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史上もっとも厳しいペースで飛ばしての逃げ切り/NHKマイルC

  • 2016年05月09日(月) 18時00分


これからはマイルにとどまらない距離も

 4月の桜花賞につづいて圧倒的な支持を受けた牝馬メジャーエンブレム(父ダイワメジャー)が、今回は思い切り良くレースを進めた。最初から主導権をゆずらず、レース史上7番目の高速タイム1分32秒8で快勝した。

 これで、東京芝1600mのG1を逃げ切って勝ったのは、1984年のグレード制導入後、5例目になる。東京のマイル戦は、飛ばしてもダメ、スローにしすぎてもダメなことで知られる。

▽1988年 安田記念 ニッポーテイオー「47秒0-47秒2」=1分34秒2
▽2012年 NHKマ カレンブラックヒル「47秒3-47秒2」=1分34秒5
▽2014年 NHKマ ミッキーアイル「46秒6-46秒6」=1分33秒2
▽2014年 Vマイル ヴィルシーナ「46秒2-46秒1」=1分32秒3
▽2016年 NHKマ メジャーエンブレム「46秒0-46秒8」=1分32秒8

 例外なく、前後半のバランスを失わない「一定ペース」に持ち込んでスピード能力の優秀性を生かしたときに、数少ない逃げ切りが成立する。近年になって逃げ切りが増えたのは、もちろんスローペース化が関係する。強気に出るとき、緩みのない単騎平均ペースが可能になるからである。今年のメジャーエンブレムは前半800mの方が「0秒8」速いが、もちろんこの程度の前後半の差は、バランスラップの範ちゅう。馬場差を別にすると、前半46秒0は、史上もっとも厳しいペースで飛ばしての逃げ切り勝ちとなった。

 桜花賞でのあまりの不甲斐なさに、メジャーエンブレムには死角があるのではないか、などと大きな恥をかいてしまったが、優れた牝馬が全能力を出し切ってくれるほど好ましいことはない。

 こういう厳しい一定ペースで東京のマイルを乗り切れれば、2000mの天皇賞・秋を制した父ダイワメジャー、最後は有馬記念2500mを押し切って勝ったその4分の3妹ダイワスカーレットと同じように、これからはマイル戦にとどまらない距離の融通性を示してくれるはずである。桜花賞を勝っていたら、NHKマイルCではなく、次週のオークスだった可能性が高い。メジャーエンブレムの距離延長が、全体にパワーアップしてからの秋の課題になるのは正解かもしれない。

 いまやすっかり主流になった、レース後すぐにノーザンF天栄(しがらき、山元など)に戻って調整・再鍛錬を重ね、レースの直前にトレセンに戻り最終調整をこなしてレースに出走という「牧場→厩舎→牧場→」のローテーションは、JRAトレセンの厩舎と、牧場(民間トレセン)が一体にならないと、必ずしもスムーズにはいかないこともある。

「生産牧場、オーナー、調教師(JRA)、騎手(JRA)」の結びつきは、絶えず流動的な力関係に左右されるのは想像通りであり、今回は、あまりに物足りなかった桜花賞の凡走がみんなの反省となり、より密接な一体化というプラスを呼ぶことになったのだろう。

 2着に突っ込んだロードクエスト(父マツリダゴッホ)は、メンバー中最速の上がり「33秒8」を記録しての0秒1差。完敗に映った坂上から、ゴールでは4分の3馬身差に接近していた。クラシック路線では「距離もあるが、途中で動いては良さが生きない」と判断しての後方一気作戦なので、非常に惜しい差だが、今回は自身で1分32秒8のレースを作ったメジャーエンブレムのスピード能力が一枚上という結果である。ただ、今週の芝コースは明らかにイン有利だったから、なまじのびない中ほどのスペース狙いではなく、大外に回ったのは正解だった。

 春のG1を3度目の2着となった池添騎手は、今週のヴィクトリアマイルでは1番人気もあるショウナンパンドラ、次週は同じく1番人気確実のシンハライトに騎乗予定。同馬は桜花賞2番人気、ロードクエストも2番人気だった。今週こそ、か。だが、こういうのはファンは悩ましい。

 ロードクエスト陣営は、「日本ダービーも出走可能、安田記念は負担重量が魅力」。今回の体つきはギリギリだった印象もあるが、さっそく次をにらんで強気である。

 レインボーライン(父ステイゴールド)は、中団の外で巧みに流れに乗り、2ケタ人気馬が再三快走するNHKマイルCにふさわしく、12番人気で勝ち馬と「0秒1」差の3着。豊富なレース経験と、ステイゴールド産駒らしい勝負強さをフルに発揮した。快速マイラーというタイプではないから、直線でもっともつれるような混戦向きか。

 3番人気のイモータル(父マンハッタンカフェ)は、パドックに入った当初はチャカつきは少なかったが、休み明けで長い時間のパドックは鬼門。記念写真を撮るためにパドックに入る関係者の知人が増えて動き回るのも、我慢できない馬が良くないと言えばその通りだが、落ち着かない馬にとっては負担だった。馬場に先入れで入れ込みはおさまったが、この流れで好位追走は本質がスピード系ではないから、自身の5ハロン通過58秒1はこの馬にはハイペース。前半にスタミナを使わされてしまった。

 前日のプリンシパルSのボウマン騎手(アジュールローズ)は最高だったが、この枠順(3番)だから仕方がないものの、アーバンキッド(父ハーツクライ)は本当はもう少しタメを利かせたかった。テン乗りのG1は、ジョッキーはOKでも、馬にはつらいところがある。

 トウショウドラフタ(父アンライバルド)は、一段と切れを感じさせる馬体になっていたが、馬群をすり抜けるスペースを探せなかった。直線坂上、スパートしたいところで前が空かなかったから残念。近走は1400m中心だったが、マイルは十分に守備範囲である。

 4番人気のティソーナ(父ダイワメジャー)は、出遅れて前半に位置を取りに出たから、通過順以上にきつい流れだった。われらが愛すべきミルコは、各国のトップジョッキーに存在することが珍しくない哲学者然としたところはないから(そこがいいところでもあるが)、リズムが悪いときは全然ダメ。10Rのドコフクカゼが示すように、この日は【0-0-1-6】。朝からさえていなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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