイナスに転じると、昭和60(1985)年度まで落ち続けた時期があった。バブルが起こる前の不況の時期だ。この頃、いくつかの主催者で廃止が検討され、実際に和歌山県の紀三井寺競馬場は売上げが改善されないとして昭和62(1987)年度限りで廃止となっている。しかしその後にやってきたバブル景気によって馬券の売上げも急激に回復したため、廃止は紀三井寺だけにとどまった。

 この頃、実際どこで何があったかを書くとそれだけでたいへんな分量になるので具体的な説明は避けるが、ようするに1980年代に困窮した主催者ではさまざまに改善策が検討されたものの、しかしその後に訪れたバブル景気によって、何もしなくても馬券が売れる時代が来てしまったことが不幸のはじまり。その後のバブルの崩壊によってそのツケがまわってくることになる。それが、2001年の中津競馬にはじまる廃止の連鎖だ。

 地方競馬で広域場間場外発売が初めて行われたのは、1996年8月15日のブリーダーズゴールドC(旭川)を南関東で発売したときだったと記憶しているが、実は1980年代の馬券が売れなかった時期にも、地域間での場外発売が検討されたことがあったという話を聞いた。実際には2000年代に入ってもまだまだ場間場外発売は限られたもので、それをもっと早い時期に実現していれば、2001年以降の廃止の連鎖は、ひょっとすると限定的だったかもしれない。

 そして今、場外発売やネット投票については、ほぼやり尽くしたという状況。あるとすれば、民間委託の小規模な場外馬券施設を増やすということくらいか。

 競馬場や場外施設でのファンサービスということでも、以前では考えられなかったほど充実してきている。それで思うのは、馬主を増やすことはもっとアピールしていいのではないか。

 日本での軽種馬(アラ系も含む)の生産頭数は、1990年代には13,000頭近いところまで増えたものが、昨年はその約半分の6,732頭にまで減ってしまった。馬券は売れても馬が減れば開催が成り立たなくなる。馬を増やすには生産者もそうだが、まず馬を買ってくれる馬主が増やす必要がある。地方競馬は1頭の馬を20人まで共有可能で、1/20の所有なら負担もそれほど大きいものではない。馬主が増えて競馬場に来れば、その友人を連れてくるなどファン拡大にもつながることは間違いない。馬主の拡大策は今以上に大々的に行われていいのではないか。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング