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今週末イギリス・フランスで開催される3つのマイルG1展望

  • 2016年05月11日(水) 12時00分


ヨーロッパ古馬マイルG1サーキットの幕開けとなるロッキンジS

 今週末にヨーロッパで行われる3つのマイルG1を展望したい。

 まずは、14日(土曜日)にイギリスのニューバリーで行われるG1ロッキンジS(芝8F)。英国における芝平地シーズン最初の古馬G1で、ヨーロッパ古馬マイルG1サーキットの幕開けとなる一戦である。

 欧州最強マイラー・ソロウ(セン6、父シングスピール)が、ドバイ遠征直前に負った怪我が癒えずに回避。1強状態だった戦線の1強がいないここは、9日(月曜日)にあった登録ステージでエントリーを残した18頭のうち、実に13頭が、ブックメーカーの前売りで15倍以下のオッズにひしめくという大混戦模様となっている。

 そんな中、各社が4.0〜4.5倍のオッズを掲げて1番人気に推すのがリマート(セン4、父タギュラ)だ。

 昨シーズンの同馬は5戦し、G2パークS(芝7F)、G3パヴィリオンS(芝6F)に優勝。G1コモンウェルスS(芝6F)2着、G1ラフォレ賞(芝1400m)2着、G2サンディレーンS(芝6F)2着という成績で、連対率100%を記録している。成績を御覧いただければ一目瞭然だが、昨年の同馬は6〜7F路線の馬だったが、陣営は早くから今季のマイル路線転身を公言しており、その言葉通り、今季初戦にこのレースを選択することになった。母は10F戦の勝ち馬で、叔父にはハードルに転じて19F戦で勝ち星を挙げた馬もいるから、血統背景は距離延長に不安はなく、昨年並みのパフォーマンスが出来れば、確かに首位候補に挙げられる馬である。

 昨年のこのレースの2着馬で、今季初戦の前走G2サンダウンマイル(芝8F)を勝っての参戦となるトゥアモア(牡5、父アラカン)。この路線の重賞2勝の他、2歳時にはG1デューハーストS(芝7F)2着、3歳時にはG1ジャンプラ賞(芝1600m)4着の実績もあるコーディベア(牡4、父コーディアック)。昨年のG1ジャンプラ賞2着馬で、前走G2サンダウンマイルで2着となった後にゴドルフィンにトレードされたダッチコネクション(牡4、父ダッチアート)の3頭が、オッズ7〜9倍で2番手クループを形成。

 この他、前走G1ドバイターフ(芝1800m)でリアルスティールの2着だったユーロシャーリーン(牝5、父マイボーイチャーリー)。昨年7月、そのユーロシャーリーンを2着に退けてG1ファルマスS(芝8F)を勝っている他、G1ロスチャイルド賞(芝1600m)優勝実績のあるアメイジングマリア(牝5、父マスタークラフツマン)という、牝馬勢もスタンバイしている。マイル路線の新たな核となる馬が現れるか、それとも混戦模様に拍車がかかることになるのか、その行方に注目したい。

ロンシャンが改修工事のため今年は直線コースで行われる仏国ギニーズ

 翌15日(日曜日)に開催されるのが、フランスにおける牡馬と牝馬の3歳クラシック緒戦となるG1プールデッセデプーラン(=仏2000ギニー)とG1プールデッセデプーリッシュ(=仏1000ギニー)である。

 開催地のロンシャンが改修工事で閉鎖されているため、いずれも今年は、フランスにおける夏のマイル王決定戦G1ジャックルマロワ賞の舞台で知られるドーヴィルに移設して開催される。すなわち、例年なら周回コースで行われる仏国ギニーズが、今年は直線コースで行われるのである。

 牡馬のG1プールデッセデプーランは、ザラク(牡3、父ドゥバウィ)、ゼルザル(牡3、父シーザスターズ)の2頭に、現段階では未登録ながら12日(木曜日)の登録ステージで3万9600ユーロ(約485万円)の追加登録料を払って出走予定のザグルカ(牡3、父ガリレオ)を加えた三つ巴と見られている。

 08年の全欧年度代表馬ザルカヴァの4番仔となるのがザラクだ。現役時代、距離1600mのG1仏1000ギニーから距離2400mのG1凱旋門賞まで網羅しつつ、強烈な末脚を武器に7戦無敗の成績を残したザルカヴァだが、初年度産駒のゼルカザ(牝、父ダラカニ)、2番仔のザルカシュ(牡、父シーザスターズ)、3番仔のザルカー(牡、父ガリレオ)がいずれも競走馬としてデビュー出来ず、母としては失格の烙印を押されかけていた。だが、4番仔にしてついに母を彷彿とさせるレースを見せているのがザラクで、昨年10月にドーヴィルのメイドン(芝1600m)でデビュー勝ちを果たすと、シーズンオフをはさんで、今季初戦となったメゾンラフィットの条件戦(芝1600m)も勝って2連勝。ここは一気に相手強化となるが、この馬の潜在能力に期待するファンは多く、前売り市場での人気は高い。

 ザラク同様、2戦2勝の成績でここに臨むのがゼルザルだ。アルカナ10月1歳市場にて18万ユーロ(当時のレートで約2640万円)でジョアン殿下のアルシャカブレーシングに購買された同馬。デビューしたのは今年になってからで、3月にドーヴィルのメイドン(AW1500m)を6馬身差で制してデビュー勝ち。続くシャンティーの条件戦(AW1600m)も4馬身差で制しての参戦となっている。ザラク同様、強い相手と戦うのはここが初めてで、しかも芝のレースを走るのもここが初めてという、二重の障壁を乗り越えることが求められている。

 愛国のA・オブライエンが送り込むザグルカもまた、今年になってデビューを果たし、ここまでキャリア2戦という馬である。G3パークS(芝7F)勝ち馬チンツの3番仔で、凱旋門賞馬ソレミアの近親となるザグルカは、4月6日にレパーズタウンで行われたメイドン(芝8F)でデビューして3着と敗れた後、4月17日にナーヴァンで行われたメイドン(芝8F)を9馬身差で快勝。その段階で英ダービーの前売り上位人気に顔を出すことになったが、ダービーに向かう前にもう1戦したいとする陣営が、ここに矛先を向けることを決めたのである。いずれも未知の魅力にあふれた素質馬たちがどのような競馬を見せるか、戦線の先行きを占う上でも見逃せない一戦と言えそうだ。

 牝馬のG1プールデッセデプーリッシュは、愛国から遠征してくるアリススプリングス(牝3、父ガリレオ)を、地元の精鋭が迎え撃つ構図となっている。

 タタソールズ10月1歳市場にて55万ギニー(約1億80万円)で購買され、クルーモアグループの一員となったのがアリススプリングスだ。2歳時は7戦して2勝したが、G1BCジュヴェナイルフィリーズターフ(芝8F)2着、G1モイグレアスタッドS(芝7F)3着、G1チーヴァリーパークS(芝6F)4着と、G1では惜しい競馬が続いた。今季も、緒戦のG3レパーズタウン千ギニートライル(芝7F)3着、前走G1英千ギニー(芝8F)3着と「惜敗病」が続いているが、一方で、コースや馬場状態を問わず好走する安定感があり、馬券の軸としての信頼を得ている。

 地元勢は、キマー(牝3、父デインヒルダンサー)、ラクレソニエール(牝3、父ルアーヴル)、カムアライヴ(牝3、父ダンシリ)の「三本の矢」で、アリススプリングスを迎え撃つ態勢だ。

 3頭の中で実績最上位なのが、キマーである。アルカナ8月1歳市場にて、ジョアン殿下のアルシャカブレーシングに20万ユーロ(約2740万円)で購買された同馬。デビュー2戦目のロンシャンのメイドン(芝1700m)で初勝利を挙げると、次走はG1マルセルブーサック賞(芝1600m)に挑んで3着に好走。今季初戦となったシャンティーのG3ラグロット賞(芝1600m)を勝っての参戦となっている。

 一方、重賞競走での実績はないものの、ここまで5戦5勝という成績で来ているのが、ラクレソニエールだ。昨年7月にクラレフォンテンのメイドン(芝1400m)でデビュー勝ちを飾ると、クラオンの条件戦(芝1650m)、ドーヴィルのLRイゾノミー賞(芝1600m)、シャンティーのLRヘロド賞(芝1400m)をいずれも白星で通過して2歳シーズンを終了。今季初戦となった、3月20日にサンクルーで行われたLRラカマルゴ賞(芝1600m)も快勝しての参戦となっている。

 2戦2勝の成績でこの1戦を迎えるカムアライヴも、素質を高く評価されている1頭だ。ダーレーが生産しゴドルフィンが所有する同馬は、ニューマーケットのLRセヴェラルズS(芝10F)勝ち馬ポートレイヤルの5番仔。昨年10月にドーヴィルの周回コースを使った芝1600mのメイドンでデビュー勝ちを飾ると、今季初戦となったメゾンラフィットの条件戦(芝1600m)も勝っての参戦となっている。

 上位人気馬たちが、それぞれ異なったプロフィールとキャラクターを持つだけに、仏1000ギニーも興味深い戦いとなりそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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