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「やっぱり走る」というムードが戻ってきたフランケル産駒

  • 2016年05月18日(水) 12時00分


「フランケル産駒大丈夫か?!」という空気が競馬サークルの一部にはあった

 いささか大仰な言い方をすれば、世界の競馬関係者の目が集まる中で行われたのが、13日に英国ニューバリー競馬場で行われた開催の第2競走に組まれていた、芝6Fの2歳メイドン(新馬戦)だった。このレースに、今年の2歳が初年度産駒となるフランケルにとって、出走馬第1号となるクンコ(牡2、J・ゴスデン厩舎)が出走してきたのである。

 競馬ファンの皆様には改めてご説明するまでもなかろうが、現役時代に14戦14勝の成績を残したスーパーホースがフランケルである。6FのG1を勝てるほどのスピードで、10Fを駆け抜けたのがフランケルで、4歳6月にロイヤルアスコットのG1クイーンアンS(芝8F)を11馬身差で制した一戦と、4歳8月にヨークのG1インターナショナルS(芝10F88y)を7馬身差で制した一戦で、ともにレイティング140を獲得。過去のレイティングが見直されて下方修正されたこともあって、公式ハンディキャッパーたちも「史上最強馬」と認定したフランケルだった。

 種牡馬フランケルはきっと、競走馬フランケルと同等の仕事をしてくれるはず、すなわち、今後の世界の馬産を牽引する役割を果たしてくれるはずと誰もが信じ、期待がはちきれんばかりに膨らんだ中、13年春にニューマーケットのバンステッドマナースタッドで種牡馬入りした同馬の、待望の初年度産駒が生まれたのが14年の春だった。

 種牡馬の中には、父親にそっくりな子供ばかりを出す馬もいて、そういうタイプの方が種牡馬としては成功すると言われているのだが、フランケルの初年度産駒は生まれた当初、どちらかと言えば母親似の仔が多く、言葉を変えれば様々なタイプの子供が出来ているというのが馬産地における評判だった。

 これが、生まれて1年が経過すると、最初は細かった仔もだんだんと重量感を増していき、父親を彷彿とさせるボリューム感を持つ産駒が過半数を占めるようになってきた中で迎えたのが、昨年の1歳馬市場で、欧州の主要なセールに25頭のフランケル初年度産駒が登場。ゴフスオービーセールに上場された母アレグザンダーゴールドランの牝馬が170万ユーロ(当時のレートで約2億2900万円)で購買されたのを筆頭に、16頭が平均価格48万6914ギニー(約9330万円)で購買されるという、驚異的な売れ行きを示したのだった。

 ところが、だ。初年度産駒たちが実際に厩舎に入って本格的な調教が始まると、厩舎筋からはポジティヴとは言いがたい反応も聞こえてきたのだった。いわく、「やっぱりフランケルの仔は、産駒にばらつきがある」、「フランケルの仔は総じて、仕上がりに手間取りそうだ」。

 期待が高すぎるゆえの懸念ではあったのだが、それでも、4月13日にニューマーケットで行われたタタソールズ・クレイヴン2歳ブリーズアップセールに上場された、母ノアーズアークという父フランケルの牡馬が、10万ギニー(約1630万円)という思わぬ廉価で購買されると、「まさかとは思うが、フランケル産駒大丈夫か?!」という空気が、競馬サークルの一部ではあったが、確かにはびこりだした中で迎えたのが、クンコのデビュー戦だったのである。

 馬主ドン・アルベルト氏が所有する繁殖牝馬クリザンテマムが、繋養されていたクールモアスタッドで、14年1月11日に出産したのがクンコだ。実を言えば、クンコはフランケル産駒の中で出生が一番早かった馬で、生まれた時にも「フランケル産駒第1号誕生」として大きなニュースになったことを、ご記憶の方もおられると思う。G3パークS(芝7F)、G3パークイクスプレスS(芝8F)を制した他、G1愛プリティポリーS(芝10F)3着の実績を残した母クリザンテマムにとっても初めての産駒となるクンコは、15年のタタソールズ10月1歳市場に上場されたものの28万ギニーで主取りとなり、生産者であるドン・アルベルト氏の所有馬としてジョン・ゴスデン厩舎に入厩。順調に調整が積まれ、出産第1号の同馬が、出走第1号の役割も担うことになったのである。

 オッズ5.5倍の2番人気だったクンコは、前半は7頭立ての5番手で競馬をし、残り2Fを切った辺りで鞍上ロバート・ハヴリンのゴーサインが出ると、ギアを切り替えるのにしばし時間を要したが、トップスピードに乗ると父を思い出させる大きなフットワークでライバルたちを一気に呑み込み、最後は3/4馬身抜けて優勝。デビュー戦を白星で飾るとともに、父フランケルに産駒初勝利をもたらしたのだった。ハヴリン騎手によれば、「まだギアを数段隠し持っている」とのことで、同騎手は「7ハロンでも全然大丈夫だし、8ハロンも行けると思う」ともコメント。次走はロイヤルアスコットの距離7ハロンのLRチェシェイムSになる模様だ。

 種牡馬フランケルが極上のデビューを果たした翌日の5月14日、フランスのドーヴィルで開催されたのがアルカナ2歳ブリーズアップセールで、ここに上場番号70番として登場した父フランケル・母ローズボヌールの牝馬を巡って、欧州各国から参集した購買者たちによる激しい争奪戦が勃発。最終的にはカタールのジョアン殿下の代理人が、この市場としては歴代最高値で、今年の欧州2歳セールの中でも最高値となる、80万ユーロ(約9822万円)で購買している。欧州競馬関係者の間に、「フランケルはやっぱり走る」というムードが戻ってきたのである。

 日本でも、デビューを待つフランケル産駒が10頭ほどスタンバイしている。彼らが競馬場に登場する日が益々楽しみになったし、今後各地で展開されるPOG指名大会でも、フランケル産駒はおおいに人気を博することになりそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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