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スマイルジャックの次女誕生

  • 2016年05月21日(土) 12時00分


 スマイルジャック(牡11歳、父タニノギムレット)の2番目の仔が、5月17日に生まれた。今回も牝馬である。

「長女」を見に行ったとき記したように、スマイルは昨年4頭に種付けし、受胎したのが2頭。現時点で今年は種付けの申し込みがないので、スマイルの血を受け継ぐのは、この2頭だけになるかもしれない。

「次女」が生まれたのは、父の故郷でもある鵡川町の上水牧場。母はブーティー(牝11歳、父フジキセキ)。スマイルの母の父がサンデーサイレンスなので、この当歳はサンデーの3×3ということになる。

スマイルジャックの「次女」であるブーティーの2016(左)。鹿毛。生まれて4日目。5月20日撮影(以下同)。


「今、うちで一番走っている母系なんです」と、上水牧場代表の上水明さん。ブーティーの半弟には2009年の札幌2歳ステークスで2着になったモズ、13年の京王杯2歳ステークス2着のクインズハリジャンなどがおり、その下のベストティアーズやベストティアラなども期待馬だ。

 ブーティー自身は未出走に終わったが、それは、当歳のとき母馬に左目を蹴られ、視力のほとんどを失ったからだ。

上水代表(左)が片手を添えて放牧地から出すとき、耳を絞らせていた。「生まれた日からそうだったんです。利かん気が強いですよ」


 この仔馬は、上水さんがほかの馬の種付けのため不在だった間に、放牧地で生まれていたという。

「朝の7時に放牧に出したのですが、9時には生まれていたようです。このお母さんはいつも予定日より2週間ぐらい遅れて、しかも、毎回外で産むんです(笑)」

 ブーティーにとって本馬は6番目の仔だが、初めての牝の産駒である。

「これまで産んだのはみんなプリップリッとした仔だったんですが、この仔は馬体が薄い。スマイルジャックも当歳のときは幅がなかったので、似たのかもしれませんね」

 大きな流星は母譲りに見えるが、全体の雰囲気は、あまり母に似ていないという。

「性格がキツいところは同じです。ブーティーは、普段はおとなしいのに、ときどきキレる。スマイルジャックも生まれたばかりのころは本当にうるさかった。怖がりなところはありません」

カメラに興味を示して、鼻先をくっつけてきた。こういうときは耳を絞らず、可愛い顔のままだ。


 走っているときのバネや、ちょっとした動きの鋭さなどは、どう評価されているのか。

「まだちょっとわからないですね。生後1週間ぐらいで変わってくるので、それからいろいろ見えてくると思います」

 自身の母系のステイタスをさらに高める存在になるよう、いや、まずそうした存在を目指せる立場になるよう、無事に、健康に育ってほしいと思う。

「次女」と対面したあと、浦河の三好牧場を訪ね、「長女」に再会してきた。

 ラブインザミストの2016である。4月22日以来、ほぼひと月ぶりに姿を見て、女の子にこう言うのは申し訳ないが、逞しくなっていたので驚いた。

幅が出て骨格がしっかりし、元気一杯でありながら、精神的な落ちつきも感じられるようになった長女。


 上水さんも「長女」がどんな馬体なのか関心を抱いていたし、上の写真の三好悠太さんと妻の美穂さんも「次女」の様子が気になるようで、面白かった。

「上水牧場にいた次女、うるさいけど、ビビリじゃないですよ」と私が言うと、「じゃあ、うちのラブちびと同じですね」と美穂さん。

 悠太さんは、以前より広い放牧地に移った母仔のほうへと歩きながら、「人ずきがいいので、真っ先に向かってくるかもしれませんよ」と微笑んだ。

「人ずき」は、「人好き」と「人付き」の両方のニュアンスを合わせ持つ言葉のようだ。今後、馴致をするためにも、先々、鞍上の指示を受けとって走るようになるためにも、「人ずきがいい」ことは大切だ。

牧柵の間から、人間たちのいる外側に顔を出す「ラブちび」。


 母仔ともに、私が持った一眼レフに興味を示し、何度も顔を寄せてきた。だいたい仔馬が母馬のやることをまねするものだが、カメラの匂いをかぐように顔を近づけることだけは、母が仔をまねているかのようで、可笑しかった。いずれにしても、普段から、人と触れ合っていることがよくわかった。

 次に会うときは、どのように成長した姿を見せてくれるだろう。会ったばかりなのに、そればかり考えている。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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